言葉で訪ねる『音ちゃん』の世界第4号~音楽編その1

0 はじめに

こんにちは、夢水です。
今回の記事も、先日公開されましたラジオドラマ、『音チャン』の世界を言葉で体感していただきます。今回は、このドラマの主題歌であり、「音ちゃんとの約束」の歌でもある、『命の音色』を作曲いただき、役者としても出演いただいた和音(ワオン)さんに『命の音色』という曲に込めた思いを伺いました。ドラマの本編はもちろんのことですが、『命の音色』を聞きながらご覧いただければ幸いです。


1 作者と和音さんとの関係

私と和音さんは、高校生の頃からの知り合いで、その頃から一緒にラジオドラマを作るなど、音楽と演技の両方の面からたくさん支えていただいた大切な仲間です。このラジオドラマの規格では、以前こちらにも書いた、『アナタが主役のワンカット』より、役者として出演いただいており、実はかなりのファンを獲得しています。しかし、和音さんの音楽は以前からラジオドラマでもう1度使わせていただきたいと予てより思っておりました。そこで今回は思い切って、役者としてだけではなく、主題歌や一部の挿入歌までも担当いただくこととなりました。


2『命の音色』製作中の思い

それでは、いよいよ『命の音色』について、和音さんがどんな思いでこの曲を作られたのか、お話を伺っていきます。
前回の記事とは違い、ここからは私の解説をあまり挟まず、和音さんのお話をメインに記事を進めていきます。まずは、『命の音色』という曲のアイデアが出来るまでの苦悩やエピソードについて、お話を伺いました。

「『命の音色』は私の作品として第100番目にできた曲です。
この曲は作中ではヒロインの少女、音ちゃんが生前作詞・作曲をした曲として製作いたしました。 (中略)
私はこの作曲のお仕事をいただいた時、正直夢なんじゃないかと思うほどとてもうれしかったです。しかしその一方でいざ曲を考え始めると嬉しさ以上に不安なことも沢山出てきました。夢水さんからは、最初はプロットでしか『音ちゃん』本編の状況をいただけておりませんでした。そして、脚本に登場する練習シーンなどの出てくるセリフに合わせて曲を作り必要がありました。さらに、実際に製作を始めたのはキャストの方の募集前であり、参加する皆さん一人一人の出せる音域がわかりませんでした。そして何よりも、記念すべき100曲目であり、公開後は不特定多数の人が聞くから本気で取り組まないといけないことも考えると、最初は全然曲が浮かびませんでした。
 しかし転換点は夢水さんから送られてきた音ちゃんの遺書でした。私はそれを読んで、その克明に記された音ちゃんのメッセージに、音ちゃんの世界観に、ぐっと引き込まれることになりました。そこから脚本を20回くらい何度も繰り返して読み、登場人物それぞれの『音楽との向き合い方』、『音ちゃんとのかかわり』、並びに脚本の文章の中で印象に残った言葉を自分の頭の中に入れていきました。 (和音、一部夢水脚色)」

4「音楽に閉じ込められる」こととの葛藤

少しずつアイデアが形になってきたと思った和音さんですが、ここである壁と向き合うことになります。その壁の原因を和音さんは、「自分も音楽に閉じ込められていた。」と説明します。

「…合唱曲には和声が欠かせないので作曲のためには音楽理論にのっとることが最重要だと、音楽理論が絶対だと思っていました。でもそう思えば思うほど曲が書けないのです。
その時背中を押してくれたのが、夢水さんが事前打ち合わせでおっしゃっていた、『音ちゃんはピアニストになりたかったわけじゃなくてシンガーソングライターのように自分の音楽を創ったり自由に音楽をしたかった』ということでした。これを思い出して私は音ちゃんの気持ちになって『いったんほとんど何も考えずに自分の音楽を作ってみよう』と思ってハモリや対旋律はひとまず置いておいて下書きしておいた仮の歌詞に合わせて主旋律とコードを完成させました。
合唱へのアレンジは久々だったので本当にできるか不安でしたが、もちろん和声を基準としていろんな合唱曲を聞きこんで何とか完成させました。 (和音、一部夢水脚色)」


