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年間ベストアルバム2023

いえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええいというわけで年間ベストアルバムの季節が今年もやってきました。

今年もいろんな音楽が出た2023年ですが、個人的には去年以上に音楽を聴く時間を割くことが出来なかったというのもありますが、新譜を聴くよりも聴き逃してた旧譜や元々好きだった旧譜を重点的に聴いていたとこはありますね。

あと今年のシーンのトレンドを見てみると、やっぱり去年出たBeyonceの「RENAISSANCE」の余波凄まじき。テクノ、ハウスなどのクラブミュージックから良作が出てた印象は強いですね。そしてなんと言っても今年はベテラン大活躍。老舗の味わいと言わんばかりに、年月と共に獲得したスキルをこれでもかと大胆に発揮する傑作が多かった印象です。そういうのもあって今年の年ベスは老舗の味ということで、たいめいけんの茂木シェフにカバーを飾ってもらいました。

ちなみに今回の年間ベストどういった感じで選んだのって思う方もいると思うんで、今回の選考をするにあたって指標にした3つの評価基準を紹介します。

1つ目、良い

2つ目、凄い

3つ目、かっこいい

以上です。では早速ランキングをはっぴょうするぜぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!



50位 Nara Pinheiro「Tempo de Vendaval」

いきなりブラジルからです。昔から第3世界の音楽としてボサノヴァを筆頭に根強い人気のあるブラジル音楽だが、近年はなんと言ってもアントニオ・ルーレイロを中心としたミナス新世代と言われるジャズ、SSWの若い作家群がメキメキと頭角を現している。今作はそんなアントニオ・ルーレイロが全面的に参加している作品であり、ブレイク・ミルズや岡田拓郎なんかと通ずるいかに耳に生の音を添えるかに重点に置くかに全力を注いだ変態じみたオーガニックサウンドが、優しいソングライティングで紡がれた楽曲をさらに一段次のステップへと誘っている一枚。


49位 Cruyff「lovefullstudentnerdthings」

今年の国産オルタナ界隈でTexas 3000なんかと並んで話題を掻っ攫ったニューカマーという印象のバンドの1st。個人的にこのバンドの何が良いってバンド名、Cruyff、ピンとくる人ならわかるはず、そうフライングダッチマンことヨハン・クライフ。ずば抜けた技術と頭脳を武器に、後のフットボールの戦術面において大きな影響を与えた名選手だが、記録よりも記憶に残る名選手という側面も強い。1-0で勝つよりも5-4で勝つ方が良いという名言が象徴するように、背番号も14番にこだわり、アスリートだけどタバコも吸う、口も良くも悪くも達者な人で、まさに自分の美学に誇りを持った人物だった。余談が長くなったが、このバンドの音楽は正直言えばまだまだ未完成で脆い瞬間が垣間見える。だがそれ以上に自分たちが持つオルタナティブサウンド、つまり鬱屈とした感情を世界へと曝け出すその一瞬、この一瞬に全てを賭けているようにも思える。この一瞬を大事にしてほしいし、そこから見える美しくくて醜い世界を曝け出せる能力はまさにカリスマがなせる所業。


48位 Julie Byrne「The Greater Wings」

大手メディアの年間ベストにも上位に見かける印象のドリーミィーなフォーク。フィンガーピッキングによる繊細なタッチとやまびこの反響のような奥深い歌声が武器のSSWだが、今作ではシンセやハープなどのギミックを導入したことにより、晴れやかなジャケ写のようなビビッドかつ明瞭なサウンドイメージを展開。しかし外的な派手さに反比例するかのように、芯をつかもうとすると残像をかすめ取ることしか出来ねぇ!、てか気付いたら靄に囲まれてるやんけ!って感じの夢見心地な罠に陥った感覚に陥る。近年Big Thiefなんかがこういう芯を削り取ったスカスカなアンサンブルを展開してたが、今作で聴かれる音も楽器の立体的な音に反してビートの不在と幽玄的なボーカルがそうした不思議な耳心地を生み出している。それにしてもこの玉玉が付いた服どこで売ってんだろうな、、、ZARAとかかな???


47位 Puma Blue「Holy Waters」

わたくし今までPuma Blueというアーティストに対して抱いていた印象というのが、POPEYEの部屋紹介企画に出てたロンドンのお洒落なあんちゃんという印象でして、2年前に出たアルバムもうぉ~これはPOPEYE男子が好きそうなシャレオツ音楽だねって感じであんま気に留める存在では無かったんですよ。で今年でた今作を聴いてびっくり。まぁ非常に不気味なダークソウルという感じでして、例えるならばNine Inch Nailsの「Closer」をKid A期のRadioheadみたいな音で再現しようとするKing Kruleみたいなことを全編でしてて、かなり玄人好みな渋い音楽で痺れましたね。ちょうど深夜の高速を走ってた時にこれを聴いて、まさに闇へまっしぐらって感じで恐怖すら覚えた思い出。


46位 M83「Fantasy」

ここ最近のM83の活動を注意深く追っていたわけじゃないからあれだけど、昔からよく知るM83が戻ってきた印象。というか昔のシンセウェイブmeetsシューゲイザー的な音像がさらに加速し、まさにケッセルランを12パーセクで突っ走るときのようなインパクトがスピーカーから出力されてるかのような力強さが一聴しただけでもわかる。フォロワーさんもこの作品の音を"光"と表現していたけどほんとにそうで、まばゆい光の中へと導かれる未知との遭遇のバリー少年のような無邪気さをこの作品は表現してしまってる。こんなもんを聴かされた僕らに出来るのは光と同化するか、それともマッシュポテトでデビルズタワーを作るか。地球と宇宙、君ならどっちを選ぶ???


45位 スピッツ「ひみつスタジオ」

初対面の人と初めて会った時に、会話の糸口を探ろうとして好きなお菓子ってなに?って質問したり、逆にされたりすることない?俺、最近やっと気づいたんだよ。本当に自分が好きな一番好きなお菓子が。木村屋のあんドーナツだ。弾力のあるパン生地、雪のようにときめいている初めて怖いくらい美しい砂糖と共鳴する、紫の夜を超えるくらい紫色してる控えめな甘さのあんこ。究極にシンプルイズベスト、普遍的で不変的、最強の王道、どんな誉め言葉を与えても足りないくらいめぐりめぐってここに帰結する安心感がある。スピッツの新作もまさにそう、結局僕らはスピッツへと繋がっていく。


44位 GRAPEVINE「Almost there」

ここ近年の邦楽シーンにおいても、ベテランでも常に音楽性をアップデートし続けることが出来るロールモデルを提示してきた代表格としてBUCK-TICKとGRAPEVINEが挙げられるだろう。そして両者ともに「異空」と「Almost There」という今のシーンにしっかりアジャストしつつ、自分たちの個性を前面に押し出す作品をリリースしている。個人的にはGRAPEVINEの方が自分の趣向に近い音楽性ということで年ベスに入れてて、今作は割とキャリアの総括的な色合いの強い多彩な楽曲が並んでるが、それでも今のGRAPEVINEにしかならせない芳醇な色合いが聴き手にカタルシスをもたらしている。特に最後を飾る「SEX」の恍惚とした展開には舌を巻く。


43位 Ana Frango Electro「Me Chama de Gato que Eu Sou Sua」

こちらも今年のブラジル音楽シーンの活気を物語るような傑作。リリース前から今年のブラジルのベストミュージックと名高かっただけあって、ボサノヴァのチルアウトと、カーニヴァルの熱狂を、彼女自身が持つ様々な時代の音楽のエッセンスを抽出し繋ぎ合わせ(例えば「Let's Go To Before Again」のドラムマシンなんかは80年代のリンドラムっぽい質感を想起させつつも、エレピの音色なんかはどちらかと言えば10年代のチルウェイブ的な感触に近い)構築された、過去と現代をリンクさせた究極のポップミュージックとなっている。だがしかし、この作品の凄い所はギミックやエッセンスは面白い引っ張り方をしつつも、結局は純粋に良い音楽としてツルっと聴けてしまう所に尽きる。


42位 Boyish「FIELDS」

10年代初頭から東京を中心に精力的に活動してきたインディーギターポップ。自分自身そこまでこのバンドのことを詳しくないのであれだが、元々6人くらいで活動をしていたものの4人くらい脱退して、3人体制となってからの初のアルバムが今作らしい。人の入れ替わりが凄いな、くるりか???とまぁそんなことは置いといて、まさに東京インディー界隈って感じの日本語の角ばった質感を活かした丁寧でこまごまとしたインディーロック/フォークで愛らしい。「サニーデイサービス」を発表したころの曾我部恵一が宿っているかのようなソングライティングは、僕らの日常に優しさというささやかなBGMをもたらしてくれる。


41位 Laurel Halo「Atlas」

今年のアンビエント系だと年間ベストにこの作品を挙げている人が多い印象。自分も結構アンビエントというジャンル自体は好きだけど、こういう文に起こして具体的に何が良いのかっていうのはあまり得意ではない。このアルバムのどこが良いと思ったかという点に対してだが、昔YouTubeでRadioheadの「Daydreaming」という曲をめちゃくちゃ低速に再生して1時間近く伸ばした動画を見たことがある。今作はその動画に似た感動を味わえるというか、ひたすらなり続ける環境音の隙間からポロンって鳴くピアノの音色に感動を見出せるのか?街の様々な音と映像のカオスの中に光を見出せるのか?君たちはどう生きるのか?そういう感じの問いかけを愛することがこの作品の良さなンだわ。


