ベスタ

 火星と木星の間にある小惑星帯のなかで、一番大きな小惑星は何か。セレス、と答える人は多いだろう。セレスは、さいしょに発見された小惑星、でもある。昔はたぶん「小惑星のなかで」という言い回しでもよかったんだろうけど今は冥王星型天体とかありますからね。

 セレスの直径は1000km。大きいということは、たいていの場合明るいわけで、じゃあセレスは小惑星帯の中で一番明るい小惑星(ややこしいので、以下「小惑星」と単純に示す)なんだろうかという疑問が当然発生する。

 セレスは明るいときでだいたい8等くらいだが、実はこれは一番明るい小惑星の数字ではない。小惑星の中にはもっと明るいものがある。

 セレスの発見後、数年の間小惑星の発見が相次いだ。そのあと数十年発見が途絶えるのでいったい何があったのかよくわからないのだが、まあそういうこともあるのだろう。それはともかく、最初に相次いだうちの最後に見つかった天体は1807年に発見されて、ローマ神話のかまどの女神、ウェスタにちなんでベスタと名づけられた。

 もちろん、初期に発見されただけあって、大きさはそれなりにある。500kmくらいの直径があるといわれている。小惑星としては大きい方だが、しかしセレスに比べたら半分しかない。

 ベスタは衝ふきんでは6等まで明るくなる。なので、がんばれば肉眼で見ることは不可能ではない。かなり難しいと思うが。

 それにしても、どうしてセレスの半分しかないのに、こんなに明るいのか。

 小惑星はあくまで太陽の光を反射して輝いているので、反射率が大きいとほかの条件が同じでも明るくなる。ベスタは小惑星の中ではかなり明るく、反射率が44%ある。いっぽうセレスは反射率という点で見ると実はかなり暗い小惑星で、9%しかない。

 反射率が違うということは、それはつまり表面の成分が違うというわけで、ベスタの表面は玄武岩であるのに対し、セレスは炭素系の組成を持っている。玄武岩というと月の海の部分の構成物なので暗そうな気がするのだが、このあたりのことはよくわからない。

 このベスタが、ちょうど今見やすい位置にある。11月に衝を迎えたので、当然明るい。

 見落とされがちなことなのだが、小惑星は衝に近いときと合に近いときでかなり明るさが変わる。これは小惑星という天体の性質の問題ではなくて、小惑星帯の位置が火星と木星の間だからである。

 本当に合の内外だとそもそも低空だからわかりにくいといわれたらそれはそうなのだが、たとえば木星。夕方かなり低くなってもそれほど明るさとしては見劣りすることはない。これは、木星が明るいからとか、大きいからではない。距離が比較的遠いからだ。遠いと、合でも衝でもあまり距離が変わらない。

 これは簡単な算数である。木星の軌道は太陽から5.2天文単位である。だから、衝のとき=太陽と木星の間に地球が入ったときは、地球からの距離は4.2天文単位。これが一番近づいたときで一番遠ざかるときは地球が反対側に回るときだから6.2天文単位。ということは、1.5倍しか違わない。明るさは距離の2乗に反比例するから、2.2倍しか変化しない。1等も変化しないということだ。

 ところが、これが火星だとどうか。火星の軌道は太陽から1.6天文単位。火星の軌道はかなりひずんだ楕円だけど、とりあえずそれをおいて円と仮定すると、もっとも近づいたとき0.6天文単位。もっとも遠ざかったとき2.6天文単位。つまり4倍以上変化する。

 要するに、明るさの変化は距離で決まるので、外惑星の場合内回りなほど大きく光度が変化するわけだ。小惑星帯も比較的内側をにあるから、当然大きく変化する。

 木星より遠くの場合、あまりこの影響が効いてこない。なので、太陽系の外惑星の場合、火星だけがこの影響を強く受けてみえる。なので見落とされがちだけれど、その間にある小惑星でも同じことが言えるのだ。

 今回の衝では、ベスタはくじら座のちょうど頭のあたりにいる。少し前に取り上げた、ミラからも近い。

画像1

 くじらのちょうど頭の部分の写真である。ミラは残念ながら範囲外だが。その少し左に矢印で示してあるのがベスタである。

 まあしかし、これだけだと適当な星に印付けただけと思われそうですね。この次の日にとったものがこちら。

画像2

 横の似たような明るさの星との位置関係が、少しだけ変わっているのが分かるだろうか?

 しかし、こういうと疑問に思う人がいるかもしれない。

 くじら座って、黄道関係ないのでは。

 太陽が(見かけ上)通る道を黄道というが、この黄道を占めているのがいわゆる黄道12星座である。生まれ星座などに使われる、あれだ。もっともこれは昔の話で、その後星座の配置が厳密に定まった今ではさそり座といて座の間にへびつかい座が一部かすめる。一昔前に13星座に基づいた星占いなるものが登場したことがあるが、こういう経緯に基づいたものである。

 しかし、黄道12星座にも、13星座にもくじら座は登場しない。これは、太陽のみかけ上の通り道は要するに地球の軌道によってきまっているので、軌道がそれに対して傾いている場合は黄道から外れることもあるためである。そうすると、当然星座としても別の星座に入ることがある。くじら座の、特に頭部はうお座・おひつじ座・おうし座という黄道星座にはさまっているので、ちょっと軌道傾斜が傾いている天体だとここを通ることがあるわけだ。 

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