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種族IIの星はどこで見られる?


種族IIの星が分布しているのは、銀河系の中だとハロとバルジと呼ばれる領域である。

ハロというのは、銀河系の円盤の外側に覆いかぶさってるような領域のことだ。ハロとは暈のこと。天気が下り坂の日に、太陽の周りをほわんと覆っているあれだ。太陽の代わりに真ん中に円盤があると思えばいい。形は全然違うけど。

バルジは銀河の中心近くに円盤から少し出っ張るように星が密集している領域。バルジの星の見分けは天の川に重なって判別しにくいので、わかりやすいのはハロだろう。要するに天の川からかけ離れた方向にある星である。
とはいえ、見上げてすぐ見えるような星は、たまたま太陽の近くにある星で、たまたま天の川から離れたところに見えているだけ、ということが少なくないので、あんまり参考にならない。町内の北寄りにある家が、南寄りにある家より寒いわけじゃないでしょう?

典型的なのは、球状星団だろうか。

球状星団は、ハロに分布している大型の星団である。星団というのは星の集まり、なのはいうまでもないか。これは種族IIの星からなる星団であることが分かっている。中には比較的若いものもあるようなのだが、基本的にはそうである。

では、そうではなく単独の星というのは、どうか。

種族IIの星はかなりの高齢である。それはある意味当たり前なんだけど、星というのは質量が大きいほど寿命が短いという性質があるので、種族IIの星というのはいきおいあまり質量が大きくない星ということになる。これはわりとやっかいで、いわゆる主系列星の場合質量が大きいほど明るいから、つまり質量が小さい星はそもそも暗く見つけにくいのだ。それも、ちょっと明るくなる、ちょっと暗くなる、というわけではなく、主系列星の場合、おおよそ質量の3.5乗に比例して明るくなるという激しい変化を示す。なので、質量の小さい星は一段と暗くなるというわけで、なかなかわかりにくい。

おおぐま座は、銀河から離れている星座の一つである。空を見上げた時に、北斗七星がずいぶん大きいと感じたことのある人も多いのではないかと思うが、それはつまり、かなり広い領域に北斗七星をつくる7つの星くらいしか散らばっていないくらい、星がまばらにしかない領域だということでもある。しかも前にも話したように北斗七星を作る星のうち5つは同じ星団のメンバーなのだから、それを除けばさらに星の数はまばらということになる。
そのおおぐま座の中に、グルームブリッジ1830という6等星がある。北斗七星から少し外れた、ちょうど熊の胴体から後ろ足のつけねのあたりにある星だ。トップの画像を見てほしい。なお、北斗七星は「クマ」をかたどる星座として見ると、ちょうどしっぽと胴体の後ろ側の一部分のあたりに相当する。

まあそれはともかく、全然聞き慣れない名前ですね。グルームブリッジというのは人名である。19世紀のはじめに、イギリスから見える周極星の位置を測定した星表を作ったイギリスの天文家だ。このカタログの1830番めに掲載されているのでこの名で呼ばれる。
グルームブリッジが星表にこの星を載せて30年ほど経って、ドイツの天文学者アルゲランダーは星表に掲載された当時の1811年から1840年の間でこの星の位置が変化していることを発見した。固有運動が大きいという特徴がある。アークトゥルスもかなり大きな固有運動を示していたが、それでも年に2.3秒角である。この星の場合は更に大きく年に7秒動く。アークトゥルスのざっと3倍である。これより固有運動が大きな星は他に2つしかない。

このグルームブリッジ1830も固有運動が大きいことから近くにある星だろうということで、年周視差の測定が早くから試みられていた。最近GAIA衛星で得られた数字によると、およそ30光年のところにある。もちろん星としては近い部類なのだが、意外に近くないのはむろんもとの空間速度自体が大きいからだ。

この星はハロに位置している星の一つだと考えられている。スペクトルはG8なので、太陽より少し表面温度が低い。金属量は太陽の20分の1位だと考えられており、非常に少ない。この星はまさに、種族IIの星だ。