40位 空気公団「景色一空」

冬の日の16時45分くらいの西陽って、いつ見ても大きなため息とどうしようもない寂しさに襲われておかしくなりそうなんですよね。家に帰ればちょっと適当でも満たしてくれるご飯と温かい布団に入ってほとんどのことは忘れてしまうのに、どうしてもあの時間の太陽だけは僕を切ない気持ちにさせてしまう。そんなありったけのセンチメンタルを音楽に変えてしまったのが空気公団の最新作で、このアルバムを聴くたびに切ないって思えるこの感覚をいつまでも大事にしたいのだ。


39位 Kelela「Raven」

まず今作を一聴して思ったのが、オルタナティブR&Bの傑作だなという印象よりも、今年はやはりこういうダンスミュージックの作品が強く出てくるんだろうなという予見のほうが先に出た。実際今年は例年以上にダンスミュージックの影響を受けたビートを前面に押し出した曲が話題になることが多い印象があり、今作のリードシングルの「Happy Ending」を中心に聴かれるジャングルのビートなんかもトレンドになってた気がする。だがこうやって改めて今作を聴いてみると、熱気のあるビートでまくしたてつつも、作品全体の内省的なムードみたいなものはずっとキープされてて、こういう一定の冷たさで刺しかかる音楽って後になればなるほど聴き手の心にずっしりと訴えかけてくるものがある。なので今俺は大分心がヤラレテマス。


38位 betcover!!「馬」

2021年の「時間」以降、出す作品に対するリスナーが寄せる信頼感の高さが日に日に確固たるものになっているbetcover!!ですね。去年出した「卵」はアバンギャルドかつ暴力的な刹那を表現したロックを展開してましたが、今作はそこの要素を前作より控えめにしつつも、様式美的な構成力の高い楽曲で畳みかけるドラマティックな印象が窺えますね。特に際立つのが柳瀬次郎のボーカリストとしての進化。歌謡曲を彷彿とさせる、ダンディでドロッとした声質がこれまたかっこよくてですね、和製ピーター・ハミルとでも言っても過言では無い底なしの魅力に溢れており、留まることないポテンシャルには目をみはるばかり。


37位 パソコン音楽クラブ「FINE LINE」

筆者が日本のアーティストの中でも、特にこういったテクノ系の中でもかなりフェイバリットなユニットがこのパ音なわけだが、彼らのディスコグラフィーを振り返ったなかでも今作は飛び切り空元気でポップな印象が受けられる。そもそもこの二人が90年代のハード機材から繰り出す音からは、都会の孤独や漂白された風景を写してきたわけで、chelmicoを迎えたオープニングナンバーや「KICK&GO」のような飛び切りポップなパ音の音楽というのは新しい一面をのぞかせてるようにも思える。でもどの曲も元気一杯というよりは、空元気なのだ。居心地の悪さを元気でごまかしているというか、こうでもしていなきゃやってられない感覚というか。それこそ先人の電気グルーヴが居心地の悪さをバキバキのビートと下世話なユーモアで鳴らして荒らすようなあの感覚に近い。だから最後を飾る「Day After Day」を聴くと、電気グルーヴ「虹」やChemical Brothers「Star Guitar」を初めて聴いてあの時のような、長いトンネルを抜け出しついに自分が心休める場所に辿り着いた安心感を感じるのかもしれない。


36位 PinkPantheress「Heaven knows」

ここ数年擦られすぎてもはや本当の00年代ってなんだっけ???って感じになりつつあるY2Kという言葉ですが、このPinkPantheressのアルバムも存在しなかった00年代を切り取ってしまった傑作でござんすね。00年代のR&Bを彷彿とさせるコンサバな趣の楽曲を、ドラムンベース?ジャージークラブって言うんですか?よくわかんなけどせっかちなビートで切り刻んでいるので、ものすごい速度の情報で圧倒する感があるトラックになっているのは、SNS時代の現代ならではの00年代解釈って感じで感慨深いですね。それとこの人の場合は声がめちゃくちゃ良い、脱力というよりは耳元で寝かしつけるような声で、それがまた圧倒するタイプのトラックに可愛さを与えてて良い。


35位 Troye Sivan「Something To Give Each Other」

今年めちゃくちゃ聴きました「Rush」、いやぁーーーー踊りたくなる最高のサマーチューンで良きだよね。というかフルアルバムとしては5年ぐらいブランクが空いてるのか!?ってぐらい確かに久しぶりに名前聴いたなって感じではあるし、蓋を開けてみたら冒頭の「Rush」だけめっちゃ浮いてね?って思ったりするけど、なんといっても今作の良さは圧倒的多幸感。昔から音使いの上手いポップスターという彼の持ち味はそのままに、ポップミュージックの持つリスナーに心理を情動する力っていうのが全てポジティブな方に向かっている。これは22年に出たHarry Stylesの「Harry,s House」と同じ何ですけど、彼の場合は自身のセクシュアリティを完全に受け入れ開き直ったことによるある種の解放が楽曲に反映されているのが特徴なのかなと。割と今年のポップスの中でも屈指の重要作だと思う。


34位 Drop Nineteens「Hard Light」

今年は本当にベテラン大健闘の年だったわけだけど、まさかDrop Nineteensがその並びに加わるとは思いもしませんでした。そもそもこのDrop Nineteensというバンドですが、いわゆるシューゲイザーの本場であるイギリスじゃなくてアメリカのバンドということもありシューゲイザー史のなかでも微妙にスルーされがちというポジションのバンドでして、シューゲイザー結構好きな筆者自身も割とここ3年くらいに存在を知ったぐらいのバンドです。うわぁ~もっと早くに知っておきたかったポジションのバンドですね。でそんな都市伝説にも近い存在のバンドが、このファイナルファンタジーXVみたいなクソださジャケの新作を引っ提げて復活したらぶちあがるの間違いなしでしょ。しかもこの手のシューゲイザーの大物の久々の新作あるあるのシューゲイザーっぽいけど違うヘヴィな作風じゃなくて、傑作「Delaware」の現代解釈に近い作風で復活したわけだがら俺の心の中のノクティスも大号泣ですよ。覚悟して帰ってきて、こうしてDrop Nineteensの新作聴いてたら、、、、悪いやっぱ辛えわ、、、、、、、おまえらのこと好きだわ。


33位 Ryan Beatty「Calico」

聴くマイナスイオン。今作は本当に良い成分でしか出来ていないと思う、全てのビタミンを摂取できるので、もう正直これだけ聴いていれば三食なんていらないと思う。ごめんそれは嘘だわ。俺今めっちゃスパイスカレー食いたいわ。俺、ずっと下北沢の旧ヤム邸っていうスパイスカレーの名店に行きたかったんだけど、下北沢って独特の敷居の高さと古着屋から充満するハウスダストみたいな匂いがあるから嫌やー、下北沢なんてろくでもねぇよ、みたいなつまらない言い訳を作り、ほんとはカレーは気になるけど辛いのが苦手っていう理由でずっと気になるけど行けなかったあの頃の自分。結局近くにある松屋のプレミアム牛丼食って、いつかはヤム邸の入り口をくぐることは出来るかな、って新宿御苑の芝生に寝っ転がって見上げた青空に近い風景をこのアルバムは見せてくれる。日々の悩みや悲しみすらも、全て洗い流してくれる大切な一枚。


32位 Subsonic Eye「All Around You」

はぁぁぁぁぁぁぁ心がぴょんぴょん飛び跳ねるんじゃぁぁぁぁぁぁSubsonic Eyeのアルバムを聴くと。もうわかりきってることだが、前作の時点でスピッツとかGRAPEVINEみたいな安定して良い作品を作り続けるロックバンドに彼らはなったので、正直なところを言えば前作からなにか進化したところはありますか?って言われたら無い!だがしかし、このギターロックのお手本とも言える抜群のバンドアンサンブルと優しい粗さの楽曲はもはや名人芸に近い。多分、いや間違いなく俺はこのバンドを一生愛していくのだと思う。よほどのことが無い限り。


31位 カネコアヤノ「タオルケットは穏やかな」

カネコアヤノのライブに行くとお洒落じゃなきゃいけないだとか、カネコアヤノのファンはセックスが大好きで仕方ないだとか、なんだか最近聴いている層が面白可笑しく悪く言われがちなカネコアヤノだが、それだけ広く若者の生活に溶け込むカネコアヤノの音楽って凄いし、というかそんな人気をいつの間に獲得したんだアヤノォ!?って感じすらあります。さてそんなカネコアヤノの新作ですが、前作「よすが」が優しさに全振りしてちょっとまったりしすぎた印象がありますが、今作は一人のSSWというよりはバンドのフロントマンとしてのカネコアヤノとしての印象が強いです。そもそもカネコアヤノのバックバンドってあの音楽性のわりに結構ハードな音を鳴らす印象があったので、それを存分に活かしたオーバードライブな楽曲群が増えたのはロックおじさんの筆者からすればあざっす!!!の一言です。それこそアルバム最大のハイライトでもある表題曲にしたって、今までの彼女の中でも最もノイジーで、それでいて温かくてほろ苦くて、優しさでいっぱい。これを愛と呼ばずなんと呼べばいいんですか???


