地方創生政策立案・施策実行のために  第2章 イギリス産業革命とラッダイト運動


第2章 イギリス産業革命とラッダイト運動
 第4次産業革命は、イギリス産業革命と比較されて述べられる。日本では「AIが47%仕事を奪う」というセンセーショナルなキャッチコピーで有名になった、オックスフォード大学の「雇用の未来(The Future of Employment)」(Frey Osbone 2013)の中でも、イギリス産業革命によって、どのように仕事が変わったかが述べられている。第4次産業革命と言われる現代において、第1次産業革命時に、社会の意識がどう変化し、その後の思想・政策にどのような影響を及ぼしたかは、将来の仕事の変化以上に重要な示唆を現代を生きる我々に与えてくれる。以下に、経済産業研究所(RIETI)「IoTによる生産性革命」調査において、「The Future of Employment」原文を翻訳した資料より引用する。

なお、全文翻訳は、日を改めて、別途掲載する。

Ⅱ.テクノロジー革命と雇用の歴史
 テクノロジーによる失業に対する懸念は、現在だけの現象ではない。歴史を見てみると、テクノロジー革命に続く、創造的破壊の過程によって、膨大な富が生み出されているが、望んでいない崩壊もまた生み出した。Schumpeter(1962)が強調したように、経済発展を妨げたのは、発明のアイディアの欠如ではなく、むしろ、テクノロジーを現状維持させるような、パワフルな社会的、経済的関心であった。これは、1989年に靴下を手で編む作業から労働者を解放することを望んで、靴下編み機を発明したWilliam Leeの話でうまく表現されている。彼は、発明の特許権保護を求めて、エリザベス女王1世に機械を見てもらうためにロンドンに行った。その時、彼は女王の態度に失望した。女王は、彼の発明よりもその発明による雇用への影響に関心があり、彼に特許権を与えることを拒否した。その時、女王は、「汝の志は高い、Lee氏。汝は自分の発明が我が貧民に及ぼす影響を考えよ。きっと、彼らから仕事を奪い、彼らを破産させてしまうだろう。そして彼らは乞食になっていく。」と主張した(Acemoglu and Robinson,2012,p.182fに掲載)。おそらく、女王の懸念は、発明が職人のスキルを廃れさせるのではないかという靴下製造業者組合の不安の現れでもあった。組合の反対は、実際にWilliam Leeが英国を去らなければならないほど大変激しいものであった。
 組合が、テクノロジーの現状を維持するために、まとめ役として市場の力を組織的に弱めようとしたことは、Kellenbenzによって説得力を持って論じられた。(1974,p.243)その中で「組合は、組合員の経済状況を揺るがす脅威に晒すような新しい設備や技術を持った部外者や発明者のような人々から、組合員の利益を守った」ということが述べられている。 Mokyr(1981,p.11)が指摘したことは、「市場成果の”判断”をすべての人が受け入れない限り、イノベーションを採用するかどうかの決定は、非市場原理や政治的活動を通して、敗者によって抵抗されるだろう。」ということであった。そのために、労働者は、自分たちのスキルが廃れ、取り返しがつかないままに従来の稼ぎを減らす限りは、新しいテクノロジーに抵抗すると予測することができる。職業の保護とテクノロジーの進歩のバランスはそれゆえ、社会における権力バランスや、テクノロジーの進歩によって得られた利益をどのように分配するかを大きく反映している。
 英国の産業革命は、この点を鮮やかに描いている。手工業の同業組合は大陸ではまだ幅広く健在していた一方で、英国における手工業の同業組合は1688年の名誉革命までに衰退し、政治的影響力のほとんどを失った(Nef,1957,pp.26 and 32)。王位を超えて議会優位性が制定されるのに伴って、1769年に機械類の破壊行為が死で罰すべきものとする法律が承認された(Morkyr,1990,p.257)。確かに、まだ機械化に対する抵抗があった。1811年から1816年の「ラッダイト」暴動は、ウール研磨業界で起毛機の使用を禁止する1551年の法律を議会が無効とした時に、労働者の間で起こった暴動で、テクノロジーによって生じる変化に対する不安の部分的な現れであった。しかしながら、英国政府は、テクノロジーの進歩を中断させようとするグループに対して、徐々に厳格な考え方をするようになり、暴徒に対して12000人を配備した(Mantoux,2006,p.403-8)。機械類の破壊行為に対する政府の所感は、1779年のランカシャーの暴動後に承認された決議で表された。それは、「大きな暴動が起こった唯一の原因は、綿産業に採用された新しい機械であった。;この国は機械の導入から多くの利益を得ているにもかかわらず、この国で機械を壊すことは、機械を他に移す唯一の手段ではあるが、それは英国の貿易において損害となる」と述べている(Mantoux,2006,p.403掲載)。
 テクノロジーの進歩に対する姿勢転換に関して、少なくとも2つの解釈がある。1つは、王位を超えて議会優位性が制定された後に、資産を所有している階級が英国において、政治的に優勢になったことである(North and Weingast,1989)。様々な製造業におけるテクノロジーの普及は、彼らの財産価値を危険にさらすことはない上に、資産家には、製造業の輸出から利益を得る立場にいる者もいたために、職人にそれを抑え込む政治力が単純になかった。もう一つは、発明者、消費者、スキルがない工場労働者が、機械化によって、大きく利益を得るようになったことである(Mokyr,1990,p.256 and 258)。機械化によって生じる雇用不安があるにもかかわらず、単純労働者は産業革命でもっとも恩恵を受けた人々であった(Clark,2008)。資本家が国民所得の増加する分け前を最初に蓄積していることを示す正反対のエビデンスもあるが、同様に実質賃金が増加しているエビデンスもある(Lindert and Williamson,1983;Feinstein,1998)。これは、製造業のテクノロジーが職人のスキルを廃れさせたが、成長している労働力のために次第になるような方法で、テクノロジーの進歩からの利益が分配されたことを暗示している。

出典:THE FUTURE OF EMPLOYMENT: 

HOW SUSCEPTIBLE ARE JOBS TO COMPUTERISATION ?
Carl Benedikt Frey and Michael A. Osborne    September 17, 2013

https://www.oxfordmartin.ox.ac.uk/downloads/academic/The_Future_of_Employment.pdf

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