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トチの実から栃餅を作るには、100日以上必要だった 〜第1話〜

先日、京都 美山町芦生(あしう)の「栃(トチ)の資源量調査」のことを書いたけれど、今日は、その続き。で「収穫したトチをどうするの?」編。

「芦生研究林内の資源調査の一環で採集したトチを活用し、地域に残る栃文化を伝承していくと共に、栃を活用した商品開発を行う」

文字にすると何とも仰々しいけれど、行政的にというか、背伸びをした表現をするとこんな感じ。

地域にあるトチとのつながりを絶やしたくないし、これからも良いお付き合いをするためにどうしたらいいか……を試行錯誤。その一環でのトチ加工。

さてトチ。採集したトチの実を、そのまま食べることができない。絶対に。思わず断言してしまったが最終形が「栃餅」であっても「栃羊羹」であっても、“拾う”と“食す”の間には、干す→へす→あわすという3工程が必須。

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※以下の方法は、私たちが教わった芦生の場合。日数や分量・道具や温度に地域差があるにしても、この3工程は変わらない。

1.干す

採集したトチは虫を出すために、漬物樽のような大きな容器で水につける。水を変えながら2〜3日。

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そこから、約1ヶ月は「干す」。

地域によっては筵やブルーシートの上に干すようだが、私たちは、食品乾燥機用のプラトレーを活用。収量が多いと、トレーの上下左右を入れ替えたり、朝出して夕方しまうだけでも結構な作業。

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一粒たりとも雨にあてたらあかんって言うんや。空、みながら、出したりいれたりして……「ゴロゴロ」言うてるトチが「カンカラカン」になるまでや

「ゴロゴロ」が「カンカラカン(中の水分が抜けた状態)」になれば、10年でも20年でも(?)保存が効くらしい。昔はどの家でも飢饉に備えて、この乾燥トチを保存・備蓄していたという。

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↑カンカラカンのトチ

9月中〜下旬に採集→→10月中〜下旬まで干す  約45日経過

2.へす

「へす」という「減す」でなく「圧す」の方。

圧力をかけ押しながら皮と実をわける動作のこと。栃を“へす”ので、この作業を「栃へし」と言い、この「栃へし」のために使う道具も「栃へし」と言う。

ややこしいが、これに関西弁が加わると語法はこんな感じ。

Aさん「そろそろ栃へさな、あかんなぁ。」→Bさん「栃へし、あんの?」→Aさん「いや、足りへん。栃へし、貸して」

このやりとり、状況を想像できるだろうか?ご想像にお任せするとして、(任せていいのだろうか)、「栃をへす」ための「栃へし」(道具)は、先代、先々代から引き継がれるので、家庭によって微妙に違う。

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↑それぞれの「栃へし」一挙?大公開。千差万別。

このままの勢いで「栃へし」に話がいってしまいそうなので、一旦停止。

「干す」と「へす」の間にはバッファを持たせる必要がある。というのも、「へす」→「あわす」はマスト一気加速なのだけど、「へす」後の作業には「水温が下がった冬」という新たな要件が加わるのだ。

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そう、水が冷たくならないと雑菌が繁殖してしまうので、たとえ「カンカラカン」に干したトチが目の前にあったとしても、干し終わった直後の11月初旬には「へす」ことも、夏のギラギラ太陽も元で栃仕事をすることも難しい。

「むかしっから、トチをへすのは事始め言うて、そのくらいの寒さになったら水も冷たなってるんや」(注:事始め=12月13日。江戸時代から京都に伝わる古いならわしで、正月準備を始める時をそう呼んでいる)     栃餅=土地持ち の願掛けの意味もあり、お正月に白餅と一緒に栃餅をお供えしていたため、事始めの頃から準備しないと間に合わなかったという

長くなってしまった。次は「第2話」として、一気に「へす」と「あわす」をお届けすることにします。

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