30位 Caroline Polachek「Desire, I Want To Turn Into You」

ジャケ写に時点でもうこれ名盤だわ感が凄いCaroline Polachekの待ちに待った新作。様々なジャンルという国境を軽々とジャンプし、そののびやかな歌声で一つの音楽として接続してしまう、自由気ままな力技が光る彼女の音楽はTURNの今作のレビュー記事にも引き合いに出されてた映画「Everthing Everywhere All At Once」にも呼応するような、なんでもありな荒唐無稽さ、これすなわちめちゃくちゃ強いとでも言わんばかりの全方面的力強さがある。これは個人的に気づいたことだけど、この人のボーカルスタイルって結構ケルトっぽい感じの雰囲気があるんだなって。いや実際今作はケルト音楽からの引用もかなりあるし、なんだか聴いててDidoっぽいなーって思ってたらゲストにDido起用してるし(笑)。ケルト系の音楽一杯引用してる今作みたいな作品が、世界の主要な音楽メディアでも年間ベスト上位に食い込むのは面白いもんですよね。


29位 James Blake「Playing Robots Into Heaven」

イギリスのゆゆうたことJBの新作です。みなさんはJBについてどんなイメージをお持ちだろうか?一般的に彼のパブリックイメージとして一番思い浮かびやすいのは、"ポストダブステップの革命児"というイメージだろう。だけどこのイメージが実は自分のなかであまりイメージがしっくりこなくて、というのもやっぱり彼がデビューした頃から追っかけてきたわけじゃなくて、多分ちゃんとリアルタイムで聴き始めたのは「Assume Form」ぐらいからなので、Bon Iverなんかに近いSSWという印象のほうが強かったんですよ。ところがどっこい、今作を聴いてあぁ~~~この人ゴリゴリクラブミュージック上がりのトラックメイカーなんだってのが理解できました。彼の持つ深淵で寒気すら覚える神々しい空気感を、静かな熱気で刻み込むビートで彩るという、まさに冷静と情熱の間をかすめ取った一枚だ。


28位 揺らぎ「Here I Stand」

怖い。この人たちに関してはもう怖い(笑)。国産シューゲイザーのバンド、惜しくも解散してしまったFor Tracy Hydeあたりを皮切りにインディー界隈で凄く良いバンドが増えましたよ。でも揺らぎに関してはそういったバンド群の中でも進化のスピードがえげつないというか、他の国産バンドが狭いライブハウスや密室のなかみたいな鬱屈感への対抗措置としての轟音なのに対して、揺らぎの鳴らす轟音っていうのは地殻変動による自然由来の地鳴りに近いアプローチに近い。感覚的に言うならば前者はDIIVやきのこ帝国で、揺らぎはSigur RosやMogwaiなんかに近いですね。地球と呼応するバンドアンサンブルって感じなので、フジのWHITE STAGEのトリとかで眩い白い照明に照らされながらじっくりと聴きたいですね。


27位 Romy「Mid Air」

ロミー姉さんお願いだよぉ、早くThe XXを再始動させてよぉ~でお馴染みロミー姉さんの最高最高ダンスアルバムですね。これまたこのアルバムがめちゃくちゃ良くて、とにかくどのトラックもバチバチにキマっちゃていて、チャラチャラした感じは皆無なんだけど音からあふれ出てる快楽成分が物凄い。そしてなんと言ってもロミー姉さんの凛として落ち着いた声が最高で、なんというか貴族の優雅なイビザの休日って趣がして非常に品のあるダンスアルバムなんですよね。そういう意味でもロミー姉さんって、今年奇跡の復活を果たしたEverything But The Girlのトレイシーソーンの正当後継者っていうのがよくわかるというか、SSW的な感性と品のあるボーカルでダンストラックの質を1段も2段も上げれる稀有な逸材なんですよね。だからこそ稀代のトラックメイカーとベルベットボイスを持ったボーカリストと絡み合うThe XXというバンドは奇跡の存在なのであって、2024年こそは新作を引っ提げてフジロックに帰還してほしいなと願わんばかりなのです。


26位 ANOHNI「My Back Was A Brudge For You To Cross」

俺のあやふやな知識が正しければ、アントニーヘガティって人がやってたAntony & The Johnsonsというプロジェクトという認識だったが、知らない間にアノー二に名前に変わってたみたい。日本でもあのちゃんってタレントが流行ってますしね、こっちはアメリカのあのちゃんということにしましょうか。こちらのあのちゃんですが、めちゃくちゃソウルフルでぶっっっってぇ声で時に殴り倒すように、時に優しく抱きしめるように、時に人生のヒントを与えてくれるような歌唱を繰り広げます。そしてまたこれもたバックの演奏もほぼ丸腰に近いようなシンプルかつ最低限のアレンジとなってまして、あのちゃんの卓越したボーカルを前面に引き出す最適なパフォーマンスとなってます。これでバンド側まで出しゃばったら、逆にうるさい印象すら与えかねないのでこれで正解です。またこれまた楽曲のメッセージも力強く、愛に始まり宗教や社会に環境問題に至るまで、生きてくうえで無視したくても背けることが出来ない問題に対してどうやって向き合えばいいのか、そんな時にほんの少しの一歩を歩むための後押しをしてくれるちからが今作にはあると思います。


25位 Scared BY SAMURAI「album in a day」

個人的今年のナンバーワンダークホース枠ですね。ざっといろんな人の年ベスを見ましたけど、これ選んでる人全然いないし、月間リスナー数とかも30人下回ってるしで誰も聴いてねぇじゃねかって感じなので、この素晴らしいアルバムを広めねばという使命感に今駆られてるわけなんですよ。ざっと調べてみたりはしたんですけど多分台湾か東アジア圏のどっかの国のバンドなんですけど、作品通しで聴けばわかる通りオルタナ、フォーク、エレクトロニカと、今どきのトラックメイカー的な思考でジャンルレスに色んな要素をスクラップ&ビルドした音楽性なのだが、その混ぜ方がセオリーを無視した自由なものになっていて聴いててめちゃくちゃ楽しい。こんだけ荒唐無稽に暴れまわっているのに、アルバムの最後をめちゃくちゃ綺麗なメロディが横たわるシューゲイザーで締めようとしているのが彼らなりの美学を感じてグッとくる。頼むからみんな聴いてくれ!!!!!!


24位 Cornelius「夢中夢」

おかえり小山田圭吾。一時は音楽家としてのキャリアすら危ぶまれた彼の新作をまた聴けるのは非常に感慨深いですし、なによりも歌モノを作る小山田圭吾がここに来て帰ってきたという事実。ここ数年の小山田圭吾といえば、確かに前作「Mellow Waves」でもその気流はあったにしろ、あの作品は一つ一つの音の閃きに対して言葉をどう乗せるかっていうのが焦点に当たった作品でして、今回の「夢中夢」では土台として歌があってそこに良い意味でのっぺりとして無機質なニューエイジサウンドを乗せている感じがするんですよね。音を鳴らすという手段としての音楽から、歌を聴かせるための音楽へとマインドが変わったのがなんとなくわかります。実際今作にはMETAFIVE名義で発表していた「環境と心理」のセルフカバーも入ってますし、今年のサマソニでもYMOの「キュー」をカバーしてたりと、交友のあった高橋幸宏や坂本龍一に捧げるとい意味でも誰かに向けて音楽を鳴らす意識に変わるきっかけはあったのかなと思います。今年のサマソニで聴いた「あなたがいるなら」もいつにも増して気合が入ってるように聴こえましたし、何はともあれこうして歌を聴かせる小山田圭吾は懐かしい気持ちもあり嬉しい気持ちもあるなんとも不思議な感覚です。


23位 George Clanton「Ooh Rap I Ya」

ここ最近のトレンドで旧来シンセポップと呼ばれていた音楽ジャンルが、ヴェイパーウェイブの流れを踏襲したノスタルジーという魔法をリバーヴでじゃぶじゃぶに浸して音の洪水として圧倒させるアプローチが一般的になってきた感があります。今年でWild Nothingの新作(個人的今年のがっかりアルバムの一つ)もHatchieを招聘してそんな感じの作風になってますが、もとはと言えばこのヴェイパーウェイブ的思考のシンセポップのアプローチを確立したのがこのGeorge  Clantonだと思うんですよ。彼の音源からでる極太のシンセ音はどれも懐かしくて寂しさでどうしようもなくなる音ばかりなんですが、今作で彼はセカンドサマーオブラブとも言われた90年代初頭のマッドチェスターの空気感をノスタルジーという名のジップロックで密閉してしまったわけなんです。極彩色とありったけのスクリーマデリカで彩られたあの夏を真空パックし、2023年にどばどばと放出するわけなのでそりゃ幸せ一杯なんですけど、結局真空パックしたとは言えど古いものは古いのでまるで偽りの夏休みを味わってるような背徳感があるんです。


