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[Episode.25] 1st CD 「Music For Strange Lovers」(前編)

SUBJECT RECORDSの1st LP「Love Sonic Strategy4」で大赤字を出して以来、リリースについては少し臆病になっていたのであるが、若さゆえの無鉄砲な衝動で「次はオムニバスCDをリリースしたい」という思いが徐々に湧き上がってきた。

リリースのためのお金はバイトをしたり親から借りたりすれば何とかなるけど、時間は何をしなくても無情にも過ぎ去っていく・・・。

大学をわざと留年して得た「1年間のモラトリアム期間」を悔いの無いようにするには、怖がっている時間や迷っている時間なんて必要無かった。(って書くと、ちょっとカッコいい感じかな。)

と言いつつも、さすがに次のリリースで大赤字を出してしまうとその次は無いな~と思って、次のCDの販売結果次第ではリリース形態をカセットテープにするなど、レーベルとしての岐路を自ら作って、自らを追い込んでみることにした。

1996年5月初旬。SUBJECT RECORDSの立ち上げの原動力となった「BATTLE KITCHEN」でのMAGIC PORNO CULT SHOPのライブの興奮を再び思い起こし、次のリリースに向けての企画を進めていくことにした。

「SUBJECT RECORDSらしさを表現できるオムニバスアルバム」を目指し、レーベルメイトであるdj yuki、ughさん、Franzさんに楽曲提供を依頼した。

ughさんには、SatanicpornocultshopとQuartet Jazz Grindの2組に対して楽曲提供をお願いした。
また、FranzさんにはElectric Cafe名義での楽曲提供に加え、僕とのユニット「Loco」としての楽曲を制作してCDに収録したいことを伝えた。

「Loco」の結成経緯についてはハッキリと覚えていないのだが、僕がFranzさんの「Drummer's Suicide」をはじめとする美しくどこか切ない旋律に惚れ込んで、一緒に曲作りをしたいとお願いしたような記憶がある。

一度、Franzさんがdj yukiの家に遊びに来てLove❤Kitchenと共同制作をしたことがあって、上モノやベースはステップ録音ではなくキーボードを手引きしたリアルタイム録音をされていて、「あ~、この方は打ち込みはやっているけど、ミュージシャンなんだな~。」と妙な感動を覚えた。

この時にできた曲があまりにも哀愁が漂ったダブのため、その時にFranzさんが来ていたドイツ軍のシャツ(?)になぞらえて、曲名は「涙のドイツ兵」とした。

【Electric Cafe & Dub Kitchen - 涙のドイツ兵】
https://fantas-tech-records.bandcamp.com/track/--2

「Loco」の命名はFranzさんで、Sun Electricのようなサウンドを作りたいとのことから、Sun Electricの「Beauty O'Locco」から拝借して「Loco」というユニット名とした。

すごくキャッチーでどこか可愛らしい音感に、僕もこのLocoというユニット名はとても気に入っている。

Love❤Kitchenのdj yukiと僕(Alteredg Exp-Art Systems)は、「BUBBLER THAN MOVIESTARS」にも提供した楽曲「CYLESS」と「ASTROLL」を、再びこのオムニバスに提供することとした。

理由ははっきり覚えていないが、2人とも自分の楽曲を気に入っていて、SUBJECT RECORDSから改めてリリースをしたいという思いが強かったためだと思う。

あと、「PECHIKA&PACHIKO」というユニットの「Voltech-Romance」という曲をLove❤Kitchenがリミックスした楽曲が収録されており、このユニットのクレジットとして「T.Watanabe + S.Morishita」となってはいるが、これは全て僕の自作自演であり「PECHIKA&PACHIKO」なるユニットはこの世に実在しない・・・。

また、SUBJECT RECORDSのいつものメンバーに加えて、「未知なる強豪」を発掘するために積極的にデモテープを募集した。

それなりにデモテープも届き、3~4組ほどいい感じの曲はあったのだが、ughさんやFranzさんのハイクオリティかつオリジナリティ溢れるサウンドを超えるサウンドというのはさすがに無く、選定に関してはかなりハードルを上げてしまい、結果的にリリースにこぎつけた新人はShimojima Minoruさんの1組だけとなった。

また、新人のリリースができなかったもう一つの理由として、オムニバスCDの収録曲に、ughさんからSatanicpornocultshopとQuartet Jazz Grind以外にも「人間ロケット」と「Jet Set Ishizaka」の推薦があり、またそれらの曲が素晴らしすぎた故に、「ugh枠」が「新人枠」を押しのけてしまった・・・、ということもあった。

人間ロケットは、タケミッチェル池田さんを中心に1994年に結成されたサイケデリック/ブルース/カントリー/民謡などをミクスチャーさせたバンドで、地元の姫路を中心に活動をされていた。

池田さんは残念ながら2010年6月に逝去されたのであるが、今もなお根強いファンが多い伝説のミュージシャンである。

池田さんとは1度だけQKレコードでお会いしたことがあって、その時はおもむろにギターを弾き出したのであるが、そのギターを演奏する姿というのが「楽器を演奏する」姿に全く感じられず、何と言うかギターが肉体の一部に溶け込んで、普通にヒトが呼吸をしたり歩行をするような、ごくごくヒトの挙動の自然な姿のように感じられた。

正直、ギター演奏の手法に関しては全く無知な僕であったが、そんな僕でも池田さんのギターは一目見ただけで「す、すごい!」と思わせる魅力があった。

【写真:人間ロケット(グレイテスヒッツ10 チラシ)】

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今回のオムニバスCDのために、ughさんは人間ロケットの「ミクロ」のリミックスを新たに制作した。「ミクロ」は「BUBBLER THAN MOVIE STARS」に人間ロケットが提供した楽曲ではあるが(Episode.21 参照)、そのサウンドをughさんがノイジーなロービートやコラージュサンプリングを交えて、新たなサウンドを作り上げた渾身の一作である。

リミキサーの名義は「Strategy Orchestra」とクレジットされているが、実質ughさんのソロ名義に近い。ただ、レーベル公式情報としては「Strategy Orchestra」はughさんと僕の2人によるユニットとなっている。

僕がメンバーに含まれているのは、このリミックスの中で奏でられているパッドが、僕の別名義でもあるEXP-ARTの「Aquarius」(Episode.8 参照)という曲で使われているパッドからサンプリングしたものであり、ughさんがえらくこのパッドサウンドを気に入ったようで、今回の「ミクロ」にも使用された、という経緯があるためである。

【人間ロケット - Micro (Strategy Orchestra Remix) 】
https://fantas-tech-records.bandcamp.com/track/micro-strategy-orchestra-remix

それからJet Set Ishizakaさん。

僕の中では伝説となった1995年12月の「BATTLE KITCHEN」でのMAGIC PORNO CULT SHOPのライブで初めてお会いし、その後に「BUBBLER THAN MOVIESTARS」への楽曲提供や、Nu NuLAX NuLANの初期カセットテープ集のひとつとして「JET SET ISHIZAKA #EP 」としてリリースするなど、ughさんの音楽仲間として存在感を示しており、今回のオムニバス企画にもughさんからの推薦を受けて「Black Forest」という楽曲を提供いただいた。

【Jet Set Ishizaka - Black Forest】
https://fantas-tech-records.bandcamp.com/track/black-forest

Franzさんとはまた違った美しい旋律を奏でたドラムンベーストラックで、この曲を初めて聴いた時にものすごく興奮した記憶がある。

【写真:CD収録曲のメモとジョン佐々木による企画メモ】

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