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【絵本レビュー】 『ちび竜』

作者:工藤直子
絵:
あべ弘士
出版社:童心社
発行日:2019年12

『ちび竜』のあらすじ:

小さなつぶからうまれたちび竜は、水たまりからとびたち、いろいろな生き物に出会う。とんぼからは飛び方を、フナからは「うろこ通信」のやり方を教えてもらい、ほかにもたくさんのともだちに出会って、あそび、風や水や土となかよくなった。どんどんでかくなっていったちび竜は、やがて、光る青い地球を抱いて……。


『ちび竜』を読んだ感想:

子供はいろんな人に育てられる。
自分が親になってみて初めて気がついた。うちはどちらかというと内向的な核家族で、父はあまり来客が好きではなかったし、私を何処かに預けるということもあまりなかった。友人の家に泊まりに行くという経験も、覚えている限りでは数えるほどしかない。しかも泊まるのはいつも同じ家だった。

反対にうちにいる6歳児はとても社交的で、どこへ行ってもすぐ話し始める。しかも子供より大人が好きで、遊んでいる子供の親とすぐ仲良くなる。やっと戻ってきたと思ったら、「あの子をうちに招待した」と言ってくる。でなければ「君のうち行ってもいい?」と会ったばかりの子に聞くこともある。

小さい頃から私が友人の家に仕事中預けていたからあまり抵抗がないのかもしれないし、元々そういう性格なのかもしれない。ただ、うちの子のことを、国籍を超えて、自分の甥のように大切にしてくれる人たちがいるというのは、本当に喜ばしいことだと思う。

数週間前に卒園した彼の先生と最後の懇談会があった。小学校に上がれる準備はできているのだろうか。嫌いなこともうまくやれるようになったのだろか。そんな心配を抱えて会ったのだけど、先生からの意外なコメントに驚かされた。

「彼は僕の息子みたいなもの。いつか彼みたいな子が欲しいなっていつも思ってたよ」

10何人もいる子供たちを世話する先生にそんな風に思って対応してもらえていたなんて、なんて素敵なことなんだろうと、感謝の気持ちしかなかった。それと同時に彼を本当に家族のように扱ってくれる友人たちのことを思い、やはり感謝の気持ちでいっぱいになった。私たちはこの外国の地で親も親戚もなく生活している。病気になっても長い休みになっても、他のドイツ人家族のように子供を実家に送ったり、祖父母たちにきてもらうことだってできない。核家族化が進んでいるけれど、子供というのは親だけで育てるものではないのではない。日々そう確信しているのである。

私の家族はほとんどの時間を3人で過ごしていた。母方は割と大家族だったけど、父はあまり祖父母の家に行くことを好まなかったし、行っても「できるだけ出されたものは食べないように」なんてお達しを下す始末だった。父には彼なりの教育方針があったから、他の人に影響されるのを避けたかったのかもしれない。

そんな私は13歳の時書道の先生と出会った。最初は子供たちで溢れていた教室も、先生の引っ越しと共に数人の大人たちのみが残った。高校生になっていた私もそのまま通い続けた。お稽古はたいてい私独り。暑くても寒くても、先生は日本茶を入れてくれて、時にはお菓子を用意して待っていてくれた。お稽古が長引くと、「そろそろ、お茶でも。お菓子もありますよ」と言ってさりげなく急かしてきた。戦争を身をもって体験した先生は政治にとても関心があって、選挙期間はテレビをつけっぱなしにして、政治家たちの演説を真剣に聞いていた。時には「嘘つきが!」と声を荒げ、選挙に行くことの大切さを熱く語ってくれた。徴兵された時の気持ち、先生のお母さんの悲しみや戦場での体験も話してくれた。

海外に行っても書道を続けるよう後押ししてくれたのも先生だった。財布が厳しければ授業料を払わなくてもいいとさえ言ってくれた。そうしてその後10年以上、私が世界のどこへ引っ越しても、先生は毎月お手本を送ってくれた。毎回添えられていた半紙を貼り付けて巻物状にした手紙を私は温かな気持ちで読んだことを覚えている。先生が亡くなって10年ほど経つけれど、その存在はとても近しい。旦那にも「君の先生は書道を通じて君に何かを受け渡したみたいだね」とよく言われる。確かにそうなのかもしれない。当時父との関係に悩み、ほぼ会話を交わすことのなかった私にとって、先生の家はシェルターでもあり、先生との時間はまるで祖父と過ごしているかのようだった。彼なくして、今の私は存在しないと確信している。

「子供を一人育てるには、村全体が必要だ」
という諺がアフリカにはあるそうですが、まさにその通り。親だけでは教えきれないことがたくさんある。そしてたくさんの人たちと接することは、子供自身にとってもいいことだと信じている。

あなたが子供時代影響を受けた人って誰ですか。

『ちび竜』の作者紹介:

工藤直子
1935年、台湾生れ。詩人、童話作家。お茶の水女子大学中国文学科卒業。『てつがくのライオン』(理論社、現在復刊ドットコムより刊行)で日本児童文学者協会新人賞、『ともだちは海のにおい』(理論社)でサンケイ児童出版文化賞受賞、『のはらうたV』で野間児童文芸賞受賞。第27回巌谷小波文芸賞受賞。 多くの詩集、エッセイ、絵本を出版し、絵本の翻訳も多く手掛けている。


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