22位 Tirzah「trip9love…?」

反復するピアノのループは、低温がめちゃくちゃ強調されているがどこかもっと遠いところでなってるかのような錯覚に陥る不思議な響きだ。そこに暴力的なまでになだれ込むビートは、まるで次の試合を想定しながら自己の世界に潜りひたすらスパーリングに打ち込むボクサーのようで容赦がない。そしてTirzahの歌声はそのどれにも混じらず、淡々と眠るかのように言葉を吐き出すだけの状態だ。そういえばこのひたすら繰り返されるピアノを聴いているととある曲を思い出す。Fishmansの「ナイトクルージング」、あれも自己の世界の中へと誘うトリップソングだったな。でも不思議と今作のTirzahの楽曲はそれぞれの音が自己の世界の中で勝手に鳴らしてて、そのどれかに潜り込む問よりは少し離れた場所からのそれぞれの音世界を眺めることしかできない、いやさせてくれないに近いのかもしれない。パーソナルスペースには踏み込めない。そんな歪な世界たちが歯車のように組み合わさるから、世界はこうして今日も歩みを続けている。


21位 Laura Groves「Radio Red」

ひたすらにシンセの音が心地いい都会的なSSWな傑作というのが率直な印象だ。こういうシンセの音って、それこそ前述のパ音なんかも傑作「Night Flow」でも鳴らしてて、ちょっと80年代チックな残響感のあるニューエイジ的な手触りで鳴らすことで凄く虚無というか寂しい感じを演出できるんだよね。ジャンル的にはチルウェイヴとかシンセウェイヴみたいな括りの音楽だとよく聴かれる印象があるんだけど、この人の場合はSSW的な風情がすごく強い。ボーカルのスタイルとかはケイトブッシュっぽいんだけど、曲の作りとしてはスティーヴィーニックスっぽい感じの寂しげなエロスみたいなのが漂っている。ドラマとかで主人公に恋心をずっと抱いているけど、最終的には自分よりも若いヒロインに主人公を取られてしまう都会の美しいOLみたいな印象(例:梨泰院クラスのスア)が今作から漂っている。でも僕らみたいな視聴者はどうすることも出来ないけど、ただただそんなあの人の幸せを画面越しから祈ることしかできないのです。悔しいことに。


20位 The Otals「U MUST BELIEVE IN GIRLFRIEND」

スーパーカーが「スリーアウトチェンジ」っていう傑作をリリースして以降、ナンバーガールのメジャー1stにベボベの「17歳」とか神聖かまってちゃん「8月32日へ」みたいな、制服青空プールサイド文学的な傑作が日本の音楽シーンに定期的に生まれてきたわけだが、2年くらい前に韓国のParannoulが「To See the Next Part of the Dream」というこれ以上ないくらい完璧な制服青空プールサイド文学を提示してしまったので正直頭打ちかなぁとも思ってたわけですよ。そんな中で今年リリースされたThe Otalsのこのアルバムですけど、まぁ甘酸っぱすぎるくらいに制服青空プールサイド文学してる。志村正彦だって多少はしょっぱい調味料入れてるのに、今作はインスタのリールで見かける犬ばりにまっすぐな眼差しで存在しない夏の記憶をかき鳴らしている。お前はストレートしか投げない茂野吾郎なのか???ってくらい明確に"ある夏のボーイミーツガール”を展開してるわけだが、そこに絡み合うツインボーカルもフルカワミキをスタバの激甘フラペチーノばりに希釈した女性ボーカルと淳司と仲たがいしなかったナカコーみたいな感じで、関ジャムの年ベス企画を見るたびにスーパーカーに思いを馳せてしまうあの感覚を想起させてしまう。結局今年も、存在しない夏に思いを馳せてしまうなんて。


19位 Jessie Ware「That! Feels Good!」

すっかり現代のディスコの女王を手に入れてしまったJessie Wareさんですが、今作では完全にディスコの沼から抜け出せなくなってしまった感が凄いです。前作の時点でも大分ディスコに振り切ってたけど、それでもこうやって今作と比較するとまだまだ控えめだったのが分かりますね。前作ってやっぱり要所要所のビートなんかは結構ガラージっぽいアプローチしてて、割とチル成分強めだったんですけど、もう今作は初っ端からVan McCoyみびっくりするくらいハッスルしたブラスで始まるじゃないですか。ここ近年BTSの「Dynamite」とかSilk Sonicのアルバムがヒットしたりで70sのディスコやソウル・ファンクが今の時代に一つの武器で通用するってのが分かったタイミングで、去年のBeyonce「Renaissance」の大成功ですよ。こういった様々な時代の後押しがあってこその今作があると考えると凄く必然な流れなんですよね。個人的にはぎらぎらとしたダンサブルな楽曲が流れる中に入っている「Hello Love」みたいなスウィートハートなバラードが、これまたアルバムに多彩な輝きをもたらしていて凄く好き。


18位 くるり「感覚は道標」

感覚は道標、今作を端的に表すうえでここまでしっくりする表現は無いと思う。今作はオリジナルメンバーであるもっくんが久しぶりにくるりの作品(多分「THE WORLD IS MINE」以来?)のドラムを叩いているのだが、これがめちゃくちゃ今作の肝になっている。ここ最近のくるり、というか「ソングライン」以降のくるりはセンチでメロウな良曲を作るモードにシフトしていて、特にそれが結実したのがこの作品の前にリリースされたEP「愛の太陽」なわけでまぁこのEPに入ってる曲がどれもめちゃくちゃ良い。もう今年で20年以上のキャリアを持つバンドが、その長い歴史のなかで様々なノウハウを付け一つの正解(メロウでセンチな曲をギターバンドとしてのくるり)を見つけたタイミングで、これまでのキャリアの総決算を作る。これは凄く難しいし、くるりという野心的な実験精神を持つバンドの歴史となればさらに難しい。だがそこで招聘されたのがかつてのバンドメイトであり、友人であるもっくんであるということ。この野心的で挑戦的なプロジェクトにおいて、過去一の自信を付けた二人の後ろを託されたのが持っくんであるがゆえに作品全体にゆったりとした落ち着く空気が流れてて、いつものくるりの作品以上にどの楽曲も人懐っこい感じがする。「さよならストレンジャー」のジャケ写で見せたあどけなさから24年、今作のジャケ写はあの時の野暮ったさもあるけどどこかあの時からは想像もつかないような自信に満ち溢れた3人がいてなんか泣けてくる。


17位 Sofia Kourtesis「Madres」

今年出エレクトロ系のアルバムの中だと断トツでクオリティたっけぇなって思ったのが今作です。どの曲もビートはこれでもかというぐらいアッパーで、ここまで並べてきたエレクトロ系の作品なんかと比べると攻撃的というよりは歩調を合わせつつも自然と前掛かりになっていくようなビートという印象です。自然と踊りたくなるという意味では今年のアルバムの中では一番しっくりくる作品です。また楽曲のアレンジ面でもペルーにルーツを持つという彼女のバックグラウンドが色濃く出た、なんて言うんですかねラテンの享楽性みたいなのが凄く窺えてて、でもそこはかとなく死の匂いというかちょっと影を帯びてる感じもして、なるほどこれが命の息吹なのか!?といった畏敬の念すら覚えてしまう。一抹の不安こそあれど、結局は楽しく踊ろうよって誘っているような一枚なのかのと思いやすね。


16位 君島大空「no public sounds」

今年一年の君島大空に関しては、ほんとに自分の中での認識が良い意味でかなり変わったというか、ここまで凄いスケールを提示できるアーティストだったんや!ってなりました。というのも3年前くらいにリリースした「縫層」というアルバムが自分の中ではやりたいこてゃ一杯あるけどそれを上手く組み合わせる経験値が足りてない、偉そうに言ってしまえば未熟な印象を受けちゃったんですよ。でもその頃から「火傷に雨」みたいなキラーチューンもあったんですけど、そこからは深くは追っていなかったんですよ。で、年始に「映帯する煙」で継ぎ接ぎのサウンドデザインが飛び道具から明確に意図を持った音に変貌してて、線の細い歌声からは想像できないくらいの暴力性を持った楽曲を書くSSWに進化しててたまげたわけですよ。で!!!!!その半年後にこの傑作をリリースするのだからマジで狂ってるとしか言えない!1曲目からしてKing Crimsonみが凄い暴力的なギターロック、そこからは情報という洪水のなかでもがき苦しむことしか僕らリスナーは出来ないんですよ。確かに関ジャムでも「c r a z y」を聴いて泣いてしまったって誰かも言ってたけど、そりゃ今の日本の音楽リスナーはリアルタイムでこんな煌めくような傑出した才能の片鱗に触れることが出来るのだから。この上ない幸せです。


15位 Sam Wilkes「DRIVING」

今年リリースされたブラジルのPedro Martinsのアルバムなんかでも聴かれた、こういうどこに定位を置いているのかわからなくなるようなギターの音色、個人的にめちゃくちゃ好きです。この人いわゆる最近のインディーロックとも共鳴するジャズミュージシャン兼コンポーザーなんだけど、こういう文脈の人たちの作る作品ってやっぱりThundercat「Drunk」を参照としているなって感じがして、緻密に生の楽器の音を積み重ねたり、要所要所でトラックメイカー的な思考で弄ってみたりとか、一体どういう意図でこの音を鳴らそうと思ったのかなってリスナーに興味を持たせる力が強いよなって思いますよね。実際この作品も大然として音楽自体は凄くポップだし、取っつきやすくて聴きやすいんですけど、一つ一つの音を吟味していくとまた違った楽しみが出てくるので、気楽に町中で散歩する時に聴くのも良しだし、じっくり腰を据えて聴くにも良しって感じで今年よく聴いたなー。