5 音ちゃんと向き合うことの重み

歌詞を作っていく段階でも、和音さんは次のようなことに悩まれたそうです。

「…ここで一番大切にしたのは『音ちゃんが伝えたかった事って何だろう?』ということです。しかしここでまた壁がありました。
それは『死んだ経験のない私がこの音ちゃんの歌詞を書いていいのだろうか』ということです。
言い換えれば『死んだ経験のない私が命について歌う詩を作っていいのだろうか」とここで悩みました。もちろん私が死んでしまったらもう曲は完成しないので自殺を経験するわけにはいきませんが、何回か単語を並べて歌詞を書き出してみてもどこかうすっぺらさを感じてしまっていました。
そこでヒントとなったのが、『『音ちゃんはこの曲で楽しく生きること、自分らしくいること『自分らしくいたかったこと』を言いたかった』という、夢水さんの言葉です。
一度は音楽を極める道に進みたいとさえ思った私ですが、現実はそうはいかず、うちひしがれる時期もありました。でもやはり音楽だけは捨てられなかった…。むしろ作曲した私自身、今の自分らしくいれたのは音楽のおかげなんだということに気づきました。それが音ちゃんと重なり、自分が思う『音楽への感謝』を歌詞に投影することにしました。 (和音、一部夢水脚色)」


6 タイトルに込めた思いとは

歌詞も曲も出来て、いよいよタイトルを決める段階になったとき、和音さんはどんな思いだったのでしょうか。

「やがて歌詞の本体のほとんどを完成させてタイトルを決める時、最初のタイトルは音ちゃん自身の自分らしさを表す曲としたために『私の音色』でした。
もう少しいえば『私の音色』と今のタイトルである『命の音色』とどちらにするか迷っていました。
しかし最終的に私は、曲のタイトルを『命の音色』としました。
その理由として私はタイトルに『命』という言葉が入っているけれどこの曲をただ『命が大切だ、生きることは大切だ』というような道徳の教科書に載っているお話の文字列みたいにただ言葉だけで語るうすっぺらい曲にしたくありませんでした。
だれもがみな一度は自分を消してしまいたいと思ったことはあると思います。でもそれは他人と比べたり誰かにあこがれてそれを追いかけるあまり現実に気づいて絶望してしまうからではないでしょうか。
またここ数年で障害や性的マイノリティといった少数派に限らず一人一人の『個性』が認められるようになり、それぞれが『生きる力』を自分で身につけていかなくてはならない時代になってきたと私も感じています。
しかしそんな中でも一人でできることは少ないしなによりこの私たちが住んでいる地球は自分一人だけの物ではないのです。さらにいえば今生きている人たちの物だけではなくこの先の未来に生きる人たちの物でもあるのです。
そのため、今共に生きる、そして未来に生きる人間を含めた生き物全てがもつ『命』にスポットを当て、それぞれの一生を『命』という言葉に込めて、それぞれが持つ目に見える外部的な個性や見えない部分の内面的な性格や生き方・考え方なども含めた『個性』を『音色』という言葉を込め、だれも取り残されることのない世界が実現されることを願い、『命の音色』としました。
またそのそれぞれの『命の音色』が旋律となって共存し、素晴らしいハーモニーになることも混声三部合唱というアレンジに願いを込めています。 (和音、一部夢水脚色」


7 歌詞に込めた具体的な思い

『命の音色』の歌詞について和音さんは、基本的に音ちゃんの目線を意識して書いたそうです。その歌詞からは、音ちゃんが残した音楽への思いや周りの人たちへの感謝、ずっと考えていたことなど、その心の声をひしひしと感じることができるでしょう。
また、この曲は、『音ちゃん』というラジオドラマの主題歌というだけではなく、曲単体としても成立しうる素晴らしい曲であり、主題歌としての顔と、曲だけが持つ顔の二つが、その歌詞には込められていると和音さんは説明しています。例えば次のような歌詞があります。

