3月の日食

3月である。しかももう終わりである。

そういえば、もうだいぶ前になるのだが、3月に日食が起きたことがあった。いやまあ、それ自体は別に珍しくないというか、どの月に起こることだってありうるのだから、そういうこともある。2007年のことなんだけども。

この日食は日本の一部でしか見ることが出来なかったんだけど、それ自体はこれもよくある話。日食ごとに、見える範囲は決まっているので、そこから外れたら見ることが出来ない。基本的には日食というのは、南北に見える限界線が存在する。

なんで南北なのか。

まあ、よく知られてる話かもしれないけれど、前提の話として日食の原理について。

地球の周りを公転している月が、太陽の前を見かけ上通りすぎると、見かけ上太陽をおおいかくしてしまうのが日食である。宇宙空間からの視点で言うならば、月の影が地球上に落ちている、ということになる。この影の中に住んでいる人には、日食が見えるわけですね。まあこのあたりを示すのによく使われる図がこちら。

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よく、教科書なんかにも説明図として掲載されているので、みおぼえのあるひとも多い図じゃあないかと思う。
太陽がすっぽり覆われる地域(本影)と、その周りに太陽の一部分だけが覆われて見える地域(半影)ができている。この場合は本影の中は太陽は文字通り月にすっぽり覆われて皆既日食になるのだが、これが少し月が地球より遠くにある場合は金環日食になる。今回は本題から外れてしまうので詳しくは書かないが。

で、先ほどの図はある一瞬を切り取った図になる。でも実際には月は太陽の前に居座るわけじゃなくてだんだん通り過ぎていくので、影も地上をだんだんと移動していく。本影の中にいる地域もじきに半影へと移り、そのうち影から抜ける。月は西から東へと公転しているので(という言い回しは地上と無関係な天体に当てはめてしまうとなんだかわかりにくいし不正確なのだが、北極側から見て反時計に回っているという図式をイメージしてほしい)、本影は地球の上を西から東へとゆっくりと動いていき、帯のようになる。実際には地球側も自転しているけど、大局的なところでは違いはない。
天文年鑑とかを見ると、日食ごとに「見ることができる地域」を世界地図にプロットしたものが書いてあることがありますよね。日食図、というのだけど、あれを見ると、だいたい帯のように皆既日食や金環日食が見られる地域がほぼ東西に向かって走っていて、その南北方向に部分日食のみ見える地域ができていることが分かる。
たとえば2009年の奄美大島で見られた皆既日食の日食図はこんな感じ。

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(Copyright(C) National Astronomical Observatory of Japan)

……画像にキャプションがつけられないの、すげー気持ち悪いんだけど。

まあそれはともかく、赤い枠でくくられ部分が日食の見える範囲で、その真ん中付近を通っている帯が皆既日食の見られる地域である。その南北側では部分日食だけが見られる。左右にあるカキノタネのような枠は日食が起きている最中に日の出もしくは日没となる範囲で、真ん中に引いてある線がそれぞれ、日の出もしくは日没に食が最大になるライン、となる。

で、皆既日食の帯がそうであるのと同じように、日食の限界線もだいたい東西方向に走るわけですね。するとおのずと限界線は南と北に出来るというわけで。

だから日食によっては、北海道では見えるけど鹿児島ではわずかしか欠けず、さらに沖縄では見えないとか、あるいはその逆とかが起きるわけだ。

ということをふまえて、2007年3月に起きた日食の話にもどす。

この日食、日本の中でもごく一部でしか見ることができなかったのだが、その見ることの出来た地域の分布がおもしろいのだ。北海道と九州、それから四国や中国地方だったのである。本州では、その多くの部分で見ることが出来なかった。

直感的に考えておかしいじゃないか、というわけである。南のイメージのある九州と、北にあるイメージ(というか実際に北にある)北海道だけで見ることが出来る。なんでこういうことになるんだろうか。

さきほど、月の影が地球上で動いていく方向は、東西方向である、とさらっと書いた。けれども、実際には地球上の東西方向と月の公転の向きはいつも一致するわけではない。地球の自転軸は地球の公転面に対して23.4°、傾いているためである。そのため、地軸の傾いた方向に対して垂直なほうから月の影が当たった場合は、東西方向に対してかなり傾いた通り道で影が通り抜けていくことになる。ちなみに23.4°傾いてるなら23.4°ななめに通るんだろ!とならないのは、月の公転面も少し太陽に対して傾いてるのと(でなければ毎回皆既日食が起きてしまう)、地球は平面じゃないので、実際に地上に当たる影はかなり歪んでしまうという事情による。

じゃあ、これってどういうときなのか?

日食の話にかぎるならば、月と太陽は地球から見て(ほぼ)同じ方向にあるわけなので、とりあえずここでは太陽と地球の位置関係の話に注目してみよう。つまり、太陽から見て地球の地軸の向きが変わるというのはどういうことなのか?

