グスタフ・クリムの帰郷 その4

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 一度はガレオンの騎士団と同道したのと同じ経路を、ハリエッタは夢中で馬車を走らせながら今一度たどっていく。
 追撃が気になるので闇雲に早駆けしていく。振り返ればあの狼がぴったりと後ろからついてきていた。追っ手の馬影はまだ見えてなかった。
「あまりに急ぎすぎると馬を潰してしまうぞ」
 狼が後方からこちら側に回り込んで来て、ハリエッタに忠告する。その言葉通りやがて馬にも疲労が出てきたのか、山道が峻険さを増していく以上にみるみるうちに速度が落ちていくのを知って、ハリエッタは手綱を緩めた。
 そもそもが館を飛び出してきた時点で夜も随分と更けていた。真夜中にはまだ少し間があったが、月明かりだけで駆け通すには曲がりくねった山道は先々の見通しも良いとは言えなかった。
 そんな折、行く手の街道に一頭の馬がとぼとぼと歩いているのが見えた。
「ミューゼル!」
 それは先に山中でハリエッタが置き去りにしてしまった、愛馬ミューゼルであった。ハリエッタがミューゼルを回収しようと馬車を止めると、狼が側に寄ってきて告げた。
「いっそ、馬車を捨てたらどうだ」
「え? 馬車無しでどうするのよ。まさか山を歩くの?」
「お前さんのその馬と、馬車を引いてきた馬で三頭だ。一人ずつ乗ればいい。それとも、親父さんや妹は馬には乗れないか?」
 そう問われて、ハリエッタは馬車が停まって様子を見に降りてきた父とエヴァンジェリンを見やった。父グスタフは不安そうな表情を見せてはいるが、気丈にも首縦に振った。
 問題はエヴァンジェリンだったが、ここに至っても悠然と構えているのだった。
「ミューゼルだったら前に何回か乗せてもらった事があるから、大丈夫でしょう。選り好みしていられるような場合でもないでしょうし」
 そういうと、馬車から鞄を下ろす。グスタフとハリエッタで馬車から馬を離し、その二頭の背に鞄を背負わせた。
 妹のいうように彼女をミューゼルに乗せ、残りの二頭に父とハリエッタでそれぞれにまたがった。
「でも、馬車を捨てたところで結局はどこかで追いつかれるんじゃないの?彼らの馬の方が軍馬だから脚が早いはずよ?」
「あんた達は、お姉さんを助けにヴェルナー砦に戻りたいんだろう? 連中もそれは分かっているはずだから、単純に街道沿いに追いかけて来るだろう。だがここで馬車を放棄して、足跡がここで途切れていたらどうする……? 俺たちが街道を外れたとなれば、連中も念のため山を捜索しないわけにも行かないだろう。地元の猟師しか知らないような林道やけもの道が無いわけじゃない事は連中も把握しているはずだ。多分連中が一番恐れているのは、あんたらが砦に寄らずに直接ファンドゥーサの駐留部隊に駆け込む事なんじゃないか」
「ファンドゥーサ……?」
「姉さんを助けるのに、自力で無理だとしたらどうする? 用心棒を雇うにしてもファンドゥーサ辺りまで行く必要はあるし、金がないなら官憲を頼るしかないだろうな。そこで経緯を明らかにすれば、クレムルフトでどういう扱いを受けたのかも事情として説明せざるをえないだろうな。そうなれば……」
「そうなれば、ヴェルナー砦への救援の兵はそのままクレムルフトまで足を伸ばすかもしれない。けどあのガレオンには、そうしてもらってはまずい事情がある……?」
「本気で君らを詐欺師だと思っている可能性も皆無じゃないがな。その場合はクレムルフトから君らを追い出したところで満足してくれればありがたいが。……ともあれ、ただ山を越えるだけなら何も街道だけが道じゃない。連中の方がそれはよくわかっているはずだから、あれこれ余計な事を考えてくれた方がこっちにとっては好都合ってものさ」
「だとして、私たちはどうすれば?」
