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一六夜店

子どもの頃、七月になると一六夜店がにぎわった。綿あめ・アイスクリームのような食べ物・飲み物も楽しみであったが、人気は松田の魚屋の鉄砲による水玉落としと吉村の花屋のだるま落としである。成功するとくじ引き券がもらえ、それでくじを引く。券を手に入れるまでの技術とくじ引きのギャンブル性が上手く調和している優れものの遊びだった。

見ているだけでも面白いし、たくさんの観客がいるから撃ったり投げたりする方も力が入るというものだ。金魚すくいも技術が必要であった。カミソリで紙の輪を切る紙切りは、おっさんは簡単に切ってみせるのだが自分がやってみると成功せず、不思議な気持ちがした。

ヒヨコを買うにもギャンブルがあった。雄十円、雌百円と並んで「無鑑別」というヒヨコがいた。三羽で何十円かだった。おっさんが言う「雌が入っていれば大儲けや」。目をこらして三羽を選び育ててみるとみんな雄だった。餌代が負担になってきた頃、三羽はカシワ屋に引き取られて夕食のおかずとなった。それからしばらく、カシワを見ると吐き気がしたのは三羽の亡霊のせいか。

今になって考えてみると、食べたカシワは育てた三羽とは違う鳥のものだったろう。そもそも無鑑別のなかに雌は混じっていたのか、ヒヨコ屋にだまされたのではないかと残念に思う。こうした苦い思い出も含めて一六夜店は楽しかった。本町商店街六十年史によると、昭和23年「働く人々の憩いの場もないので夜店でもしては」という話し合いが私の家の二階で開かれたらしい。少し嬉しい記述である。

2016.07

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