言葉で訪ねる『音チャン』の世界第3号~監督編

0 はじめに

こんにちは、夢見ずです。
今回の記事も、「言葉で訪ねる『音ちゃん』の世界第3号」として、先日公開されたラジオドラマ第6弾、『音ちゃん』について書きます。
今回は、監督兼音声編集のげんさんにお話を伺い、この作品の演出や編集に関する裏話をご紹介していきます。この作品のまた新たな顔を見つけることができるかもしれませんよ。
また、前回までの記事よりも、さらに具体的なシーンについて言及しますので、まだご覧になっていない方は、下記のリンクよりご覧になりながらお楽しみください。


1 げんさんと作者とのかかわり

私とげんさんとはかなり昔からの知り合いで、元々このこの企画に誘っていただいたのも、誰あろうげんさんです。しかしもともとは役者として誘われました。それが、いつの間にか脚本担当として毎回のように依頼をいただき、私としては本当に感謝しています。
げんさん自体は、コロナ禍以前は、電車に乗りに行くことを趣味としており、音声編集などはその関係で非常になれた技術をお持ちです。それを生かして、今回のようなラジオドラマ企画が生まれ、早1年になります。この1年を、げんさんは次のように振り返っています。

「いままでのラジオドラマの目的を話すと、正直なところ、この企画で莫大な視聴回数を狙おうとは思っていませんでした。もちろんないよりはあった方がいいので、公開の時間帯やシェアの方法にはこだわりましたが、ユーチューバーのような何万、何十万の視聴回数はおろか、これで利益を出そうだなんて全く思っていません。それよりも見てくれる一人一人がストーリーの面白さと、音楽や演技の良さを理解して欲しいと思って作ってきました…。 (げん)」


2 演出で悩んだ部分について

演出に悩んだ部分について、げんさんは次のように話しています。

「みなさんの音楽の良さを引き出すにはどうすれば良いか、悩んだ。特に最終シーンからエンディングにかけては2日近く悩みました。例えば最終シーンの合唱は外なので、街の効果音を入れなくてはいけませんが、大きすぎると曲が聞こえないし、小さすぎると外の感じが薄れてしまいます。さらに、ピアノの部分と歌の部分では音量が明らかに違うので、部分ごとに調整する必要もありました。 (げん)」

最終シーンというのは、音ちゃんとの約束をかなえるために、登場人物たちが集まって合唱をする部分、つまり駅ピアノの前ということになります。普通の合唱と違って、外の雰囲気を視聴者にも聞かせる必要があります。駅ピアノの前で合唱しているということを、うまく演出で伝えるにはどうしたらよいか。これはなかなかに難しく、それでいて画期的な演出だったというふうに、原作者としては感じています。それこそが、開かれた場所で音楽が行われるという、音楽の自由さのようなものも象徴しているのかもしれませんね。
また、「みなさんの音楽の良さを引き出したい」というげんさんの苦悩は、音ちゃんが自殺をしてストーリー本編が始まるまでのプロローグの演出にも表れています。これについてげんさんは次のように話しています。

「和音さんの曲の良さを引き出すのと、視聴者さんをストーリーに引きこませる演出に力を入れました。まず、和音さんの曲についてですが、このストーリーは綺麗な声で切なくナレーションをするせいなさん(音ちゃん)から始まります。視聴者が音ちゃんの声に引き込まれたあたりでさらに切なく命の音色のAメロが流れます。そして音ちゃんのナレーションは途中で終わり、命の音色だけが流れます。ここまでで、視聴者さんにはストーリーの切ないイメージと、音楽の良さを掴んで欲しいなと思い、こだわりました。
つぎに、視聴者さんをストーリーに引き込ませる演出についてです。踏切事故からオープニングにかけての部分です。まず、踏切のところでは、いきなり右から電車が走ってきます。通過音が数秒間続いたのち、いきなりエコーがかかって放り出されます。ラジオドラマで映像がないので、ここまででは聞いてる側は何が起こったのか予測できないはずです。「次どうなるの?」と思ったところで、通行人たちのたたみかけるようなカミングアウトが始まり、主人公のナレーション、タイトルコールと続きます。ここまででストーリーの重さ、これから始まる1時間のストーリーがどうなるのか期待してくれたらと思い、このような演出にしました。 (げん、一部夢水脚色)」

このシーンは、原作者の私もかなり頭をひねったシーンであり、げんさんには二つのバージョンのシーンを作っていただきました。どちらのバージョンも大変素晴らしく最後の最後まで悩みに悩んでいた部分でもあります。
こだわったのは、主人公のナレーションに重なるように響くメトロノームです。このメトロノームは、音楽というものが一定のリズムやテンポによって支えられていることを表すだけでなく、彼女の心臓の鼓動や時間の経過など、様々な側面を表す者として機能しています。このメトロノームの演出のあとにやってくる美しいピアノの音色が、このストーリーを色づけてくれます。プロローグであることを感じさせないほど、このストーリーにはたくさんの人たちの思いが詰まっています。


3「ピアノで遊ぶ音」について

効果音や編集の際にこだわったことについてげんさんにお話を伺ったところ、次のようなエピソードについて話してくれました。

「ピアノで遊ぶ効果音の録音をするため近所の電気屋へ出向き、許可をもらった上で、ピアノにマイクをセットしました。鍵盤を叩く音は簡単に録音できましたが、電子ピアノだったので、ペダルを踏んだ時に鳴る、雑音が響くような録音ができませんでした。そこで、思い切り強く踏んだ音を持ち帰り、最大限にエコをかけて即席で作りました。 (げん)」