 ハリエッタがそう質問すると、狼はそのまますたすたと街道から外れ、夜闇の山道へと分け行っていく。そこから先はけもの道ともつかぬ細い山道だった。どこに行き着くのかは狼を全面的に信用するより他になかった。
「心配するな。俺が案内してやる。悪いようにはしないよ」
 それはさすがに無茶だ、と反論したいところだったが、ハリエッタ達だけでガレオンの追撃を振り切る妙案があるわけではなかった。
 であるなら、黙って狼について行くより他に、ハリエッタ達には選択肢が無かった。

 一方、彼らを追うガレオン・ラガンについて言えば、狼の見立てもあながち遠く外れてはいなかった。
 クリム家一行がいくら馬車を早く飛ばしたところで、不慣れな山道を登る速度には限界がある。夜中じゅう駆け通すのも無理があったし、少なくとも向こう側のふもとに着くまでには追いついて身柄を押さえられるものとたかを括っていたのだ。
 だからこそ、山中で空の馬車を見つけた時は、その意味するところを図りかねた。
「あの方々はどこへいったのでしょう……?」
 途方にくれる配下の兵士に、ガレオンは苛立ちながら答える。
「さて。このままでは追いつかれると判断して、無謀にも山に入ったか」
「あの方々だけで山越えなど可能でしょうか?」
 詐欺師、とガレオンが断じたとは言え一度は領主代行が客として迎え入れた人々だから、部下達は追う身でありながらもあの方々、などという呼び方をする。それがガレオンを余計に苛立たせるのだった。
「あの狼だな。奴が余計な入れ知恵をしているに違いない。あやかしの分際で、あのような者どもを手助けして何の得があるというのだ」
「いかがいたしましょう? 結局は女性と老人です。どのルートを辿るにせよ、山を越えた街道筋に先回りして網を張っていればよいのでは?」
「道案内がいるのであれば必ずしも街道筋に出てくるとは限らぬ」
「しかし、この手勢で、夜も深いというのに山狩りというわけにも行きますまい。由緒ある名家の方々の御名を騙るとなれば由々しき事なれど、隊長もまさか生死を問わず地の果てまで追えとまではおっしゃいませんでしょうな?」
「うむ……」
「こちらで身柄を押さえられるに越した事はありませんが、それが叶わぬならばファンドゥーサの官憲にそのような輩が現れたので注意されたしと、一報文を送れば済む話かと」
 いちいち正論過ぎて、ガレオンはぐうの音も出なかった。詐欺師と断じて強引に追っ手をかけた事を、この部下は暗に諌めようとしているのかも知れなかった。
「……分かった。だがひとたびは我が父に刃を突きつけ盾にとるなどと狼藉を働いた連中だ。おめおめ取り逃がしては我が騎士団の名折れである。山狩りとは言わぬがせめて街道筋はしらみつぶしに探すのだ」
 そこいらの茂みに身を潜めているやもしれぬ、というガレオンの言葉に、部下は短く返事した。
 そうやって、ガレオン達は幾分慎重な足取りで街道を進んでいく。
 程なくして、彼ら騎士団がしばし止まっていた辺りに、脇道から姿を見せる馬影があった。馬が三頭、そして狼。
 そう、それは他でもない、ハリエッタ達だった。
「……どうやら行ったようね」
 ハリエッタは道の向こうを見やって胸を撫で下ろした。
 あのまま峻険な山道を行くも一つの選択肢ではあった。ガレオンらがともかくも山狩りをするというならそのまま山中に分け入っていくより他になかったが、彼らはそうせずに街道筋を行くという選択をした。ならば、ハリエッタ達も不必要に不慣れな山歩きをするいわれはなかった。
「それで、どうする? このままクレムルフトに引き返すという手もあるぞ?」
 狼がいう。この地も王国の外れには違いないが、さらに東へ行けばそのまま自由国境地帯だ。荘園にガレオンの手下が残ってはいるだろうが、クレムルフトで悶着を起こしさえしなければ無事逃れられはするだろう。
「でもそれは、私たちが本当にみじめな詐欺師紛いの者だった場合の話ね。姉さんをあのまま廃墟に残していくわけにはいかない」
