鬼灯ランプ

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ジー、ジーと虫の鳴く音がする。辺りは薄暗くなってきて風が心地いい。
薄暗い道を一人歩く。この辺りは、住んでいる人が少ない。若い人は皆、都会に流れていくし、残った人は段々と歳をとって老人ばかり。サンダルをつっかけて適当な格好で出てきてしまったがもう少しちゃんとしてくれば良かったと少し後悔する。脇を流れる水路から静かに水の流れる音が聞こえる。薄紫に染まった空に、少しだけ変な速さで心臓が動く。大きな道路にくると左右を確認しながら渡る。けれど、車の通る気配はない。奇妙な静けさがそこにはあった。向かって右側にある木々がさわさわと音を立てる。
ポッとオレンジの明かりが目に入る。それは転々と暗闇に浮かんでいる。あたりをくるりと見渡すと何人かが連なって歩いている。一人が何かを取り出し、カチッと微かな音が聞こえたと思うとオレンジ色を明かりがともる。それがゆっくりと置くと両手を合わせた。オレンジ色がゆらゆらと揺れている。暫くシンとしていたが、ゆっくりと時間が動き出す。自分もゆっくりと歩きだす。雨が降っていたためか地面がぬかるんでいて、ぬちゃりとした感覚が足にまとわりつく。久しぶりに来たものだから、目的の場所がうろ覚えだった。転々と続くオレンジの光に誘われて歩いていくとまるで違う世界へきたような気持ちになる。こっちへ来いと誘っているようなそれにつられるように歩いていくと、びちゃりと片足が完全に水たまりにはまった。ハッとして辺りを見渡すと探していた墓の前だった。慌てて、手に持っていたビニール袋から蝋燭を取り出す。近くのお墓から火を貰い、ポッとオレンジ色になる。ろうそく立てに刺すとゆらゆらと炎が揺れる。
線香を何本か取り出して、ろうそくに近づけると白い煙が細く立ち上る。独特な匂いが鼻につく。静かに両手を合わせる。
ゆらゆらと炎が揺れている。ゆっくりと目を開けると次の場所へ行く。

誰かが灯した明かりが一つ、また一つと増えていく。その明かりを頼りに歩く。その後ろにふと誰かの気配を感じて後ろを振り返るがそこにはゆらゆらと揺れるオレンジ色の明かりが見えるだけ。
一つ、二つと増えていく。オレンジの明かりと黒い影。ザワリと風が吹き、木々が揺れる。
今日は、亡くなった人がこの世に帰ってくることが出来る季節。

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