ピアノで遊ぶ部分というのは、お話の序盤で、音の鳴らない駅ピアノを子供たちがいじっているシーンです。音の鳴らないピアノの音を作るというのは、正直かなり無理のある作業であるということは、脚本を作ったときに承知していましたが、げんさんは上記のような方法で、なんとかその音を作り出してくれました。ピアノで遊ぶ子供たちの楽しそうでもありどこか冷ややかでもある素晴らしい演技と相まって、この部分はかなり聞きごたえのあるシーンになっています。


4 収録中や編集中の面白エピソード

収録中や編集中にも、いろいろと面白い発見や出来事があったのではないかとげんさんにお話を聞くと、次のようなエピソードを聞くことができました。

「…部屋の暖房らしき音が常に入っており、それを抜く作業が大変でした。環境恩があるところはある程度隠すことができるのですが、家や廊下のシーンでは環境恩がないので、どのようにして隠したり抜いたりするか悩みました。暖房の音を無理やり環境オンとして使うところもありました。 (げん)」

これは、このラジオドラマの企画が、オンラインによる収録を採用しているため、どうしても起きてしまう問題の一つかもしれません。部屋の冷暖房や、収録している家の立地条件、家の中の音声環境、Wi-Fiの状況、使用しているイヤフォンや端末の状況…。すべての状況を把握できない状態での編集というのは、対面収録とは異なる苦労があるのではないかと思います。しかし私としては、「暖房を環境音として使用した。」という試みについては、かなり面白いと感じました。使えるものは使っていくというスタイルは、私自身も今後大切にしていきたいです。


5 リモート合唱という新たな試み

今回は、「みんなで約束をかなえる」ということで、合唱をするというのが最終的なストーリーの終着点となりました。ということは、リモート合唱という新たな試みを行わなければいけないのです。これについて、げんさんは次のように話しています。

「音楽の録音方法の徹底が大変でしたが、そのおかげで綺麗な歌ができました。「歌うときはイヤホンで伴奏を聴きながら歌って、歌声だけをください。」とみなさんに伝えました。こうすることによって、ほかの人とのタイミングが合い、伴奏との音量のバランスも調整しやすくなりました…。 (げん)

リモート合唱については、ここには書ききれないほどたくさんのエピソードがあります。いろいろと大変なことはあったものの、今後の記事でも触れるように、とても素晴らしい合唱となり、ストーリーに花を添えているというふうに感じています。原作者としては、このような実験的な試みに対応してくれたげんさんの編集力には頭が下がる思いです。

6この作品の聞きどころ

げんさんに、この作品の聞きどころについても伺いました。

「聞きどころはなんといっても一番最初、子供時代の音ちゃんたちが約束を交わすシーンです。このシーンなしでは話が成り立ちませんし、聞いてる側も一番印象に残るところではないでしょうか。和音さんの曲の良さを最初に体験できるところでもありますしね。 (げん)」

上にも書いたように、このシーンは演出もストーリーも含めて、かなりこだわったシーンの一つと言えます。今後の記事でも詳しく触れる、音楽との関係性が深く表れていて、なおかつ重要なシーンの一つであるこのシーンは、製作当初からかなりの人気シーンとして、役者やその他のスタッフからの評価も高かった部分です。最初にいきなり聞きどころが来るということにはなりますが、ほかにもたくさん注目していただきたいシーンはありますので、きちんと最後まで聞いてくださいね。


7 ラジオドラマを作る魅力、そしてこれから

最後に、せっかくなので、『音ちゃん』だけでなく、この1年でいくつものラジオドラマを作ってきたげんさんに、今までの気づきやこれからのことについて伺いました。少し長いですが、ぜひ読者の皆さん、そして視聴者の皆さんには、その思いを受け取っていただければと思います。

「…音声編集をしていく中で脚本家さんや出演者さんに質問をしたり雑談をしたりしていくうちに彼らと仲良くなれました。そこで気づいたことがありました。この企画は視聴者 対 製作者だけでなく、製作者 対 製作者でも人の輪が広がるのだということに。この企画でぼくは何人もの人と出会いました。久しぶりに再開した人もいました。それだけでも十分嬉しかったですが、ぼくの知り合い同士が仲良くしていることが一番嬉しかったです。大学の後輩が母校の先輩と話していたり、幼なじみがグループチャットにメッセージを送ったりしてるところを見ると、人の輪ができたことを感じ、嬉しかったです。まとめると、今までのラジオドラマでは、視聴者にはストーリーの良さを、製作者さんたちには人の輪ができることを願い、それを感じることができました。やってよかったなと心の底から思います。
今後の話ですが、これから就活で忙しくなるので、企画はしばらくできなくなると思います。誰かにバトンタッチしたり、別の企画が始まったりすることはあるかもしれませんが、少なくとも僕が主体となったラジオドラマは半年程度はやらないと思います。就活が終わってから、またやりたいと思います。それまで待っていてくれたらすごくうれしいです。 (げん)」


8 おわりに

以上で、監督のげんさんに伺った、『音ちゃん』の裏話は終了となります。編集の立場から、そして企画者の立場から、様々な演出のこだわりを知ることができたのではないでしょうか。
さて、次回はこの作品のもう一つの顔である音楽の製作秘話について取り上げます。どうぞお楽しみに。
それでは今日はこの辺で。いい夢見てね。

本記事の執筆協力者:げん
ツイッター:@floorvolley
ラジオドラマ第6弾『音ちゃん』リンク:
https://youtu.be/NiT7dBL7vII

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