14位 Galileo Galilei「Bee and The Whales」

夢にも思ってなかった、というか予想の数倍早く復活したGalileo Galilei(以下GG)の復活。このバンドがいたからこそ海外インディーやドリームポップなどの音楽ジャンルに触れるきっかけになったし、日本にもこういう感度が高いギターロックをするバンドがいるんだなと気付かせてくれた存在でもあります。さてそんなわけで久々のGGの新作ですが、リリース当初からフロントマンの尾崎雄貴氏がGG解散後に結成し現在はGGと同時並行でやってるBBHFと何が違うん?って声が結構上がってましたね。でも個人的にはアリーナで鳴らせる強度の高いロックを標榜するBBHFともスケール感が明確に違うとも言えますし、かと言って思春期の鬱屈としたやり場のない気持ちを海外インディーと呼応する形のギターロックで鳴らしていた解散前のGGともはっきり違います。じゃあ解散前のGGと明確に違う要因は何なのかっていうと、やっぱり本人たちが成長し余裕と優しさが音楽に滲み出てる気がするんですよね。アルバム発売に合わせてFIRST TAKEに出演したり、しかもそのうち一曲は解散前の彼らを苦しめた初期の青春バンドのイメージを象徴する一曲の「夏空」なわけで。そもそも一度バンドから離脱したギターの岩井郁人が尾崎氏の参謀的なポジションでバンドに復帰してることからも象徴してるように、今のGGって確かにあの頃のような繊細で今にも壊れそうな解散前とは違った大人の余裕みたいなのが凄く出てるんですよ。しかも今作のGG、かなりリスナーの僕らにここまで来ていいよってくらい近い距離感の楽曲作ってくれてるし、どの曲もやっぱり良いじゃないですか。取り留めもない感想になったけど、結局は新しいGGが見せてくれる景色が楽しみなんだよね。


13位 Strange Ranger「Pure Music」

今作への感想で誰かが"シューゲイズ化したDepeche Mode"と評していたのだが、あぁなるほど、確かにこの耽美な表現はDepeche Modeだわな。だがしかし、この作品の不思議なところはカッコいい音楽っていう共通項を除けば様々な側面から解釈をすることが出来る不雑な魅力があるところだ。それこそGeorge Clanton直系のヴェイパーウェイブ的シンセポップとして見ることも出来るし、ポストパンクの影響が色濃い都会的な刹那をかすめ取った作品とも言えるし、マイブラの「Loveless」のよくわからんサウンドエフェクトをいかにポップに仕立て上げることができるかっていう所に焦点を当てた作品、とこんな感じで色んな視点から作品を語るところが出来る。これだけでもこの作品が非常に魅力的な作品だと言えるだろう。例えば高倉健と言えばぶっきらぼうな日本男児がにあう役者だが、どの作品でも同じような日本男児かと言えば違うわけで、任侠のなかでもがき苦しむ健さんも言えれば、愛する人が待たせてどんな顔で会えば悩む健さんもいるし、居酒屋を一人で切り盛りする健さんもいて、南極に犬を置いて行って後悔する健さんもいるし、はたまた突然現れたマイケルダグラスに困らされる健さんもいるのよ。そんなわけでこの音楽に対して何か明確な見解を示すのは難しいが、最終的にこの作品に対して”純粋な音楽”というタイトルを称してバンドに終止符を打ったという事実、つまりそれがこのバンドが伝えたかったことなんじゃないかな。


12位 Sampha「Lahai」

今年リリースのアルバムの中でも、ソウル、R&B系の作品の中でもぶっちぎりで話題となったSamphaの新作。常に表現者として誠実な姿勢と類いまれなる歌声で客演として多くのアーティストから重宝されてきたわけだが、今作のリリースに先駆けてリードシングルの「Spirit 2.0」を初聴したときに、うぉぉぉぉぉなんか凄いぞ、何が凄いのかはわからないけどなんか凄いぞこりゃ、って感想を抱いたんですよ。で、秋口ぐらいになってアルバムがリリースされてとりあえず1周聴いてみたんだけど、凄いのはわかるし実際好きなタイプの音楽なんだけど何が凄いのかはさっぱりわからない(笑)という。これカニ…Yeの「Donda」に抱いたのと同様のモヤモヤで、好きな作品だし凄いのはわかるけれど核心的な部分については一生理解しえないっていうモヤモヤでして。で今作の楽曲って鳴らされる音のすべてが凄く躍動感に満ち溢れているんだけど、明確な秩序みたいなものが規定されてないので聴いてるこっちからすると凄く突飛な印象すら感じるんですよね。ただこの作品のすべての要素を一つの線として繋ぎとめているのが、まさにSamphaの声だけというある種の力技で、彼が歌うからこそまぁこれもSamphaならありかってなるんですよね。まさに空間を掌握する声と言っても過言では無いというか、それこそFrank Oceanにも通ずる神通力に近いパワーを堪能できる一枚なんじゃないかなと思いますね。


11位 Boygenius「the record」

今年の音楽シーンを象徴する一枚を挙げろと言われたら、多分多くの音楽ファンがこれを挙げるでしょう。それくらい2023年はBoygeniusのための1年とも言っても過言ではないくらい主人公感が凄かったです。というかそもそもがUSインディー界隈では期待のホープと目された3人により結成されたグループが、それぞれキャリアハイに近いレベルの作品を打ち立てた後に集結したわけだから期待度も半端ないわけで、実際にそのハードルを簡単に超えてしまうだけの力は今の3人にはあるんですよね。カントリーやフォークなどのアメリカのルーツミュージック的色合いの繊細なメロディが持ち味のフィービー、近年のベッドルームポップ的なテイストが3者の中では強くどこかほの暗いルーシー、感情を剥き出しにした愚直なロックサウンドを強みとするジュリアン、三者三様の音楽性が見事なまでの化学反応を見せたことで生まれた今作、世紀のスーパーグループが生み出した約束されたケミストリーという背景等を考えても70年代のアメリカンロックを象徴する名盤CSN&Yの「Deja Vu」の現代版と言っても過言では無いでしょう。個人的にはジュリアンの作った曲はライブでのパフォーマンスも含めて好きで、やっぱりそこに重ねてしまうのは今年惜しくも亡くなってしまったCSN&Yの爆弾担当のデヴィッドクロスビーの姿なんですよね。彼も「Cut My Hair」というロック史に残るカタルシスの権化みたいな曲をCSN&Yで残してますからね。とまぁこんな感じで、リリース時点からアメリカンロックの未来永劫約束された名盤としてのポジションを確立してしまったのが今作で、ここまで期待値と確信が高いレベルで合致したのって割とビリーアイリッシュのデビュー作ぐらいまで遡るので、そういう意味でも話題性という意味でもめちゃくちゃ楽しませてもらいました。


さてこここからはいよいよトップ10です!

一体どんなアルバムが入ってくるゾエ~












10位 Summer Eye「大吉」

2号に1回くらいはPOPEYEで美味しい飲食店紹介してる人でお馴染み、元シャムキャッツの夏目知幸のソロデビュー作です。そもそもシャムキャッツというバンドの時からそうなんだけど、この人の作る音楽ってめちゃくちゃフックの強い音楽じゃないから個人的には最初からめちゃんこ良いやんけ!とはならずに、気付いたらあれ?俺最近こればっかり聴いてない???ってなることが多いタイプのミュージシャンなんですよね。いわゆるスルメと言うんですかこういうの、体に染み渡るまでに少し時間を要するけど、浸透した時の強さは半端ないタイプの作品ですね。で、今回の「大吉」も最初はあんまハマらなくて、DTM的な手触りの強い脱力感強めのゆるぅぅぅぅぅぅいダンスチューンの数々がもうちょい強い刺激が欲しいなって思ったのと、ちょっとボサノヴァっぽいエッセンスも入っててもうちょい振り切って欲しかったなっていう。

でそんなこともあり少し寝かしてみてから、5月だか6月ぐらいに埼玉の川口のお洒落な雑貨屋からレイクタウンあたりでもドライブに行こうかってなった時に、U2「War」→The Poloce「Synchronicity」→Summer Eye「大吉」の順でカーステレオで流してみたんですよ。前2枚が気合いが入ってる系のアルバムでいつ聴いても聴きごたえがあるアルバムなんですけど、ただ何となく初夏の住宅街を抜けるサウンドトラックとして映えるのは間違いなく「大吉」だったんですよ。7月初頭ぐらいかな、飯田橋から神宮球場経由で新宿まで夕方に散歩したときにも、サニーデイサービス「サニーデイサービス」→Loyle Carner「Not Waving, But Drowning」→Summer Eye「大吉」の順で聴いてみて、その時は日がほぼ暗くなって夜の仲間入りをし始めたくらいの千駄ヶ谷とかだったかな、やっぱり「大吉」はうまく風景の溶け込んでいて。何が言いたいかっていうと、多分この作品って半袖がちょうどいいくらいの気温だったらどんな日常にも入り込める独特の力があって、暑くてだるくてもいいじゃん?夏の夕暮れ寂しくてもいいじゃん?もったいぶらずにもう一回言うけど結婚しちゃってもいいじゃん?みたいな感じで凄くゆるーい感じでパーソナルスペースに入ってくるんですよ。いて当たり前とまでは言わないけど、この夏最も不可欠な相棒になったというか。そんなわけで今年の夏は困ったらこれ流せばOKって感じでめちゃくちゃ愛聴してましたね。


9位 Mitski「The Land Is Inhospitable and So We Are」

ミツキ姉さんのこのアルバムのレビュー、正味こないだ出した秋の名盤の記事で言いたいことは言いつくしちゃったから、別に特段この年ベスのなかで感想を述べたところで同じ内容繰り返すだけだからあんまおもろないんよね(笑)。というわけで詳しい感想を見たい人は別記事のリンク張るんで見てきてください!!!

