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【絵本レビュー】 『おにはそと』

作者/絵:せなけいこ
出版社:金の星社
発行日:2010年12月

おにはそと』のあらすじ:

豆まきにあった鬼たちが逃げ出し、残されたちび鬼は、人間の子どもたちと仲良く遊びはじめます。ちび鬼がつかまった、と慌てた鬼たちは相談し、鬼の親分が鎧を着てちび鬼を連れ戻しに行きますが…。


おにはそと』を読んだ感想:

今となっては懐かしい節分で、もう何年も豆まきすらしていません。恵方巻きが今のような大ブームとなる前に日本を出てしまったので、このありがたい海苔巻きも食べたことがありません。

父は年中行事を割ときちんとする方だったので、高校生になってもうちでは豆まきをしていました。でもうちには鬼は来ませんでした。父が鬼に化けるという発想も彼にはなかったのかもしれません。時々豆の袋についてくる鬼のお面も、所在なげに台所のテーブルの上で天井を見つめていました。私は学生時代週六回スイミングに行っていて、平日帰ってくるのは夜九時過ぎでしたが、父はたいてい玄関で豆の袋を持って待っていて、
「ご飯の前に撒けよ」
袋を私に渡して、自分はただ見ているだけなのでした。

「鬼は外、福は内」
玄関から始めて、勝手口そして門を回って家に入ると、年の数だけ豆を取ります。ティッシュに取り分けた数粒の豆を見ながら父の年齢を思い出し、羨ましく思ったものでした。今となってはそんなにたくさん味気のない豆を食べようとは思わないので、当時の父もきっと年齢分なんて食べていなかったのでしょう。

父が節分の豆を食べていたかどうかなどと考えていたら、ふと疑問が浮かんできました。両親って一体どんな会話をしていたのでしょう。私の父はよく話す人で、食卓でもほとんど彼が話していました。話す内容もニュースやお気に入りのドキュメンタリーで見たことなどでしたが、何せ反対意見を言うと機嫌が悪くなるので、会話というよりはモノローグといった感じだったと思います。だからこそ、今自分が家庭を持って親となり、一体私の両親はどんな会話をしていたのだろうと気になり始めたのです。

私はあまり父と会話をした記憶がありません。大抵は父からの連絡や命令で、食卓でも一人で話していることが多く、母はどちらかというと、「へえ」とか「そうなんだ」なんて相槌を打つだけなのでした。後で聞いたら父の話したことは全く覚えてないということだったので、これは会話ではありませんよね。

今の私の家族は夫婦が同じ文化を共有していず、話さなければ伝わらないことだらけなので、必然的に説明したり話をすることが多いです。もちろんそれでも伝わらないことが多くイライラするのですが、息子が
「パパ、ママとしゃべらないで!」
というほどなので、少なくとも私たちは会話をしているといえるでしょう。

節分のことを思い出していたら、父の気持ちを聞けなかったことをちょっと後悔してしまいました。


おにはそと』の作者紹介:

せなけいこ
1932年、東京生まれ。武井武雄氏に師事。1970年、「いやだいやだの絵本」でサンケイ児童文学賞受賞。児童出版美術家連盟会員。「あーん あんの絵本<全4冊>」(福音館書店)、「おおきくなりたい<全4冊>」(偕成社)、「ばけものつかい」(童心社)、「おばけのてんぷら」(ポプラ社)などの作品がある。ほかに紙芝居、装丁、さしえなど幅広い分野で活躍中。

 
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