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2021年春から2022年冬までの物語。益田ミリ「ツユクサナツコの一生」

1.5か月に1回ほど(書く人が5人いるのでずれていく)、北海道新聞の夕刊にまんがの紹介コラムを書いていますが、今回は「ツユクサナツコの一生」を取り上げました。web掲載はないのですが、原稿とは重複しないよう書いていきます。

「ツユクサナツコの一生」を読んでたいへん良かったというか心にくるものがあって掲載を決めたのですが、実は益田ミリ作品はあまり読んでいない。慌てて、「すーちゃん」シリーズや「お茶の時間」などを読みました。

「すーちゃん」シリーズ2作目の「どうしても嫌いな人」(幻冬舎文庫)、タイトルどおり、カフェ勤務のすーちゃんが嫌いな人についてえんえんと考察するというものです。「嫌いって/一体、なに?」から始まり、家にいるときはずっとそのことを考えている。

すごい。

自分だったら気分転換したり、何かほかの楽しいことをすると思う。が、すーちゃんはそこで流さない。ずっと考えてそのうちブレイクスルーに至る。

こうさん。

「とうてい真似できない...」と思って読んでいなかった益田ミリですが、「ツユクサナツコの一生」の前ではそんなちっさな文句は飛んでしまいました。

非常にすぐれた作品、ということを言いたいのですがそれは難しいのでまとめてみます。

2021年春から2022年冬までの物語である

コロナ禍ですね。読んでると、「うわ忘れてた」ということが出て来ます。今年5月に5類になってから、世の中ヒャッハーって感じで浮かれていて、辛かった時期のことは忘れがちですが、ああこういうこと考えていた、と思い出します。

主人公ナツコが描いているまんがが、まんがの中にはさまれる

主人公の日常と、そこで描かれたものを同時に読むことになります。作品中に主人公の気持ちが描かれたりもする(ナツコは本名で、ツユクサナツコはペンネーム)。

主人公ナツコが32歳

今連載を楽しみにしている作品に冬野梅子「スルーロマンス」があります。この作品の翠ちゃんとマリちゃんも32歳。ジェットコースター?なふたりと、コロナ禍のせいか毎日静かな生活を送っているナツコも32歳。でもどこか共通しているような気がします。

ナツコはそんなに悩まない

益田ミリのヒロインは、ベッドに寝転がってあれこれ考えます。この作品では、あれこれ考えたのちにやおら起き上がって「描くか」と、机に向かうところがとてもいい。ナツコは「することがある人」なので、そんなに悩まないし感情は作品を作り上げるなかで昇華されているように見えます。

まさかの展開

タイトルからだいたい察せられる展開で終わります。ノォオオオオオオオオーッツって気持ちです。そこが伝えたかったことなのか、それとも...これは何故こうしたのか、作者に直接訊いてみたい...というか、「何故に...」とずっと考えてしまう作品になっています。

試し読みができます。写真は本表紙ですが、その前に空の写真が挟んであったり、紐栞がついていたりと造本からも、これは気合が入っているというか作る側にとっても大事な本なのだな~と思わされます。

津村記久子さんも紹介されています。いやほんと。 

※アフィリエイトはやっていません。寂しいのでリンク貼ってます。今回は、記事の画像の入れ方を習得しました。


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