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無題

看護師になって3年。初めて受け持ち患者さんをお看取りした。
元々病床も少ないHCUだし、そこまでお看取りが多い部署ではない。私が受け持ちではなかった患者のエンゼルケア(死後処置、体拭き、お着替えなど)は、それなりに数はこなしていたと思う。
親戚の葬式にもたくさん出たし、20代前半にしては見取りとか人が死ぬ現場には慣れている方だと思っていた。思っているだけだった。

朝から状態は良くなかった。時間の問題って先生とも話してた。でも私の受け持ちの時じゃない、なんて漠然と考えていた。
少しものを用意するために数分離れただけ。数分前には安定していた呼吸が戻ったら止まっていた。
人を呼んで、先生を呼んで、どこまでやるのか、ご家族の意向は?処置に入りながら受け持ちの私はその場で答え続けた。
家族を呼んであれよあれよという間に死亡確認。死後処置。お見送り。
仕事中は忙しくてゆっくり考えている時間もなかった。残っていることないかを確認し次の業務に追われた。
疲れてくたくたになって電車に乗って、家までの帰り道でふとご家族の泣いている顔が浮かんで、なぜかぽろぽろ泣いてしまった。

人が一人、この世からいなくなった。今まであまりにも私は簡単に流していすぎてしまったようなきがする。
こんな現場にいたせいか、今まで私が過ごしてきた環境のせいか感覚が麻痺した気になっていた。慣れているから大丈夫だって思い込んでいた。

私があの時患者さんのそばから離れなければ防げたのだろうか。もう少し生きていられたろうか。
私はあの患者さんの最後に何をしてあげられたんだろう。
ご家族にどんな言葉をかければよかったのだろう。

看護師の仕事をしている以上、人の命をお預かりしていることは重々承知している。でも今回のことでより一層思い知った。
人の命を預かるということは、その人の今までの人生全てを尊重し慮ることでもあったんだ。その上で私たちには何ができるかを考え、実行し、予測しうる事態に備えなければならない。

正直なところ、私が人一人の命を背負うのは重い、自信が無いとずっと思っている。
でも私にできることを考え、実行していくことをやめたくはない。絶対にやめない。
最後に少しでも、「この人生、悪くなかったな」と思って休んでいただけるように。それができる数少ない仕事だと思うから。


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