「届かない痛みと悔しさの涙で震える夜に
よみがえる無邪気な頃のたくさんのときめき
あふれ出す言葉を心に刻んで前を向いたら
私の音色が胸に響いている。 (命の音色1番より)

ここについて、ラジオドラマの主題歌としてのメッセージは、最初の部分で、音楽に悩んで泣いている登場人物を想起させ、そこから音ちゃんが音楽に出会った頃の喜びがよみがえり、音ちゃんの重いが伝わればいいなという願いが最後に吐露されるという流れになっています。一方、曲だけを取り出してその思いを探ると、現実を見て涙を流すこともあるけれど、子どもの頃何も物事を知らずにただ楽しかった日の胸の高鳴りが、自分の個性は自分にしか作れないことを思い出させてくれるというメッセージが込められています。この部分について和音さんは、自分が一番思い入れがある部分だと振り返っており、次のように説明しています。

「これは左胸の鼓動、つまり生きている証である心臓の動いている音や自分の信念や個性としての代名詞が、『私の音色』でそれがしっかりと自分自身の中にあるということを表したかったのです。 (和音)

さびの部分にはもう一つ仕掛けがしてあります。
1番のさびでは「私の音色」だったのが、2番のさびでは「絆の音色」となり、ラストのさびでは、「命の音色」となります。この広がっていくような歌詞の流れについて、和音さんは次のように語っています。

「一人一人それぞれの『私』があって、それがお互いで会うことで一人ではできなかったことが仲間となら大きな力で目標に立ち向かうことが出来る。
そしてそれがどんどん大きくなり、連鎖して人間の命のリレーとして過去から現在、現在から未来へつながっていくことを表したかったのです。 (和音)」


8 曲に込めた具体的な思い

上記の歌詞に込めた思いは、各パートのメロディーや伴奏の転回にも反映されています。例えば、1番Bメロに出てくる、ソプラノとアルトのコーラスは、音ちゃんのため息を表していたり、さび直前の「信じて、「とか「託して」と歌っている部分でアルトだけ音が動くことで何か新しい変化が音ちゃんの中で起こったことが表されたりと、細かい音の動き一つにも、音ちゃんの重いがしっかりと投影されているのです。
説くに私と和音さん両方が一致してこだわったのは、曲の最後の部分で右手が同じ音を5回弾く部分です。この部分は、脚本担当である私の解釈は、駅ピアノのそばでかすかに聞こえる踏切の音です。しかし和音さんは、「鼓動や足音、ささやきとして思いを込めました。」と、また新たな解釈を与えてくださいました。
さらに、歌詞のときと同様に、極端対としての魅力と、主題歌としての魅力という汎用性が曲にも表れていると和音さんは語ります。

「…曲を作るときに考えていたのは今回は混声三部の合唱曲でしたが、それだけではなく、ポップスや独唱、弾き語りの曲などジャンルの汎用性、また結果的にとも言えますが、音域が第3音列のシから第5音列のド#と1オクターブと全音と比較的狭いことからいろんな人が歌えるようにと心がけました。また、公開時期にも合わせて卒業ソングとしても聞き手に感じてもらえたらいいのかなとも考えています。 (和音)


9 音ちゃんと向き合ったヒビ

このラジオドラマで私は、音ちゃんこと音延奏(オトノベカナデ)さんが作った曲として、実際は和音さんの曲を何曲か使わせていただきました。主題歌である『命の音色』はもちろんのこと、いくつかの挿入歌も、和音さんが作っていただいた曲です。
和音さんは音ちゃんに向き合いながら、この企画に関わってくださり、それについて次のように振り返っています。

「曲を使っていただくにあたって『命の音色』の作曲やその他の曲のアレンジなどは一番は『音ちゃんだったらどうするかな』ということです。11歳でミニリサイタルを開くほどのおそらくプロの音楽家になっていたであろう天性の才能の持ち主という設定で演奏技術・作曲技術共に今の私では到底かなわないほどの少女だったんだと想像しています。
なので僭越ながら自分がなれなかった未来を疑似体験できたような気もしています。それらを踏まえて実際に音延奏さんがこの現実世界に存在していたらという想定で音源の製作をしていました。 (和音)」