リンクを張り付けてビュー数を稼ぐ小賢しい作戦はさておき、俺は一言この場を借りてモノ申したいことがある。

日本、もっとMitskiに注目しろ!!!

もうこの一言です。今こうやって大谷翔平とか、大谷翔平とか、大谷翔平みたいに世界で活躍する日本人が増えてるっていうのに、日本のレーベルの皆さまがたは全くMitskiを取り上げようっていう努力のどの字も見えないじゃないですか。こんな凄いアーティストいるんだから、頑張ってフックアップしてあげて!!!

確かにMitskiの場合はがっつり日本にルーツがあって、日本からデビューしてからの海外で成功ってわけじゃなくて、むしろ日本とアメリカで半々のルーツがあって(この2つのルーツの狭間にいるからこそ生まれたのが最新作なわけでな)アメリカでデビューして成功っていうJojiなんかと一緒で、え?これ日本人の枠組みで取り上げて良いの???ってパターンだからあれだけどさ、Rina Sawayamaはちゃんとプロモーションしてガーデンシアター埋めれるくらいまでの規模感まで育て上げること出来たわけじゃん。で実際問題海外だとどんな感じなのっていうと、イギリス拠点のRIna Sawayamaは若干分が悪いとはいえ、Mitskiの方がチャート成績は圧倒的に上ですからね。それにアジア系ミュージシャンがアメリカでツアーをやろうってなると、まずはMitskiのオープニングアクトから経験を積んでくみたいなパターンが確立されたりするので、欧米圏におけるMitskiの存在ってアジア系音楽コミュニティの先駆者としてのポジションも確立してるんですよ。でしかも18年に出した「Be the Cowboy」なんかはピッチの年間ベストでも1位ですし、今作だって大手評論媒体の年間ベスト上位の常連みたいな位置づけなわけじゃん。つまりMitskiってアジアとかそういうレベル感じゃなくて、世界中のインディー発の女性アーティストとして確固たるポジションを確立した大物と見ても過言じゃないわけですよ。

で今年こそはMitskiが日本でも注目される機会がついに来て、それがアカデミー賞受賞作の「Everything Everywhere All at Once」の主題歌の担当!日本でもかなり注目されてた映画ですし、コラボ相手はこれまた「American Utopia」でノリに乗ってるデヴィッドバーンですし、話題性という意味ではまたとないチャンスだったんですけど

一体日本でどんな食生活を送ってたら広瀬香美にイメージソングを歌わせようって発想になるんですかね。

蓋を開けてみれば、音楽面の感想はあまり出ない映画だったんであれですけど、なんというかせっかく日本にルーツを持つ人がこうやって大作に「参加してるんだから、日本のレーベル側も歩み寄る姿勢みたいなのを見せて欲しかったってのが本音ですね。

最近、インスタとかでも「My Love Mine All Mine」をBGMに使っている人見かけたりするんで、Olivia Rodorigoにドラマタイアップ付けさせたりするよりももっと何か動いてほしいな、ていうかもっと日本でもMitskiがポピュラーな存在になれればいいな。。。


8位 slowdive「everything is alive」

往年のシューゲイザーの名バンドたちの中でも近年復活して最新作でもレベルアップしてることを証明したことで、過去の自分たちのディスコグラフィーの価値をさらに高めることに成功した稀有な成功例が彼らです。ピッチフォークの90年代ベストアルバムみたいなやつでも「Souvlaki」がめちゃくちゃ上位にいましたし、実際シューゲイザーという90年代から続く一つの音楽ジャンルが未だに多くのフォロワーたちを生み出しているのは、シーンのトップのマイブラ以上にslowdiveやRideあたりのベテランがちゃんと今の時代にアップデートしたギターによる音楽表現を追求してるこの姿勢がでかいと思います。

さてそんなslowdiveの新作ですが、再結成後のものとしては2枚目に当たります。彼らが持つ耽美的で刹那な表現というのは相変わらず健在なのだが、その表現に至るまでの過程でかつてのようなノイズによる暴力性という手段を使わなくてもいいという次元にまで到達した感すらある。今作のギターサウンドはどこまでも澄み切っていて、バンドアンサンブルの完成度はもはや匠の域とまで言っていい。なんということでしょう、彼らの奏でる音はノイズという雲を通り抜け澄み切った空のように晴れやかなはずに、そこにあるのは未知への恐怖とある種の達観なのです。まだまだこのバンドには続きがあるように思えて不思議でならない。。。


7位 The Rolling Stones「Hackney Diamonds」

今年はベテラン大活躍の年でしたが、ベテランの中でも大ベテランのストーンズまで新作を出すとは思いませんでした。そもそもストーンズに関して言えばオリジナルアルバムだけで言えば05年の「A Bigger Bang」を最後に新曲制作に関しては乗り気じゃない印象でしたし、さらに言えばオリジナルメンバーでデビュー時からストーンズのボトムを支えていたチャーリーが亡くなったりしたので、アルバムなんて夢のまた夢なんだろうなとは思ってたんですよね。ただチャーリーが亡くなって1か月経たないくらいでミックがSNSにダンスの練習風景の動画を投稿してたりしたので、まぁ来日公演ぐらいはしてくれたら良いかなぐらいに思ってたんですけどまさか新作を作るとはという。しかも新作とは言ってもただの新作ではなく、超ド級のスタジアムロックの傑作を作り上げてしまうのだから驚きなんですよね。

ベテランの新作というと、やっぱり熟練の経験を活かした特有の”枯れ”みたいなものが目立つイメージなんですけど、今作のストーンズはデビューから60年近いキャリアを歩んでいるアーティストから発するエネルギーとは思えないくらいギラつき方を発しているわけですよ。この異様なギラつき方って正直今の若手アーティストでもこんなエネルギッシュな力を自信を持って出せるかというとちょっとレベルを凌駕してるというか、割と最近のバンドマンって王道のスタジアムロックを演奏するのにちょっと抵抗感みたいなのを覚えてる節あるじゃないですか?でもストーンズには一切迷いが無くて、清々しいくらいにお前らが欲しいロックってこういうことだろって提示してるんですよね。

あとこのアルバムの巧みなところって人の使い方が抜群に上手いんですよね。まずフロントマンのミックですが、この人に関しては昔から下手ウマ系シンガーの代表格でして、今作では長年の節制の甲斐もあってか往年の歌唱とも遜色ないクオリティで熱唱してます。あとキースとロンの二人のギターですが、こちらはプロデューサーのアンドリューワットの手腕もあってかロックな曲ではキャリア史上最もドライブしたギターサウンドを披露してます。ただブルーステイストなナンバーでは従来のルーズでだらしないプレイは健在なので流石の一言です。今作屈指のディスコチューン「Mess it Up」ではチャーリーの生前のプレイが聴けるのですが、タイトで流暢なディスコビートを聴かせてくれるのはさすがチャーリーといったところです。それ以外にもファズ効かせまくったベースで牽引するポールマッカートニーや、まさに唯一無二のスキャットを響かせるレディーガガと、全ての人選が適材適所なんですよね。そしてアルバムの締めを飾るのがまさかのバンド名の由来にもなったマディウォーターズのカバーというのも憎らしいです。現役最古のロックバンドが作り上げた維持の一枚としてこれ以上ないくらい相応しい傑作だと思います。


6位 Beach Fossils「Bunny」

このアルバムを聴いて改めて確信したことだが、Beach Fossilisというバンドはやはり素晴らしい歌を作るバンドなのだと。昔から聴いているファンからすれば何を今更って感じかもしれないけれど、彼らが所属しているCaptured Trucksが隆盛を極めていた10年代初頭頃のバンドのイメージは、残響感の強いサーフロックサウンドでかき鳴らす今にも壊れそうなドリームポップバンドというイメージなのではないか?Capture Trucks系だと歌モノと言えばMac Demarcoなんかの方がイメージとしては強いというか、名盤「Crush The Truth」でも聴かれるようにベルベッツからThe Strokesに至るまでのニューヨークのロック文化を下地に不安定なギターサウンドを鳴らし、聴き手の孤独に共鳴するようなバンドというイメージが強いのではないだろうか。

