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世界最大のAセクコミュニティ:AVEN

 こんばんは。夜のそらです。

 Aセクシュアルについてネットで調べたりしていると、必ずどこかで目にすることになる文字列………AVEN。
 いったい何なんだろう?? と思ってらっしゃる方は、Ace(Aセクシュアル当事者)の方にも多いのではないかと思います。そこで、今回はAVENを簡単に紹介する記事を書きました。
 ただし、以下の説明は「わたし(夜のそら)から見えているAVEN」の姿ですので、これが完全な説明でないことはご了承ください。

1.AVENとは

 最もシンプルに説明すれば、AVENは「世界最大のAセク当事者たちのコミュニティ(もしくは、そのコミュニティサイトを運営する団体)」です。
 AVENは、Asexual Visibility and Education Networkの頭文字をとったものです。あえて訳せば、「Aセクシュアルを可視化し、教育するためのネットワーク」です。なお、この略称「AVEN」は、 “エィヴァン” と読みます。
 AVENの創設者はDavid Jayであり、JayがAVENのWebサイトを立ち上げたときが、AVENの誕生のときです。それは、2001年のこと。まだ当時Jayは18歳だったということです。もちろん、その後のコミュニティを支えてきたのは、Jayだけでない当事者たちの努力によるものです。
(ちなみに現在のDavid Jayは、ある2人の成人とあわせて3人でパートナーシップ(トリオ)関係を結んでおり(その他の2人が法的に異性婚しています)、3人で暮らしながら、Jay以外の2人と遺伝的に繋がった1人の子どもを、3人で育てています。なお、Jayの性的指向はAセクシュアルのままだと思います(たぶん))。
 これからさらに、AVENのもつ3つの「顔」を紹介しますが、AVENそのもののWebサイトもありますので、URLを貼っておきます。英語が何となく読める方は、こちらから何となくの雰囲気を掴むことができます。

1.コミュニティサイトとしてのAVEN

 Ace当事者たちにとってのAVENは、何よりもコミュニティサイトのことです。ですからAVENは、構成員のはっきりとした組織ではなく、人々が集まる広場のようなものです。その広場は、先ほどのAVENページから入ることができる「Forum」にあります。ここは簡単に言えば「掲示板」です。
このコミュニティサイトとしてのForum(「広場」という意味です)が、AVENというネットワークの心臓部分にあたります。
 Forum(フォーラム)では、Aceたちが自分の経験を言葉にしたり、互いをエンパワしたり、情報共有をしたり、議論したりしています。ときどき、非Aceも議論に加わります。このForumで生まれた人間関係が様々な活動につながることもありますし、ここで議論された成果は、次第にコミュニティ全体にとっての共有知になっていきます。
 Aセクシュアル当事者が互いの存在を知る機会のなかった時代、このコミュニティサイトとしてのAVENの存在は革新的でした。語る言葉を持たなかったAceが言葉を獲得し、話す相手のいなかったAceが、語り合う仲間を見つけたのです。
 性的指向というアイデンティティとして確立された(現代版)Aセクシュアルは、そしてそのAceのコミュニティは、このForumなくしてはありえなかったでしょう。

 ただし補足しておくと、このForumには今や無数の(数千を超える)スレッドがあり、複雑に相互リンクが張られ、その全体をたどることは事実上不可能です。まるで密林。そのため、TumblrやTwitterで当事者がAVENのWebサイトを紹介するときは、「Forumはごちゃごちゃしてるから見ない方がいいよ」と補足することも多いです。
 ちなみに、このForumでアカウントを取得して「初めて書き込みます」という人がいたら、他の参加者は、思い思いのケーキの画像を貼って、新しい参加者を出迎えます。「セックスよりもケーキが好き」。Aセクシュアルコミュニティの合言葉ですね。