種族IIの星はいっけん区別がつきにくいのだが、違いとして「暗い」というのがある。何に比べてかというと、同じような主系列星に対してである。
基本的に星というのは質量が大きくなるほど、明るく、表面温度も高くなる。そのため、絶対等級と表面温度をとったグラフの上にプロットすると、質量の関数のようにほぼ一直線に並ぶ。だから「主系列星(main sequience)」である。
実際に表面温度そのものを測るのは難しいから、スペクトル型を使うわけだが、G8の主系列星は普通絶対等級で5.3等くらいである。ところがこのグルームブリッジ1830はそんなに明るくない。これは分かりやすい。なんせこの星までの距離は30光年くらいである。絶対等級というのは32.6光年においたときの光度だから、みかけの等級よりちょっと暗くなるだけである。見かけの等級が6.5等なのだから絶対等級はそれより少し暗い程度。6.6等である。

1等くらい大した違いじゃないかと思われるかもしれないが、1等違うということは2.5倍明るさが違うということである。通常の同じスペクトルの主系列よりの40%しかない。星は進化が進むに連れて少しづつ明るくなるので、「明るい方」にはけっこうばらつくのだが暗い方はかなり明白に下限がある。

それより1等くらい暗いわけである。

このように暗いため、種族IIの主系列星は「準矮星」と呼ばれることもある。元々数が少ないことに加え、金属量の少なさもさまざまなのでかなり金属量が少ないものでないとはっきり暗さが際立ってくれないのであまり用いられることはないのだが。主系列星を「矮星」と呼ぶこともあるので、それより少し暗いということで準矮星である。ちなみにまぎらわしいが、白色矮星はさらに暗いので主系列星とは関係がない。

それにしても、なぜ暗くなるのだろうか。これは、金属量が少ないということと関係がある。星からやってくる光を波長方向に分けると(というと難しそうだが、要するに「プリズムで光を虹に分ける」ということである)ところどころに暗い線(たまには帯)が現れる。これは、特定の波長だけ吸収されているということで、吸収線と呼ばれる。

何に吸収されているかというと、原子によってである。今回は端折るが、原子は特定の波長の光を吸収(あるいは放出)するという特性があるので、このような線が現れる。この線の強さによって、星にどんな元素が多いかが分かったりもする。

種族IIの星の金属が少ないというのは、どこから分かるかというとそもそもこの吸収線からである。太陽などと比べて、種族IIの星は金属の吸収線が非常に弱いのだ。ところで、この金属の吸収線というのは、波長の短い方に多い。金属というと多数あるが、星のなかで顕著に見られる元素というのは鉄とかナトリウムとかカルシウム、とある程度限られる。これらをさしおいてタンタルやインジウムやプロトアクチニウムが強く現れる星というのは(たぶん)ない。そして、こういった、星によく見られる元素というのは波長短めの可視光や紫外線あたりに吸収線を多く持つのである。するとどうなるか。吸収線が多いということは、その波長の光が相対的に少なめになるということである。なので、種族Iの星は、特に低温の星の場合、青側が本来以上に暗めになる。ところが種族IIの星はそもそも金属が非常に少ないので、この現象が起きないのである。

口で言うより実際に数字を見たほうがわかりやすいだろう。星の色を示す色指数にはいくつかあるが、紫外線での等級とと青い光での等級の差をとったU-Bというのがある。温度が高いほど紫外線が増えるので数字は小さくなるのだが、普通のG8の星だと0.28くらい。ところがグルームブリッジ1830は0.16。これは青い。

準矮星が青っぽいというのはもうひとつあって、実はそもそもG8というスペクトルの割に表面温度はかなり低いのだ。準矮星は表面温度の割にスペクトルが高めに出る傾向があり、実際の表面温度は4750Kくらいしかない。普通のG8の星は表面温度が5500Kくらいであるからかなり低い。普通ならこの表面温度ならK3かK4くらいになるし、色も言うまでもなくもっと赤い。表面温度どおりで考えると、色指数はU-Bで0.7くらいになるのだ。それを考えると、さらに輪をかけて「青っぽい」ことがわかる。

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