そんなバンドのイメージを刷新したのが、前作に当たる「Somersault」である。この作品で鳴らされた彼らの音楽はそれまでの作品とは打って変わり開放的なものとなっており、特にボーカルのダスティンが以前よりも前面に出てきた印象もあり、特徴的なサーフロックサウンドも減退したようにも思えた。そこから過去の自分たちの楽曲をピアノバラード風にアレンジしたセルフカバー集「The Other Side of Life」を聴いた時、このバンドの曲実はすげぇメロディ練られてたんだなって感心して。そして満を持してリリースされた今作ですが、前作から継続して歌モノの彼らの強みを活かしつつ、12弦ギターによる煌びやかなシューゲイズサウンドは懐かしいあの頃を彷彿とさせてくれる、懐かしさと新しさ、二つのワクワクを楽しめる一枚となった。

ある休日に新宿サザンテラス口のブルーボトルコーヒーでお茶してた時に、店内BGMで今作収録の「Run To The Moon」が流れてなんだか感動しちゃって。新宿のブルーボトルって人の行き来が激しい場所にあって、店内もずっと人が混雑しているようなにぎにぎした場所なのに、確かにBeach Fossilsの音楽が聴こえてくるんですよ。浪人生時代に部屋で不安に苛まれながら聴いていた孤独なギターロックが、こうして形を変えつつも確かな強いメロディを奏でてこうして日常に溶け込んでいるんですよ。なんかよくわからないけど凄く嬉しくって、音楽の持つ力って何かよくわかんないけど凄いよねって。


5位 Storm-Drunk Whale「홍합탕 펀치 / mussel soup punch」

ほんとにどうしようもないくらいローファイ過ぎてチープでだらしなくて、でもまるで春の息吹を告げるかのような不思議なシューゲイザーな一枚。このアルバムを知ったのは3月の頭ぐらいとかかな、あまり習慣化してなかったbandcampで音源を漁ってみるという作業の中でたまたま見つけて、その時はTwitterとかでも日本人2,3人くらいしか呟いてなくて、多分Twitterとかでも発信したのは自分かなり早い方だったんじゃないかなと思う。なんか自慢みたいになっちゃった、嫌なやつ、嫌なやつ。

さてそんな今作ですが、やはり比較対象としてどうしてもParannoulの「To See the Next Part of the Dream」の存在がよぎってしまいますね。多分今後韓国のみならず日本含めたアジアのシューゲイザーシーンに関してはずっとこのアルバムと対峙しなきゃいけない運命を背負わされたというか、そもそもシューゲイザーというジャンルが対マイブラの「Loveless」みたいな側面があるのに、アジア圏だけ新たな強敵を増やされてしまった感が否めません。ソードマスターヤマトみたいに一コマで四天王の残り3人一刺しとかできればいいんですけど、あれはギャグマンガ日和だから許されるのであって現実じゃそう上手くいきません。でそんな中でリリースされた本作も、間違いなくParannoul以降の世界線の作品に当たるのですが、作品の手触りとしてはParannoul以上に宅録感が顕著というか、音の加工の仕方も意図的なのか技術不足なのか判別がつかないくらいローファイな作りなのでかなり人を選ぶ印象があります。

とはいえギターに関しては多分自ら弾いているんでしょうね、凄く粗のある演奏なんだけど感情が演奏に乗っかってるので聴き手に揺さぶる何かが確かにあります。俺の心の中の地球屋の店長も「Storm Drunk Whaleさんの切り出したばかりの原石をしっかり見せてもらいました。よく頑張りましたね。あなたは素敵です。」って褒めてるもん。個人的にはこの作品の描く情景っていうのは先述のParannoulやThe Otalsのような制服青空プールサイド文学っていうよりかは、それこそ天沢誠二が月島雫と2ケツで聖蹟桜ヶ丘のきっつい坂を上った早春の夜明けのような景色だと思うんですよね。まだ花を咲かす前の期待と不安で入り混じりながらも背伸びしたくなるつぼみのような作風と言いますか、「私、背伸びしてよかった。自分のこと前より少しわかったから。」って今にも言い出しそうな感じがこのアルバムには漂ってそうじゃないですか。不器用ながらもみんなついつい完璧を目指してしまう、でも背伸びして今できる全てを、不器用ながら愚直にやり遂げる、そういう気持ちが大事なんじゃないかなとこのアルバムを聴いて思うわけですよ。俺の心の中の地球屋の店長も「初めから完璧なんて期待してはいけない」って言ってたし、多分そういうことなんだと思う。


4位 cero「e o」

もうね、怖い。この人たちはどこまで高い所を目指そうとしているのか。そりゃ早く最新作は聴きたかったよ、でもさ、「POLY LIFE~」から5年近くとかか?あの極限までに肉体的なポリリズムを追求した作品の次の一手が完全に解脱の境地のような今作になるなんて誰が予想できるっていうんだ!!!

はい、ceroに関して言えば個人的に今日本で一番ヤバいバンドだと思ってて、音源の完成度は言わずもがな、ライブに関しても「POLY LIFE~」以降の体制になってからの洗練のされ方は凄まじいものがあって、割とひいき目抜きにしてもRadioheadとかそういうベクトルで比較してもいいバンドになりつつあるのかなと思います。僕自身は21年の新木場でやったTrafficと22年の日比谷公会堂のライブに足を運んでますが、高城晶平が考案したんであろう謎の寸劇が本当に謎って点を除けばどれも神秘的な体験に近いようなレベルの高いライブなので、ぜひぜひまだceroのライブ行ったことないよって人は足を運んでほしいです。ですが、肝心の音源に関しては年1ペースでシングル(どれもクオリティくっそ高い)がでるくらいで、アルバムという形で今まさに油に乗っているceroがどんなものを作るのかっていうのは凄く興味深いものとなっていました。

結果としてメンバー全員のソロ作が一通りそろったタイミングでドロップされた本作は、「Obsucure Ride」で提示されたような都会的なアーバンソウルでも、「POLY LIFE~」で提示された複雑のリズムによる圧倒的快楽などでもなく、アフターコロナを経てひたすらに漂白された都市の風景を凄い遠い視点から俯瞰するceroにしては偉く突き放したような作品が来たじゃないですか。本人達は前作までのバンドに重きを置いたスタイルとは違って制作はやりやすかったみたいなこと言ってますけど、ただテーマが一気に飛躍した上にそれを遂行出来てしまった、結果として非人間的なある意味シャーマンにも近いような祈りのような作品が出来てしまったという。コロナ明けの祝祭感を彩るような作品がぽつぽつ増えて来たなって中で、都市の狂騒を爽やかな音楽に乗せて描いてきた彼らが、佐藤博ばりに突き放すタイプのリラクゼーションミュージックへと行き着いたのが、なんともネオシティポップの代表格だった彼らが消費社会への郷愁というアンチテーゼを孕む原初的な意味合いのシティポップを描くとはという。問答無用で今年の邦楽シーンを象徴する一枚だろう。


3位 Mr.Children「miss you」

高校生くらいの頃かな、ちょうど「Reflection」がリリースされたのを機にミスチルをちゃんと聴こうと思い、近所のTSUTAYAで有名どころの作品をレンタルして、その時に聴いた「深海」、「BOLLERO」、「DISCOVERY」で桜井和寿ってもしかしてやべぇ奴なのでは???となって以来、またあの時の淀んだ眼をした桜井和寿が戻ってきたのを告げる作品が来ました。

思えば20年発表の「SOUNDTRUCKS」は小林武史のオーバープロデュースによって骨抜きにされたバンドが、ロックバンドとしての自信を取り戻したバンド渾身の傑作でもあったわけです。で、その後のミスチルって何やってたのっていうと、映画「キングダム」のこれまた自分たちの特性に向いていないような主題歌を提供して、そしてネトフリのようわからん映画にまさかの因縁の小林武史とのタッグで主題歌提供してたんですよね。しかも後者がこれまたファンの間で好評だったぽくて、なんだかなぁと思ってたタイミングで全曲新曲の今作のリリースを発表なんですよ。しかも先行の一つの「Fifty's map」に至っては歌詞はやたらと”老い”を想起させるものばかりな上に、MVがほぼ「くるみ」の使いまわしというなんかいつものミスチルと違う感じがこの時点で漂っていました。

そしてドロップされたアルバムですが、完全にミドルクライシスに陥ったであろう桜井和寿の絶望と憂いをもうお腹一杯レベルで描いてしまった問題作でした。前作で理想的なベテランバンドの成長曲線を描きつつも、”老い”という新たなテーマと向き合うという、一億総中流社会バンドから少子高齢化社会バンドとしての宿命を背負うという業の重さが、今作では表現者桜井和寿をひたすらに苦しめています。加速する時代に取り残され、かつてのようなトップランカーとしてシーンを牽引する力もなくなり、居場所を失った彼らがここまでネガティブな言葉の嵐を僕らに浴びせてくるなんて。巷で物議を醸してる「アート=見えざる手」なんかは桜井和寿の安直さがよく出てるからまだ良いんですけど、今作のヤバいところはそういった精神的に不安定な状況を音でアプローチしようとしているところ。サウスロンドン的なジャやブルーアイドソウル、ヒップホップの影響もちらほらありつつ、基本的にはフォークを主体としたバンドアンサンブルという。これって90年代後半にオルタナに接近したあの時と状況はよく似てて、このバンドは精神衛生が良くないと脱J-POP的な方向に向かうところがあるんですよ。それでも、それでもやっぱり桜井和寿って一抹の希望を抱いてて、ここまでリスナーをふるいにかけた先に終盤3曲で急に君=リスナーへ感謝をし始めるという。カイジか!?お前は逆境無頼カイジなのか!?冷蔵庫の中に入っているのは2,3本の缶ビールじゃなくてキンキンに冷えた床なんだろ!?!?!?!?壮大な前振りをかました先には、まさかここまで生活感をさらけ出した桜井さんがいるなんてっていう特大サービスまでかましたところで、なんというか凄く人間臭い一枚が完成しましたね。衝撃作だし問題作でもあるんだけど、結局人々の生活に浸透していく音楽なんだろうなと思わされる一枚だ。