日本に限らず、地球には四季がある。熱帯地方や乾燥地帯など一部その限りではないというか、はっきりしない地域もあるけれど、基本的にはそうである。これは、地軸が傾いているために日の長さが公転にともなって変化するため、太陽に暖められる時間が変化することが原因だ。北半球の場合、6月に日が一番長くなる夏至があって、その少し後に一番暖かく(もしくは暑く)なる。少しずれるのは大気の暖まるのに時間がかかるからだが、今は関係ないのでおいとく。

で、この日が長くなるというのはどういうことかというと、地軸の傾いている方向が太陽側に向いて、北極側が太陽に照らされている、ということだ。

冬至の場合は逆ですね。南極側が太陽に照らされているふうになる。もちろんこのとき南半球は夏至である。

どっちにも共通することは、もし太陽から地球を見たら、地軸がまっすぐ太陽側に向かってくるような構図になっている、ということである。実際にそういう軸が物理的にあるわけじゃないが。

さて、ここでその中間、つまり春分や秋分の日はのことを考えてみる。

春分や秋分の日に太陽から地球を見ると、ちょうど23.4°傾いた地球を横から見たような感じになるはずだ。つまり、地球における東西方向が、公転面から一番傾いて見えるのが、この時期というわけである。

このとき、あるいはこれに近い時期に日食が起きたらどうなるか。先ほど書いたような、ななめに影の通り道ができるわけだ。

北半球での春分の日の場合、自転軸は南北に対して右寄りに傾いている。なだから、影の通り道は、おおよそ西南西から東北東に向かって抜けることになる。

これは、限界線の場合でも同じことが言えるので、非常に傾いた感じになるんですね。もっとも、そもそも影が当たる地球が球なので、これはかなり簡略化した言い方ではあるけれど。影の当たりはじめと影が地球から離れるときではだいぶ傾き方が違ったりもしますからね。でも大まかな傾向としてはこうである。

さて、2007年の日食に話を戻す。

2007年3月の日食は3月19日に起きた。これはつまり、非常に春分の日に近い、ということである。なので、この日食が起きた時、太陽・月に対して地球の地軸はほぼ横を向いていたはずなのだ。

この日食は、本影は地球から少し北極方向に外れてしまっていた。そのため、皆既日食や金環日食は地上では起こらず、部分日食だけが見られる日食になった。ちなみに、太陽観測衛星からは「皆既食」になったらしいが、これは宇宙空間だからですね。

それはともかく、こういう部分日食しか見られない日食というのはけっこうたくさんあるのだが、基本的にはいままで話したような事情によって、本影の外れ方は北か南ということになる。そのため、大抵の場合緯度の高い地域ほど大きく欠ける。最大食分は南極大陸だのロシアの永久凍土地域だのとった非常に観測しに行くのが難しい場所、ということになることが多い。

日本は北半球に位置しているため、こういう日食の場合は北ほど大きく欠けるということが一般的である。ときにはその限界線が日本列島にかかってくることもあるが、それは南限界線ということになる。

なのでこの2007年の日食の場合も日本列島にかかっているのは南限界線なのだが、今まで述べてきた理由により、それがかなりななめなのだ。

図を示しちゃうと答え合わせになってしまうのでここまで日食図を示してこなかったのだが、2007年の日食図はこんな感じである。

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(Copyright(C)  National Astronomical Observatory of Japan)

 ちっとわかりにくいけれど、日本列島を縦断するように南限界線が走っているのがわかるだろうか。

 日本列島はおおむね、北東から南西に向かって島がならんでいる。で、すこし南よりに弧を描いているから、この日食の時はたまたまほぼ島嶼の並びと限界線の傾きが同じくらいになってしまった。なので、少し弧を描いて限界線からはみ出した本州の中央部では日食が見られず、南西部と北部だけが日食を見ることが出来る範囲に含まれる、とまあこういうことがおきたわけだ。実は中部日本でも、北陸の日本海沿岸なら日食の見える範囲にかかるところがある。欠ける割合はごくわずかではあるが。

 地図の図法の関係で見づらいので、こちらのNASA提供図のほうが見やすいかな。

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 出典:NASA (http://eclipse.gsfc.nasa.gov/)

 なお副次的な理由として、地球が球である関係上、こういうときは影が進むにつれて東西方向からの傾きは増大するので、このときは日本が影に入るのは日食の後半だったのも限界線が東西方向から大きく傾いていた理由の一部になっている。この日食でも、朝早くに日食が起きた東南アジアあたりでは南限界線はほぼ東西方向ですよね。

 これが逆に秋分の日の頃の場合だと、影は西北西から東南東へと抜けることになる。日本列島の形に対して垂直に近くなるので、欠け方のほうで春分の日のような面白いことにはなりにくいが、例えば次に日本の本州で見ることの出来る皆既日食として有名な2035年の日食は、北陸から関東に向かって皆既日食帯が抜けていく。


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