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何かに執着する心を、どうにかしたいと思ったら一旦、落ち着こう

 何かに執着するのが悪じゃない。執着することを価値判断するのが悪なのだ。何かに執着している自分に気づいたら、次にどうするか。あとは選択の問題。執着している自分を嫌悪するのは無意味。

 こんにちは、僧侶です。

この記事で“仏教では何かに執着する我が無いのが本当の幸せ”と書いたら友人のあゆみさんから反応がありました。

 例えば、付き合っている相手が何しているか気になり頭から離れない。結果、ひどい束縛をして失敗する。交際関係が執着でギクシャクする代表例です。他にも、お金に対する執着心が強い自分のことがあまり好きでないとか。私たちは日頃から好きなモノ、高い地位や名誉、さまざまなものに執着しながら生きています。これを書いている僧侶の私は仏教に執着しています。

そもそも、執着は何が問題なのか。

それは「私」です。

私の彼女
私の彼氏
私のお金
私の子供
私のモノ、私の手柄、私が社長、
私の人生、私の命、私の病気、私の…

 これら私の〇〇という対象への執着心が強くなると、対象を自分の思い通りにしたいというこだわりも強くなります。しかし、何でもかんでも物事は思い通りになるはずもなく、その不満が溜まると人生苦が生じます。だから仏教では、この「私の〇〇」という考え方が問題のガンですよ?その自分の都合を外して考えられると楽ですよ。それで何にも執着せずに自由に生きるのが本当の幸せですよ。と説くわけです。

 仏教だけに関わらず“執着=良くないこと”という言説は心理学や自己啓発の本にも溢れているので、多くの人が知っているでしょう。

 今日の本題はここからです。

 いや、そんなことわかってるよ。だけど実際には簡単に執着を手放せないし。何かに執着する自分に気づくたびにげんなりする。ダメな自分に鬱々とする。

 この負の連鎖への仏教的対処法が「価値判断しないこと」。
これは、仏教やマインドフルネス(※1) 関連の本にめちゃくちゃ登場するトレンドワード。何かに執着した自分に気づいた時にとても大事になる態度。どういうことか、茂木健一郎さんがうまく説明しています。

 これをあゆみさんの発言を分割してみるとこうなります。

1、あゆみさんは何かに執着して生活していた。
2、それに気づいた。
3、そして“とほほ”となった。

 あゆみさんは、執着するのがよくないと知っているから3で“とほほ”となりました。この“とほほ”が価値判断です。これをせずに、この前の2で執着に気づいた時にそれを価値判断せずに観察する。これがマインドフルネスな態度。負の連鎖への仏教的対処法。“とほほ”となる必要はないよということです。お金や愛するパートナーで言うなら、「あ、執着している」と気づいたら、それが良いとかダメとか価値判断せずに、一旦 執着している自分に気づいて落ち着こう。というわけです。

価値判断しないでどうするの?

 それで落ち着いたあと価値判断しなくて、どうすればいいのか。執着している自分に気づいたら、あとは、そのまま執着するのか、執着をやめるのか、選択の問題。自分で選べます。だから結局選ぶときに、この執着は良いから続ける、良くないからやめる、と価値判断することになりますが、これは未来に向けての価値判断なので必要です。前の価値判断は過去の行為に対する価値判断です。例えば、執着がやめられない自分の言動を省みて「私はダメな人間だ、ダメな人間だ」とマイナス方向に価値判断を挟み続ければ、最後は鬱病になるでしょう。過去の自分をネガティブに価値判断するのは無意味。害悪です。価値判断は、これからどうするのか未来の選択とセットですることで意味あるものになります

 人間は常に自分にとって大事なモノに執着してしまう生き物です。それ自体は普通のことなので悪くない。問題は気づいたときにどうするか。考えて正しい価値判断をして選択できれば、執着したっていいじゃないということです。これは自分の執着に無自覚なまま、愛欲や金欲に溺れて人間関係を壊す人とは、同じ執着の話でもまったく次元が違います。無思慮に自分の傾向性や癖に流されて問題を起こす人は、そもそも自らの言動に気づきがないので価値判断ができません。

 自覚がある人は、価値判断をしない気づきと価値判断+未来の選択を、丁寧に積み重ねることで、日常的にこだわりたくないと思っている執着と徐々に距離を置くことが可能になります。私自身の経験としては、仏教に執着する(恋する、愛する、こだわる、信じる)ことで、異性やお金に執着する気持ちが失せた感じが強いです。自分の傾向性や癖に無思慮に流されて不快な思いをしないように、また周囲を不快にさせないように、一つ一つの自らの言動への価値判断をはさまない「気づき」を重んじるのが仏教です。そして、毎日の仕事や生活の中でせまられる価値判断と選択を、より質の高いものにしていければ最高です。

※1:マインドフルネス(mindfulness)
今この瞬間の自身の精神状態に深く意識を向けること。またそのために行われる瞑想。2010年代半ば頃からストレス軽減や集中力の向上に役立つ心的技法と見なされ、特に欧米の企業を中心に社員研修などに採り入れる動きがある。 出典 小学館デジタル大辞泉

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