2位 Blur「The Ballad of Daren」

今年の夏、間違いなくブラーの存在が片隅にある夏だった。こんな夏は正直初めてというか、なんとも不思議な経験である。7月初頭にキャリア初ぼウェンブリースタジアムのライブ、しかも活動自体も数年ぶりとかのレベルなのにその直前に新作のリリースを発表、そして先行曲となった「The Narcissist」をリリースという。これだけでもかなりスピーディーな展開だったが、この「The Narcissist」がこれまためちゃ良い曲でぶったまげて、まだブラーにはこんなマジックを起こせるだけの力があったのかと。

思えば俺のなかでブラーって好きなバンドの一つではあったけど、フェイバリットの域には絶妙に入らないくらいのバンドだった。オアシスかブラーで言ったら即答でオアシスって答えるくらいの眉毛フリークだし、やっぱりアルバム通しで聴けないバンドっていうのもあってあんまフルで一枚聴こうってのが起きないタイプのバンドだったんですよね。いや曲単位で言えば「Charmless Man」なんかはめちゃくちゃ好きだけどさ、サマソニに発表された時もブラーのために1日割くのってどうなんだろう…って思うくらいの立ち位置のバンドだったからね。結果的にはサマソニ2日分買ってそのタイミングでの「The Narcissist」のリリースで、これは期待してもいいやつなのでは?となりまして。結果としてはアルバムも、サマソニも全部僕の期待を良い意味で大幅に裏切るものとなりました。

まず収録時間の時点で名盤確定です。これほんと大事で、ブラーってデーモンアルバーンが純粋にいい曲を書けるためのホームみたいな位置づけなんですけど、いかんせん安心しきるのかわからないんですけど収録時間が長くなりすぎて冗長になるきらいがあるんですよね。ですが今作は10曲36分、ほんとにブラー???って疑うレベルでコンパクトです。そして曲は言わずもがな良いんですが、歴代のブラーの楽曲たちと比べても実直な印象の楽曲が多いです。え?ほんとにあなたたちブラー???僕の知ってるブラーは表現スタイルは変わろうとも、XTC由来のイギリス人特有の捻りを楽曲に仕込ませるバンドです。今作に限って言えば冒頭の「St. Charles Square」ぐらいですかね、今までのブラーらしさが出てる曲って。でも思えば今作ってリリースからの流れが異様にスピーディーだなってのがあって、というのも前作「Magic Whip」ってグレアム復帰後の再結成から結構時間が経ってから制作されたのどちらかというとブラーの捻りの要素を時間をかけて抽出出来たんですよ。じゃぁ今作はというと直前までデーモンもゴリラズの活動をやっていたので結構スケジュール感はタイトだったんじゃないかなと思うんですよ。ただ今年のサマソニで彼らのライブを観てなんというか確信と発見があって、確信はバンドの関係性が過去一で見ても充実しているということ、そして発見は制作過程はタイトじゃなくてスムーズに進んだからこのようなスピーディーなリリースになったんだということ。目に見えてわかるんですよ、今このバンドは音を鳴らすことでマジックが生じるということを。数値化できない、譜面に起こすこともできない、当事者ですら意図してないバンドのマジックが起きてるということを。今作はそんなバンドのマジックの一部分を収めたに過ぎないだけ。これでもほんの一部なのよ。凄い。




さていよいよ今年の一位です。

今年はどのアルバムが栄えある一位を獲得するのだろうか…


































































1位 Peter Gabriel「i/o」

一体、このアルバムにいたるまでにどのような軌跡がり、そしてなぜ2023年にこの独特の形態でドロップしたのか。それは我々リスナーからは計り知れない物語があったのかもしれない、21年という歳月は短いようで長く、その間に多くの命が生まれそして死んでいった。消費が加速する時代の中で、ピーターガブリエルは長い年月を持ってして、時代の流れとは逆行した、だが我々リスナーに対して問いかけるような作品を作り上げた。

ピーターガブリエルという人は今日まで、孤高の表現者として独特の存在感を確立した人だ。筆者にとってのピーターガブリエルの出会いは小さい頃にさかのぼる。小学生の時に父親のレコードラックを興味本位に漁っていた時に突然現れた「Peter Gabriel 3(通称Melt)」に恐怖心を覚えた時だ。「Melt」のジャケ写と言えばピーターの顔半分がただれたグロテスクなものだが、今も昔もホラー映画やお化け屋敷は怖い質の人間なので普通にビビったのを今でも覚えてる。その後車で音源を聴かせてもらった時も、スティーブンリリーホワイト仕込みの歪な金属音ととっつきづらい音楽性も相まって全くしっくりこなかったというのが第一印象だ。そうかそうかそれならば先生(ロバートフリップのことを我が家では先生と呼ぶ)が全面的に参加している「Peter Gabriel 2」をだなと早口でしゃべる父をよそ眼に、ただただピーターガブリエル=不気味な人という印象だけが強まったのであった。中学生くらいになってからピーターガブリエルがフィルコリンズと同じバンドだったということを知った。フィルコリンズは当時フジテレビのとくダネのテーマソングが「Invisible Touch」ということと、あと幼少期に見たディズニーの「Tarzan」の音楽もやってたのでなんとなく名前と音楽が一致する程度で知ってた。そして当時はピーターガブリエルが様々なコスプレをして歌って、彼が抜けた後にピーターに声質が似てるフィルがボーカルに転校したということを。この時点でさらにピーターガブリエルという人が分からなくなる。ほどなくしてYouTubeで「Sledgehammer」のMVを視聴、今まで知っていた不気味なカルトスターとは思えないくらいヒップなポップナンバーを鳴らす姿を目の当たりにし完全に分からなくなる。それが今にも続いていて、結局ピーターガブリエルという人物の核心的な部分が分からないまま彼の音源を愛聴しているのだ。

とはいえピーターガブリエルに関してはライブは定期的にやっていたし、ピクサー映画の主題歌もやっていたのでそこまで久しぶり感はないのだが、いかんせん最後のアルバムが自分が4歳とかそのくらいのリリースなので、正直今彼が音楽を作るならばどういうものになるのか全く想像がつかなかった。今年の頭から毎月新曲をリリースしてたのは知ってたが、アルバムという形態になるまで楽しみにしてたので聴かずに待っていた。そしてリリースされたそのアルバムは、Bright sideとDark sideという12曲を2つのミックス違いで収録するという結果的に24曲2時間越えの今まで彼の作品を待っていた人からするとご褒美に近いのか?はたまたいやいやその量感は長くて聴く気がしねぇよっていう感じなのか?人によって抱く印象は違うと思うが、ここ最近のストリーミング文化の最中でも1時間越えで大作と呼ばれる中で、その倍のボリューム感でしかも同じ曲のミックス違いというある種の挑戦状のような内容なわけで、一方でCDの時代だったら2枚組として分けられてたと考えると1本の筋でつなぐことが出来るのはストリーミング文化の恩恵を受けてるので興味深い所だ。

肝心の内容についても、これまで様々な物語を紡いできた彼の経験が血となり肉となり、やがて言葉となりそして音と結びつき音楽という一つの芸術作品を作り上げていく、そんな内容だと思います。いきなりこの作品が只者ではないことを予兆させる「Panopticon」から始まり、公正な法による裁きをぴしゃりと場を鎮めるドラムと共に訴える「The Court」や、前向きなメッセージ性が込められた「i/o」や自然との共鳴を歌う「Olive Tree」で見られるポップさ。そして「Playing For Time」や「So Much」のようにピアノの前で時に雄弁に、時に語り掛けるように歌う彼の表現力はもはや神々しさすらあります。最後はアフリカンなリズムの影響もみられる大団円のような「Live and Let Live」で締めるのは、往年の「Biko」や「In Your Eyes」を彷彿とさせるものとなっていて待っていたリスナーへの最大限の感謝と人生のヒントを授けているようにも思えます。それで感動していたら今度はまたミックス違いの同じ内容の12曲が始まるんですけど、これがまた全然聴こえ方が違うので結局聴き入ってしまうという(笑)。なんだか音楽として楽しむというよりは、美術館でただじっくりと作品を鑑賞する感覚に近い楽しみ方をこのアルバムに対してはしてる気がします。どうしても余裕を持てない今だからこそ、一度立ち止まってじっくりと向き合う時間を設けること。21年という歳月をかけてまでそれを証明したピーターガブリエルの作品からそれを感じられるのは説得力があるというか、納得がいくまで立ち止まることも時には大切なんだなと思った2023年なのであった。



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