「その通りだ。娘を何としてもあの砦から助けださねば」
 父グスタフもその言葉ばかりは毅然と言ってのけたのだった。
「よし。ではいこう」
 狼を先頭に、ハリエッタ一行はとにかく慎重に、先行するガレオンの追撃隊のあとを追っていく。
 後ろから追われるよりは、追う立場の方が気が楽ではあった。ガレオンら騎士達は、その行く手にはいないはずのハリエッタ達を追って、じりじりと街道を進んでいく。そこは街道として整備されてはいるものの、峠を越える旅の難所には違いなかった。馬車で後ろを気にしながらの旅程よりは随分と気が楽ではあった。
 だが必要以上に離れてしまうと今度は相手の動向が分からない。夜通し馬を走らせるのは職業軍人でもない一家にはなかなか辛いものがあったが、呑気に朝まで寝ているわけにも行かなかった。うつらうつらとしながらも馬の背にはどうにかしがみついていなければならなかった。ガレオン達がどこかでクリム家一行を追い越してしまった可能性に思い至って、引き返してこないとも言えず、その場合山中のどこかで鉢合わせしてしまうかもしれなかったのだ。
 次第に道は峠を越えて下りに差し掛かってくる。峠道は頂上のあたりがやはり狭矮かつ峻険で、次第になだらかな道になっていく。だがリヒト山のこの山越えの道は、ヴェルナー砦側からやって来て峠道に差し掛かってすぐが、つづらおりのちょっとした難所になっているのだった。
 一家の先頭に立つ狼は、時折斥候として先行していったかと思うと、ガレオンら騎士団の様子を伺っていたのだが、道がそんなつづらおりに差し掛かりはじめると、不意に思い切ったことを言い出すのだった。
「近道して、連中の前に出よう」
 恐らく彼らは峠を越えた向こう側で検問を敷いて、ハリエッタたちを待ち伏せするつもりだろう。とは言えそれをどこで行うかはガレオンの裁量次第で、確かにハリエッタ達にしてみれば彼らが網を張っているところにのこのこ進み出ていくわけにも行かず、むしろそうやって待ち構える体制を整える頃にはすでにその地点を通過出来ていればいうことはなかった。
 でもどうやって?
 ハリエッタが疑問に思ったところで、慎重に吟味しているような悠長な局面ではなかった。狼がそう言った時点でもう即断即決、次の瞬間には茂みをかき分けてけもの道のような側道に踏み入っていくのだった。
 ハリエッタは馬をいったん降りて、エヴァンジェリンの乗るミューゼルの背に二人でまたがった。エヴァンジェリン一人では難所で馬を御しきれないかも知れない、と思ったからだった。空いた馬の手綱は後続の父に託した。仮に一頭がここではぐれてしまったとしてもその時はその時だ。
 あとはただ、狼を信じてあとに続いていく。
 すでに彼方の空が白み始めていた。月明かりは心ともなく、一歩側道に入ってしまえば夜闇はますます深くなった。
 狼はこれでもあとに続くハリエッタらが通れそうなルートを選んでくれているのだろうが、それでも相当に肝を冷やさざるをえない道のりだった。岩場をさらさらと流れる沢に沿って、苔むした岩の上を順繰りに飛び移っているいくように一つずつ伝い進んでいく。馬が足を滑らせればそのまま斜面を滑落していく、そんな危険がずっとつきまとうルートだった。しかも狼はそんな斜面を勝手知ったる様子ですたすたと進んでいく。そのくらいの歩速でないとガレオン達に先んじることは難しいのかも知れず、表だって抗議の声を上げるわけにも行かなかった。多少危なっかしくとも、ここは大胆に無理を強いる局面であった。
 そんな岩場の斜面を駆け通した先、さらさらと流れていた沢が次第に小川と呼べる水量になってくると、一行はその河原沿いを駆け足で通り過ぎていく。やがて周囲を囲んでいたうっそうとした茂みから抜け、地面が平坦になっていくと、ハリエッタはついに山越えを終えたことを知った。
「連中は追い越せたと思う?」
