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僕、エッセイはあまり書かないんです。|M通信


こんにちは。浅生鴨さんの新刊エッセイ集『どこでもない場所』の担当編集をしています、守屋といいます。
これから『どこでもない場所』マガジンに間借りして、書籍の近況報告や制作のこぼれ話など 〜題して「M通信」〜 を投稿していきます!本編公開のおつまみ(?)として、楽しんでいただけると嬉しいです。


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浅生さんと初めてお会いしたのは去年の6月頃、食事の席でした。
初めて仕事の依頼をしたのも、その日、食事会場前です。

「エッセイとかは、書きませんか」
「僕、エッセイはあまり書かないんです。」

こう、やんわりとお断りされてから始まりました。

そもそも断られているので始まっていないし、なんだかナンパのようにとても軽い気持ちで依頼したようだ……。

とはいえ、何も知らずにお声がけしたのではないのです。お会いする前から、エッセイ「働かない働き方」を読んで、浅生さんのことをどんな人なんだろうと思っていました。

高校を出てからスーパーのバックヤードで野菜を切ったあと、ゲーム会社やレコード業界でディレクターやプロデューサーをしていた。グラフィックやテレビCMといった広告を制作する一方で、舞台監督やイベントの音響・照明を請け負い、ナレーターとしてスタジオに赴き、インターネットの普及期には官庁のWEBサイトの構築をやった。もはや時系列はあやふやだが、美術家の個展を手伝い、医学関係の学会運営をサポートし、自動車メーカーの海外プロジェクトに関わり、企業や団体のロゴをデザインし、一時期は専門学校の先生までやっていた。つなぎを着てバキュームカーに乗り、郊外の工場で機械を組み立て、放送局でテレビ番組をつくった。


……何人ぶんの職歴なのか?

しかもそれを自分がやりたくて始めたのではなく、ほとんど成り行きでやってみたのだと書いてあります。一体どんな成り行きでそうなるのか?(うらやましい!) そうだとして、今の仕事に未練はないのか? どうしたらそんなに身軽になれるのだ? など、聞きたいことがたくさんありました。職歴の多さに反比例するような、やりたいことのなさと意識の所在なさとの関係が気になっていました。

でも結局、お会いした時にその辺りのことは聞けず。

浅生さんは自筆の鴨の絵のついたパーカーを着て、半袖の人に囲まれながら食事をして、奇妙なおじさんの話をしていました。「自転車修理屋の前でいつもぼーっとしているおじさん」の話だったか、「いつもぼーっとしているおじさんが自転車を修理してくれる話」だったか、詳細は忘れたのですが、とにかく子供の頃によくいたという、何の仕事をしているのかわからない大人たちの話でした。なんでもない話が不思議と面白かった。

それを聞いて、依頼しようと決めていました。

目標のないことについて、あるいは一本筋でないことについての話、というくらいのふわっとした本のイメージだったのですが、これは一度フリーター・貯金なしになった時に、何もしていないこと、したいことがないことに対して後ろめたさを持っていたあの頃の私の、あの気持ちをどうしたらいいのだ!というぐずぐずとした思いを、勝手にどうにかしてくれるのではないかと思いながら興奮していました。今日聞いたような人たちの話や浅生さんがどうして身軽にいられるのかがもっと知りたいと思っていました。

それで帰りがけに依頼して、エッセイはあまり書かないけど…とお話しいただいたのです。

その後浅生さんは、これから出る小説があるのだということ(のちの『猫たちの色メガネ』)、それとは別に4年待ってもらっている小説があってこちらなどまだ全然進んでいないのだということ(のちの『伴走者』)、他にも待ってもらっているものがあって、つまり僕は〆切を守らないので迷惑をかけると思うということを話されて、そして帰っていきました。

そのあとメールを送って、

「僕にできることなら、やります」

というようなお返事をいただいて、始まった企画です。

…そうして始まったのですが、私も読んでいる間に迷い込み、少し奇妙になって仕上がった本だと思うので、そのあたりをこのマガジンで楽しんでいただけると嬉しいです。いろんな読まれ方をされるといいなと思いつつの、回顧録でした。


追記

浅生さんは飲み食い話しながら、ときどき小さいメモ帳を取り出して、なにやら書き付けていたことも妙に印象に残っています。あれは何に使っているのだろう。


本書『どこでもない場所』に興味を持っていただいて、取材などご検討いただける場合は左右社までご連絡いただくか、あるいは浅生鴨さん公式ホームページの応募フォームからも受け付けております。

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