バイクがなぜ安定して走るのか、実はわかってない(最終回)

6回にわたって解説してきたのですが、結局、バイクが勝手に安定して走る物理的理由・機構、は今回の紹介した論文ではよくわかりませんでした。残念です。もうちょっと新しい論文を検索してみたのですが、未だに解明されていなさそうです。

ただし、わかったことは、ハンドルが切れる、というのが必要条件であるということです。もう一つ大事な要素は前輪付近の微妙な重量配分です。これらを適宜調整すると、すごく変なジオメトリーのバイクでも安定する場合があります

当たり前じゃないか、と思われるかもしれませんが、実際に乗る立場で考えるとこれは重要で、ハンドルへの微妙な荷重やヘッドの回転性能で安定になったり不安定になったりする、ということです。例えば、コーナーや下り上体がガチガチになっていると、ハンドルの動きを妨げるので、バイクは安定しなくなります。これは経験的に知っていることですが、物理的に納得できますね。

これに関係するかもしれませんが、Kooijman et al. (2011)にはちょっと面白いことが書いてありました。安定に走っている実験バイクのハイスピード映像を良く観察すると、20HzのShimmy (異常な振動)を起こす場合がある、という一文です。

シミー現象というのは、特に高速ダウンヒルしているときに、前輪ホイールが異常に振動してハンドルがめちゃめちゃにブレる、という恐ろしい現象です。私はレース中に2回、練習中に1,2回遭遇、仲間がそうなったのを目撃したのが1回、選手のブログに書いてあるのを見たことがあります。ある年のツールド北海道市民レースで、60km/h以上で下っているときにこれが起きて、バイクコントロールができなくなって、カーブが曲がれず、路外に転落したことがあります。このときは、たまたま、深いクマザサに突っ込んだため、縦に1回転したものの、身体もバイクも無傷でした(バイクが笹ヤブのどこかに消えてしまって、1分位焦りまくって探しましたww)。

今回議論してきたようなバイクの安定性(倒れかかってもハンドルが逆に切れて元に戻ろうとする)に関わる振動よりもずっと周期の短いのがこのシミー現象の特徴です自分の経験では、バイクとホールの組合わせ、スピードと路面状況、タイヤ空気圧と風などのいろいろな条件が重なったときでないと起こらないです(しょっちゅう起こるようなら怖くて峠は下れない)。

上で述べたように、バイクの安定性は特にハンドルとホイール周り微妙なパラメータの組合わせが重要なので、シミー現象を起こすパラメータの組み合わせはかなりシビアなんだと思われます。逆に言えば、バイクが安定しないときはポジションを少し変えるだけで安定するかもしれません。少なくとも、シミー現象が起きたときは、サドルから腰を上げてはいけません。バイクの横方向への自由度が増すので、一旦振動しはじめるとどんどん増幅する可能性があります。一般に振動を抑えるには、抵抗を増やすしかないのです。スピードを直ちに落とす、というのも重要です。

英語だと、speed wobble というみたいです。GCNに解説動画がありました。バイクの後ろに乗りすぎてはいけない、かもしれないなどと言ってますね。Nobody can be 100% sure as to exactly what causes speed wobble. と言ってます。こちらでも議論されてます。

(ようやく、了)



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