「分からない。とにかく今は走るんだ!」
 狼を先頭に、ハリエッタ達は見通しの良い荒地をひたすらに駆けていく。
「ここまで来ればもう発見されようが追いつかれようが、なるようにしかならない。とにかくヴェルナー砦に駆け込むんだ」
 狼はいう。砦に駆け込みさえすればとにかくガレオン達の追撃はかわせたとみてよいだろう。だがハリエッタらにとってはそこがゴールではなく、姉リリーベルを奪還するためには、そこからが始まりなのだった。
 さて、一方のガレオンはと言えば、夜明けごろに山越えを終えて、ついにハリエッタ達一行に追いつくことが出来なかった。
 夜通しの行軍で疲弊していたせいもあっただろうが、ガレオンは苛立ちを隠しきれなかった。
「連中は一体どこへ消えてしまったというのだ」
「馬を潰す覚悟でひたすらに駆け通したか、あるいは山道に分け入って未だ山中のどこかに潜んでいるのか……」
 部下は問われるがままに思いついた可能性を並べてみたが、何を言ったところでガレオンの苛立ちが晴れるわけではなかった。
 ともあれ、ガレオンは部下達に街道を封鎖する指示を出した。周辺の巡回も命じはしたものの、よほど念入りな迂回路を取らない限りは一行は必ずその場所を通るはずと見越し、あとは彼らがすでにここを通過している可能性について、対処が必要であった。
「半分、俺についてこい」
「どうするのです?」
「取り敢えずヴェルナー砦までは様子を見に行ってみよう」
「……自分はそこが引っかかっているのです。彼らがクリム家の名を騙ったとして、何故ヴェルナー砦に身内を助けに行くなどという話を持ち出してきたのでしょう? 本当に救援の必要があるならば、別段身分を偽るまでもなく我らとて事情くらいは聞き入れもしますし、単に身分を偽って贅沢がしたかっただけなら、そのような厄介事を持ち出す必要もないのでは」
 そう所見を述べたところで、当のガレオンの不機嫌がまさにピークを迎えている事に気づき、慌てて口をつぐんだ。
 命令通り、半分は検問のためその場に残り、あとの半分はヴェルナー砦に向かって駆けていく。上官がいかにも不機嫌そうに無言を貫くと、部下たちも不要な私語は慎まざるを得なかった。
 やがて、進軍する彼らの行く手に馬影が見えてきた。やはりクリム家一行は先行したまま逃げ切っていたのか、だがそれもそこまでだ……と思ったが、どうやら様子が違っていた。
 明らかに、数が多い。
 クリム家の馬車は二頭立てだった。途中の山中でミューゼルを回収したことはガレオンは知らなかったが、それを含めたとしても馬影が幾重にも増えるいわれはない。ガレオン達騎士の前に現れたのは、向こうもきちんとした軍服に身を包んだ一団……そう、街道を反対側からやってきたのは王国軍の一部隊だったのだ。
 相手が王国軍の正規兵となれば私設騎士団であるところのガレオン達の方がどちらかというと曲者であり、氏素性をつまびらかにする必要がある。いずれにせよ、両者は街道のあちらとこちらから行き会い、そのまま両者進軍を止めて相対したのだった。
「われらはファンドゥーサに駐留する王国軍の騎馬隊である! そなたたちの氏素性を語られたし!」
「我々はこのリヒト山の向こう、クレムルフトからやってきた。クリム侯爵家所領を守護する騎士団である!」
「クリム侯爵家だって……?」
 先ほどの勇ましい口上の声とは別の、いかにも線の細い頼りなさげな声がおうむ返しに問い返してきた。
 王国軍の騎馬の一団から、一人ひょろりと背の高い年若い青年が騎馬のまま進み出てきた。伝令の者か何かかと一瞬ガレオンは思ったが、そうではないことをその青年が正騎士の軍服に身を包んでいるのを見て知った。
 青年は一人前に進み出てくると、ええと、と一つ咳払いをしてから、たどたどしく問いかけてきた。
「……今、クリム侯爵家と言いましたね? この先にあるクレムルフトの荘園というのは、クリム侯爵家の所領なの?」