さらに和音さんには、同時に出演者として、音ちゃんに音楽を教えた先生の役でも出演していただきました。ドラマを見ていただければ分かりますが、音ちゃんとこの先生という二つのキャラクターを背負うことというのは、実は相反する二つの考えを同時に背負うことにも鳴ります。これについても、和音さんは次のように語ってくださいました。

「 指揮音先生の役もいただいて、「育ての親、彼女を殺した犯人」という立ち位置で
今回の作品に携わらせてもいただきました。
配役は音楽の指導する立場の大人でしたが、このプロジェクトの最後まで親に近い目線で音ちゃんを見つめていたのもここまで音ちゃんに感情移入できた要因だと思います。 (和音)」


10 『命の音色』の聞きどころと合唱に対する思い

最後に、『命の音色』の聞きどころを伺いました。ずばり、以下の四つだそうです。

「①1番・2番のサビ直前の『信じて『、『託して』からサビに入るところ
②1番・2番・ラストのそれぞれ『私の音色』、『絆の音色』、『命の音色』の部分のソプラノが対旋律残りが主旋律とハモリからの「の」の部分でタイミングが一緒になった時のハモリが一番聞きごたえがあると思います。またその部分の分かれてまた合流するという流れにも注目してほしいです。
③後奏直前のゆっくりになる『命の音色がとわに響いていく』でユニゾンの力強さを感じてほしいです。
④一番最後の『UH-』と伸ばしてピアノがAフラットメジャーセブンスのコードのアルペジオをやって最後に5回同じ音を鳴らす何とも切ない曲の余韻を感じて音ちゃんのことを想像してほしいです。 (和音)」

そしてせっかくですので、音楽と深く向き合ってきた和音さんだからこそ感じる、合唱に対する思いをいただきました。視聴者の皆さん、読者の皆さんにもその思いを受け取っていただきたいと思います。

「 現実世界ではコロナ禍によって『合唱』は大きな影響をうけています。
しかし私はこの合唱という文化を衰退させてはならないと昨年から強く感じておりました。
今回リモート合唱という形態での演奏に挑戦し、完成できるのか不安も多くあった中で公開にたどり着くことが出来ました。離れていても思いや音楽が共有できるんだと複数の人が協力することは欠かせないことで、その力は想像するよりとても大きな力を持っているのだということを、編集され、完成した命の音色の音源を聞いて改めて感じました。 (中略)
その時その時演奏する人々が織りなすハーモニーで、誰もがお互いの命を輝かせあえる世界が実現できることを願いながら、命の音色を響かせてもらえれば作者としてこれ以上に嬉しいことはありません。 (和音)」

11おわりに

以上で、ラジオドラマ第6弾、『音ちゃん』の主題歌である『命の音色』の裏話は終了です。
この記事を書いていたとき、ちょうど東日本大震災から10年という日を迎えました。あれから10年。今私たちは、コロナ禍という、新たな脅威に直面しています。そんな今だからこそ、命は時空を超えてつながって美しい音色を誰かの左胸で香奈出続けているんだということを思いながら、このドラマと歌を聴いていただければ、私も和音さんもこれ以上にうれしいことはありません。
次回は、また音楽の裏側の話として、『命の音色』の伴奏並びに、藤永未空役を務めたコッシーさんに登場いただきます。お楽しみに。
それでは今日はこの辺で。いい夢見てね。

本記事の執筆協力者:和音(ワオン)
YouTubeチャンネル:
https://www.youtube.com/channel/UCJUHmiXUfEQWZ6LEc6g6WhQ
『命の音色』MV:
https://m.youtube.com/watch?v=JJTaJ0vq4N8
ラジオドラマ『音ちゃん』をまだ見ていない方はこちら:
https://youtu.be/NiT7dBL7vII

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