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192は16の倍数|M通信

担当の守屋さんが『どこでもない場所』のこぼれ話を書いてくださっているので、その補足というか、返信のようなものを書いている。(鴨)

 なんと守屋さんから届いた、いろいろな人の書いたエッセイは、どうやら長さの目安として送られてきたものだったらしい。
 たしかに新聞や雑誌にコラムやらエッセイやらを書くときには、原稿用紙で何枚くらい、あるいは何文字くらいという指定があって、その指定のとおりに書けばよいのだけれども、なにせ書き下ろしということでその辺の見当がつかず、どのくらいの長さにすればいいだろうねという話をしたような気がする。
 原稿用紙で十五枚くらいと言ってもらえれば、なるほどそのくらいの長さで書けばいいのだなと僕は思うのだけれども、そこに参考資料として、まさかの傑作エッセイ「父の詫び状」を送ってこられたら、そりゃもう悲鳴が上がるに決まっているし、長さの目安だなんてメモはもう僕の目には入らない。こんなの無理だよ、なんて恐ろしい要求をするのだよとひたすら畏れ脅えるだけである。
 とはいえ、ともかく僕は十五枚くらいを目安に書き始めたのだろう。あまり覚えていないのだが。
 多少の時間はかかったものの、いやもう相当な時間がかかったものの、いやいや、ものすごく待ってもらったものの、なんとかひと通り全ての原稿を書き終えたところで、守屋さんから「やっぱりちょっと長過ぎました。原稿をぜんぶ並べると230ページくらいあるのです。なんとか208ページにしたいのです」という話が出たので、頭から少しずつ削ることにした。
 いや別に怒ってないですよ。増やすよりは削るほうがいいし、修正するの好きだし、広告の世界にはもっととんでもない修正がいくらでもあるし。さすがに広告のとんでもない修正の話はここには書けないけれど。大きく口を開けたタレントが写っているポスターを見たクライアントが、この人の歯茎の量を減らせと言ってくるだの、撮影も編集も終わってから、やっぱり商品を手渡す店員役の男性を顔だけでいいから女性に変えろと言われただの、そんな修正があるなんて、とてもじゃないがここには書けない。
 もともと僕はゲラになってからかなり修正するほうで、小説なんかでもまるで印象が変わるくらいに直す。そんなに直すのなら早く書いてゲラにする前に直せと言われそうだが、ともかく修正するのが大好きなのだ。できることなら永久に直し続けたいくらいなのだ。
 さて、なんとかコツコツ削ればどうやら224ページには収まりそうなのだけれども、目標の208ページに収めるとなると、これはもうかなり削らなきゃならない。奥付けやら目次やら扉やらのことまで考えると、実質的には192ページくらいに収める必要があるのだ。みなさんもすでにおわかりのとおり、224も208も192も16の倍数なのですね、これ。
 本を手作りしたことのある人はわかると思うが、一般的な商業本は16ページ単位が基本になっていることが多い。言葉だけで説明するのは難しいけれど、両面に印刷された紙を三回折って(八つ折り)、袋になった部分を切ると16ページ表裏の一セットができ上がるので、このセットを重ねて一冊の本にする。だから、ほとんどの本のページ数は16の倍数になっているのであります。
 このあたりのことに興味のある人は製本、面付けなんかで検索すれば丁寧に解説したサイトが見つかると思うので参考にしてください。
 たいていの文章は削れば良くなることが多いので、僕は削ることに何の躊躇いもないのだけれど、さすがにこの本では話が途中で変わったり、時系列が逆になっていたり、話がよじれてよくわからなかったり、という奇妙な違和感をどこかに残したいのに、削り過ぎてすっきりわかりやすくなるとその違和感がなくなってしまう。別に何かの役に立つ本じゃないのだし、正しい意味を伝える本でもないのだから、むしろ違和感はちゃんと残したい。
 だったら変に削るよりも、いくつかの話を丸ごと落としたほうがいいと考えて守屋さんにそうお願いした。どの話を落とすかはお任せした。
 最終的にいろいろな長さのものが入ることになったのは、いちおう一篇あたり十五枚を目安に書いたものの、すぱっと短いほうが面白いもの、逆にグダグダと長くなければ面白さを感じられないもの、直しているうちにうっかり長く、あるいは短くしてしまったものなんかがあるせいで、それでもその結果、全体を通して緩急がついたんじゃないだろうか。
 そうそう。本に入らなかったエピソードもけっこう好きなので、いずれここで公開できるのは良かったなあ。

9月1日刊行のエッセイ集『どこでもない場所』の本文や制作のこぼれ話をこちらのマガジンで公開中です。全20編のおよそ半分くらいとページ数の関係で収録できなかった数編が少しずつ公開される予定になっています。いつ、どの話が公開されるのかは僕も知らないので密かに楽しみにしています。もし感想などを書いていただけるようでしたら、ぜひ #どこでもない場所 のタグづけをお願いします。
訪問してもいいよという書店のみなさま、(プロアマ問わず)取材などご検討くださるみなさま、左右社までご連絡ください。浅生鴨公式ホームページの応募フォームからも受け付けています。

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