「いかにもその通り。私は自警騎士団の団長の任を預かるガレオン・ラガンと申す者。クリム侯爵より領主代行の任を受け荘園を治めるコルドバ・ラガンはわが父になります」
「なるほどなるほど……。僕はタイタス・パルミナス。一応は王国軍の正騎士というのが肩書になっています」
「タイタス卿……?」
 タイタス家と言えば、ガレオンでもその名を聞いたことのある武人の名門だった。目の前にいる青年の姿からはとてもそんな印象は受けなかったが、こう見えても高名な名家の子息ということになるのだった。
「その若きタイタス卿が、なぜ駐留軍を率いてこのような場所に?」
「いや、話せば少し長くはなるのですが……僕は今現在の王国軍で、巡察官の任についておりまして」
「巡察官」
「ええ。各地の駐留軍を順に視察し、働きぶりに問題がないかを確認するのが僕の仕事です。……まあ実務はすべて有能な副官がやってくれてますんで、あなたのご想像の通り名誉職というか、名前ばかりの肩書なのは否定しませんけどね」
「いや、別にそのように思ったわけでは。……それで、その巡察官どのが、何ゆえにこのような場所に?」
「その前に、噂に聞くヴェルナー砦というのは、あの廃墟のことで間違いない?」
「いかにも、その通りですが」
「実は、ファンドゥーサで面白い噂話を聞きつけましてね。この砦の近くでは、たびたび怪異が目撃されていて、旅の商人だのが襲われて被害にあっているって。調べてみると、実際にそちらのクレムルフト領の方から、里まで行き来する行商人など旅人に被害が及ぶため怪異を討伐してほしい、という要請が過去に何度か寄せられていて、その都度書面の段階で却下しているというような次第だそうで。実際に被害が出ているのに何で却下したんだろう、って話をしていたら、気になるのであれば現地を視察に行けばよい、と副官から助言を受けましてね……」
「それで、実際にこちらにやってきた、と」
「そもそもクレムルフト領には王国軍の駐留がなく、あなたたち騎士団がいるとはいえそれでも何事かあれば、ファンドゥーサから駐留部隊が駆け付けることになるわけですけど、ファンドゥーサの部隊の規模を考えれば、クレムルフトまでが管轄というのは少し遠すぎるんじゃないかという話もあったんですよね。それで、ヴェルナー砦まで視察にいくのであれば、出動要請を受けて部隊を展開することになった場合を想定して、その部隊の移動にかかわる訓練をしておきたい、と部隊長からも申し出がありまして、こうしてわざわざ一個中隊が同行してくれることとなったという次第です」
「なるほど」
「それより、あなたがたこそどうしてこんな場所に? クレムルフトで何か事件でも?」
「それは……」
 ガレオンは渋々ながら、クリム家の名を騙る曲者を追ってきたのだというこれまでの経緯を説明した。そう断言して部下たちに追跡を命じた手前、今ここでそのことをはぐらかしては示しがつかない。
 だが、タイタス・パルミナスはガレオンの想定以上にその発言に食いついてきた。
「クリム家ということは、グスタフ・クリム侯爵ですよね? その方なら王都で一度ならずお会いしたことがある。何なら、その詐欺師とやらの真贋、僕が確かめて差し上げますよ」
 そのように人当たりのいかにも良さそうな笑顔を浮かべてのタイタス・パルミナスの申し出に、ガレオンは何故か眉間にしわを寄せて、渋面を見せるのだった。
 だがクリム家の面々を偽物と断定してここまで追跡して来たからには、これを拒む理由も建物も本来は無いはずであった。自分たちの上官は何を考えているのか……と部下たちがそわそわし始める中、パルミナスだけが何も疑うことを知らないのか、ただにこにこと笑みを浮かべるばかりだった。
 ガレオンはやむなく、これに応じるより他なかった。

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