スピーチ案2

・挨拶

 えーマイクテスト、聞こえますか?はい、オッケーです。
 皆さんこんにちは。東京藝術大学から来ました。◯◯といいます。あ、私のアピールはどうでもいいですね。
 現在学部4年生です。この時期は卒業制作で忙しいんですが、国立大学…法人は、土日はお休みでアトリエに入れないので、こんな暇があるんですよ。
 …暇だというのは冗談です。ああ、もちろん土日は入れませんが。
 その時間を割いてまでお伝えしたい話があるんですよ。
 今日は大変な話、あまり世間に出ていない話を持ってまいりましたので、ぜひお聞き頂きたい。
 話題のネタにしていただいても結構ですし、あわよくば、後で話しますが、署名の賛同を得ようという魂胆です。はい。

・値上げの概要

 話というのは、もしかしたら聞いたことありませんか。東工大に続いて藝大が値上げしたと。
 いくつかのメディアが報道しましたが、正直これあんまり話題になっていないですよね。
 聞いたことないって人のために簡単に説明しますね。

 東京藝術大学は、10月26日にホームページで、授業料を20%引き上げると発表しました。
 授業料は現在、年間約54万ですが、約64万になります。10万円上がるんです。
 値上げの対象となるのは、来年以降の学部入学生と、再来年以降の大学院入学生です。
 現在の在学生は今の授業料のままですが、学部三年生以下と、修士一年生は、再来年以降に進学すると値上げの対象になります。
 ちょっとややこしいかな。細かいところはあとでホームページを見てくださいね。
 で、私は大学四年生なので、現在の授業料のままですし、来年の修士課程も入ってしまえば、値上げの対象外です。
 ではなぜわざわざこうして、スピーチをしている…或いは代読してもらっているかと言いますと、多くの問題があるからなんです。

・世間との認識の穴埋め

 皆さんは恐らく美術に関心は、あー…多少御有りのようですね、ありがとうございます。え、無い?まあまあ、聞いてください。
 とはいえ、実際に大学に通っている一学生の感じることと、皆さんとの間には随分認識に違いがあろうかと思います。
 芸大生なんてお金持ちなんじゃないの?とか、そういった疑問には後ほどお答えしますので、まずは経緯についてお話させてください。

・何が起こったか

1連絡がない

 私はネットの記事で値上げについて知りました。
 ホームページには、値上げによる収入は学生たちに還元するとか、あれやこれや、やりたいことが書かれていますが、大学から私たちに連絡が来るわけでもなければ、事前に意見を聞かれるわけでもなく、協議されているといった報告も一切ありませんでした。
 そこで値上げについての問い合わせ担当者に聞きに行ったところ、下を向きながら自信なさげに、在学生だけに連絡をしてしまうのは…受験の公平性に欠けるから、とか、ホームページでの説明で十分だとの見解を示されました。
 なるほどもっともらしい。しかしそうすると、新入生にのみ値上げを行うのに、値上げをされていない学生も恩恵を受けることになりますが、これは公平性に欠けるのでは?とか、全学年を対象に5%増額する方が一人当たりの負担が少なくて良いのでは?などなど疑問が浮かびます。

2説明もない

 学生のための費用を学生から集めるのに、実は説明会も行われていません。
 皆さんは受験をされたことはありますか?高校受験や大学受験、どんな準備をしていたでしょうか。 様々な学校を比較して選ばれたかと思います。 しかし芸大の場合、芸術分野で唯一の国立大学であることと、そのネームバリューで、他に同等の選択肢がありません。
 芸大は、何の説明もなく、10月の終わりに突然値上げの決定をするような不親切なことをしても、受験生は進路変更のしようがないのです。
 担当者の話では、値上げの対象は受かるかどうかも分からない受験生だと言い、そういった人への説明責任も感じていないようでした。
 あまりにも不親切じゃありませんか。芸大生でさえ、皆さんと同じような情報しか与えられていないんですよ。
 ホームページの文章でおしまいにしようとしているのです。
 まだまだありますが、あとは署名ページをご覧ください。あ、詳しくは後ほど。
 そろそろ皆さんの持っていそうな疑問について話しましょう。

・意外と貧しい

 藝大に通う学生なんて、お金持ちだから10万円くらい困らないでしょうとお考えになる人、いませんか?
 私の経済状況を言いますと、父親は数年前に蒸発、今は家族三人でアパート暮らし…いや、やめましょう。
 個人の可哀そうな経済状況を示してみたところで、自己責任だって思われておしまいかもしれないですものね。
 この世の中の淋しい空気には、もっと違う話がいい。少なくとも具体的な。
 例えば…大学にかかる費用の話はどうだろう。
 授業料が年間64万円になったところで私立より安い。こう思うのは無理もありません。
 しかし実際は安めの私立よりは高いのです。重箱の隅をつつくようですが…。
 例えば大学院で言いますと、分野によっては早稲田や明治などよりも高いというデータもあります。中には80万円ほどの差もあります。
 それから、美術に関わりのない人とお話した時に、芸大の学生は制作にかかる費用を大学、国が負担してくれていると思っていました。
 これは違います。入学時に授業料などとは別に、教材費というものがあり、例えば彫刻科では29万円が徴収されます。
 入学後暫くは与えられた課題を行うので、自分で道具や材料を揃える必要は有りませんが、結局は自費なのです。
 そして課題が終わってからは個人制作になりますが、道具や材料、その運搬、ギャラリーでの展示など、基本的に全て自費です。
 更にそれでも私立よりは恵まれているという人には、こんな話もあります。
 私は一年間、私立の美大に通っていましたが、大学で制作できる時間が芸大よりも多かったです。
 芸大彫刻科の場合、土日はアトリエに入れません。休みも多く、平日も19時で出なければなりません。
 大学以外で制作スペースを借りている学生もいます。
 また科によっては大学以外で制作した作品を評価の対象外とする謎に厳しいところもあります。
 国立大学だから仕方がないでしょうか。世界のトップアーティストを養成するにしては随分冷たくありませんか。
 是非覚えて帰って下さい。そしてもし、あなたの周りで芸大は安いなどという人がいましたら、お伝え願います。

・国の施策が怪しい

 先日しんぶん赤旗に掲載されていましたが、値上げの背景には、運営費交付金が削減されていることや、教授会で十分に議論がなされず、ほぼ教員の意見がないままトップダウンで決められたことが問題であると書かれていました。
 教授でさえ、20%の値上げの根拠を知りません。ホームページには学生のために様々な目標が挙げられていますが、現場の意見無しに決められたものではないでしょうか?
 短い記事ですが是非ご覧いただきたい。自らの名前を明かしての公開ですので、相当なことが起こっているのだと思います。
 値上げの問い合わせ担当者は、東工大とは関係なく、芸大が独自に値上げの検討をしてきたと言っていましたが、これでは、国からの、何らかの関与を疑わざるを得ません。
 真摯な説明が成されるべきではありませんか?

 さて、先ほどから言っている署名について。
 私は現在、大学に対し、値上げの撤回と、説明会の開催を求めています。
 その理由は今お話した以外にも沢山ありますが、あまり時間を使っては申し訳ないので、割愛します。
 冷やかしでも結構ですので、署名ページをご覧いただければ幸いです。
 以上で終わります。

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