【小説のようなもの】同窓会

「ねえ、あなた誰?ウチの学校にいたっけ?」

二人組の女性の片方から突然声をかけられた。
ショートカットで少しキツい目をしているが、整った顔立ちの美人。
胸のネームプレートには”近藤”と書いてある。
もう一人の方も、なかなかの美人。
ネームプレートの名前は”吉岡”さん。

ある大きいホテルの宴会場。
同窓会の立食パーティーでたまたま隣に立っていた俺が気になったらしい。

「わははは。近藤さん、変わんねぇなぁ」

名前を忘れられていた悲しさを隠すように少し大きい声で言った。
隣の吉岡さんも「サトミはもう少し気を使うとか…」と小声で諭しはしているものの、俺の名前は分かっていないようだった。

「普通さ、こういう時って思い出せなくても誤魔化さない?
なんとなく話合わせたりするよね?」

笑顔を崩さずに話す俺を真っ直ぐに見返して、近藤さんはこう答えた。

「ゴメン。全然思い出せない。誰?」

口ではゴメンと言っているが、罪悪感は無いようだ。
学生時代に影が薄かった同級生を少し見下しているようにすら見える。

「実はね…」

俺は周りの目を少し気にしながら、声のトーンを落として続ける。

「近藤さん、俺の事は知らなくても当然なんだ。
俺、ここのホテルのただの宿泊客。
たまたま知らない学校の同窓会やってんの見かけちゃってさ。
面白いかなぁと思って、紛れ込んでみたんだ。
あ、ちゃんと入り口で会費は払ってるよ。
受付でリストにあった知らない人の名前使っちゃったから、貰ったネームプレートは外してるけど。
意外と分かんないもんなんだね。
みんな不安そうな顔しながらも話合わせてくれるんだよ。
笑い堪えるの大変でさー。」

近藤さんは怪訝な顔をし、吉岡さんは不安と驚きが入り混じったような顔になり、二人は誰かを呼ぼうとして周囲を見渡した。

二人の視線に気づいた一人の男がこちらへやってくる。
近づいてきた男が俺の肩をしっかりと押さえ、大きな声で話しだした。

「お!加藤!久しぶり!
美人二人捕まえて何やってんの?
わざわざネームプレート外して、また相変わらず適当な嘘でもついてんだろ?」

キョトンとした顔の二人を横目に俺は返した。

「嘘なんかついてないよ。
ただちょっと、今のうちに忘れられない思い出でも作っておこうかなぁと思ってさ。
ねぇ?近藤さん?」


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