2.知の基盤としてのAVEN

 Forumがディープな密林だとすれば、AVENの「About Asexuality(Aセクシュアリティとは)」のページが、表の顔です。ここがリンクです。

 ここの「Aセクシュアリティとは」では、Aセクシュアルとは何か?という定義の説明から始まり、性的欲求がないってどんなこと??とか、Aceは恋愛しないの??とか、よくある質問への回答が紹介されています。Aセクシュアルについての基本的な知識が、ここには集約されています。
 ここに書かれていること、とくに「General FAQ」の項目は、先ほどのForumで議論され、共通認識となってきたものです。AVENは、当事者たちが自分たちのアイデンティティを探し出す、コミュニティ・アクティヴィズムの到達点を示す指標でもあるのです。
 そのため、この「About Asexuality」に書かれていることは、誰かが勝手に決めたこととか、誰か個人の意見とは少し性質が違います。それは、当事者全員ではないにせよ、コミュニティ全体の中で認められた考え方を示すものだからです。(もちろん、今後のコミュニティの議論次第で、ここは書き変わっていくでしょう。)
 もし、Aセクシュアルについて知りたいことがあったら、ここを訪ねましょう。Aセクシュアルについて誰かに知って欲しいと思ったら、このAbout Asexualityを紹介しましょう。この「表の顔」は、Aセクシュアルについて広く知ってもらうための、世界全体にとっての共有財産です。
 そういうわけで、このAbout Asexuality(「Aセクシュアリティとは」)は、Aセクシュアルについてのネット記事が書かれたり、研究者によって論文が書かれたりするときには、ほぼ必ず参照されます。「世界最大のAセクシュアルコミュニティであるAVENによれば、Asexualとは……のことである」という感じです。そういう意味で、AVENは、Aセクシュアルについての「知の基盤」となっているのです。

3.組織としてのAVEN

 これまで、コミュニティとしての顔、知の基盤としての顔、というAVENの2つの顔を紹介してきました。これらの限りでは、AVENは実体のある組織というより、当時者たちが集まるコミュニティと、その共有知を示すプラットフォームのようなものです。そして確かに、Ace当事者が思い描くのも、そうしたコミュニティとしてのAVENです。
 しかしAVENには、確固とした組織としての側面もあります。実際、HPを維持し、整え、サーバ契約をしている組織がなければ、上のコミュニティ自体が成り立ちません。またその組織は、研究者からの調査依頼の窓口ともなっており、外国のAceたちとの組織的なやりとりも担っています。以前には、Ace当事者調査もAVEN自身が行っていました。(現在はresearch部門はAVEN本体から切り離されています)。
 それだけでなく、AVENは様々なイベントを主催してもいます。今年(2019年)は、いずれも6月に、エジンバラとNYでAセクシュアル関連のイベントを開催していました。また、Asexual Awareness Week(AAW)という、Aセクシュアルについての知名度向上と啓発のための一連のイベントも、組織としてのAVENが支えている面が大きいと思います(詳しい内情についてはあまり知りませんが)。
 わたし(夜のそら)は、ただのAVENコミュニティの一員であり、組織としてのAVENとコネクトしたことはありません。でも、組織のなかで活動してくださっている方には、いつも感謝しています。

4.終わりに

 以上が、AVENのもつ3つの顔です。AVENがどういうものか、お分かりいただけたでしょうか??
 AVENは、謎の組織ではありません。それは、当事者が集まる、コミュニティそのものであり、コミュニティの知の基盤を提供する、私たちの返るべきホームです。もちろん、そのホームをやりくりしてくださっている組織としてのAVEN(そしてそこで汗を流してくださっている方)には、いつも感謝したいとこです。
 最後に、冒頭でも紹介したAVEN(そのもの)のサイトには、日本語の翻訳サイトがあります。にじいろ学校さんが運営している、AceLifeNaviに掲載されています。AVENの許可も得て翻訳しているようですので、参考にしてみてください。(https://acelifenavi.jimdofree.com/aceとは/aven日本語訳/)(※リンクがうまく埋め込めませんでしたすみません。) ところどころGoogle翻訳っぽい感じもありますが、翻訳してくださった方は、とても大変だったと思います。感謝です。

 これで、AVENについての説明は終わりです。英語圏のAceコミュニティなんて、日本に住んでいたらあんまり関係ないよ、と思うかもしれません。でも、現在の(性的指向としての)Aセクシュアリティについて語るための基本的な考え方や、コミュニティの活動スタイルは、まさにAVENとともに誕生し、AVENと共に発展してきました。AVENは、Aセクコミュニティの夜明けをもたらしたのです。ですから、みなさん知っておいて損はないかな、と思いました。でも、この記事の説明は、あくまでわたし(夜のそら)から見えているAVENの顔なので、もっといろんな顔を知っている人も多いと思います。あくまで参考程度に、ということでご理解ください。それに、今やAセクシュアルコミュニティは、AVENの外にも飛び出して広がっています。ですから、「AVEN主義」に陥らないように、気を付けたいですね。

 ちなみに、「知の基盤」としてのAbout Asexualityについては、大切なものは翻訳しつつこれから紹介していけたらと思っているので、お楽しみに!