オリンピックと受験

高校入試が近づくと、運動部の顧問たちがソワソワし始める。中学で活躍した受験生が合格すると戦力がアップするからである。

「十年に一度の逸材がウチを受けるのだが・・」気持ちはわかるが公立高校にスポーツ優先で合格させる制度はない。幸い、彼女は合格した。小柄で華奢な子であった。「器械体操の選手が高校で重量挙げをするの?」と顧問に尋ねると「力で挙げるんやない、バネで挙げるんや」と答えた。

顧問の目は確かでインターハイを連覇、けれど、三宅宏実の持つ高校記録がなかなか抜けない。「抜けないね?」と私。「肩の骨の曲がる角度が少し足りないからな、今、そこを矯正しているところだ」と顧問、その言葉どおり卒業直前に記録を更新して二人一緒に進学した。リオ五輪で活躍した八木かなえである。

顧問たちとの話は楽しい。須磨友が丘高校はサッカー・駅伝・バレーと公立としては強豪のクラブが多いので、面白い話が聞ける。トップアスリートの戦っているレベルに感心することも多い。自己の指導理論を実践できる素材との出会いは運である。逸材にめぐりあえた指導者は唯一人の弟子のために全てを注ぎ込むのだろう。

私の趣味は受験指導。一点差で勝負の決まる大学入試はスポーツのようなものだ。効率的な受験体制を作り、入学生の能力からみて最善の進学実績をめざす。一人一人の合否に関心はない。受験先を指導することもない。生徒の人生は生徒が選択するものと決めている。

でも、彼女と顧問を見ていると、ああいう師弟も良いものだと思う。東京ではメダルを獲得してもらいたい。

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