言葉で訪ねる『音ちゃん』の世界第5号~音楽編その2

0 はじめに

こんにちは、夢水です。
今回も、前回までと引き続き、『言葉で訪ねる音ちゃんの世界』ということで、先日公開されましたラジオドラマ、『音ちゃん』の製作に関わった皆さんにお話しを伺っていきます。
今回は、前回と同様、『音ちゃん』には欠かせない音楽の世界を引き立たせてくださったコッシーさんにお話を伺いました。前回第4号では、主題歌である『命の音色』を中心とした内容になりましたが、今回は広く、このお話と音楽との関係について掘り下げていきます。


1 作者とコッシーさんとの関係

コッシーさんとは、実際にお会いしたこともありますが、きちんとお話しするようになったのは、このラジオドラマ企画が始まってからでした。元々音楽に対して非常に造詣の深い方で、演奏活動もされているので、音楽の話をきっかけとして交流を深めていきました。
ラジオドラマでは、『あなたが主役のワンカット』で、楽器屋の娘さん役という、実際の状況とかなり近い役柄で出演いただき、『アップデート』でもエキストラとしてしゅつえんしていただいています。

2 藤永未空という役と向き合って思ったこと

今回は、演奏活動もしていらっしゃるコッシーさんに、ピアニストを目指す藤永未空(フジナガミソラ)役を、演技でも演奏でも演じていただきました。
藤永未空という少女は、音大の附属高校に進学したという設定になっています。そしてコッシーさん自身も、高校では音楽科で学んでいたそうです。ここに似た境遇を感じたとコッシーさんは語ってくださいました。また、作中では、コッシーさんが一度実際に弾いたことのある、ショパンのバラード第4番という曲を、未空の演奏として弾いていただきました。この曲を弾くに当たってコッシーさんは、ドラマで実際に弾いた部分だけではなく、曲全体を改めて見直したそうです。
自分に似たキャラクターを演じるということは、新しい世界を体験できないという意味では少しつまらないかもしれません。しかし、自分と似たキャラクターを演じることで、自分を客観的に見つめることができるのではないでしょうか。


3 演技と演奏で気をつけたこと

では、具体的に藤永未空を演じるに当たって、コッシーさんはどのようなことを意識したのでしょうか。
藤永未空という少女は、あまり感情を出さないタイプの女の子なので、役を作るのが難しいこともあったとコッシーさんは話してくださいました。そこで意識したのは、感情を出さないからと行って棒読みにならないように、「きっとこんな思いだったのかな?」と、台詞に書いていない部分も想像しながら演技したそうです。そうすることで、冷静な中にも何か気持ちが伝わるような話し方というのが、コッシーさんの意識したことなのです。これは、原作者の考えていた藤永未空とぴったり合っているイメージですが、実はその揺らめく感情の機微を演技として表現するのはとても難しい者です。しかし、コッシーさんは的確にその感情の揺らぎを演技で表現してくださいました。それは様々なシーンに随所に見られますが、未空と主人公の聯くんが、死んだはずの音ちゃんと初めて会うシーンでもっともはっきりと聞くことが出来ます。
未空の感情の揺らぎは、演奏に対するコッシーさんの意識にも表れています。これについてコッシーさんは次のように話しています。

「1回目のレッスンシーンはナレーションともかぶっているので、あまりあれこれやらずにサラッと弾きました。逆に、後半の方に出てくる2回目のレッスンシーンは、先生からのお叱りを受けるところなので、少し乱れた感じに弾いています。ただ、普段はもっと弾けているという前提なので、誰が聴いても『弾けてない』とわかるような演奏にはならないようにしました。曲の雰囲気も相まって、未空の不安定な状態は表現できたかなと思います。(コッシー)」

ここで注目すべきは、後半のほうに出てくる乱れた演奏です。この部分は、曲自体もとても激しく音が動く部分ですが、そのときの未空の心情も、音ちゃんとの再開を通して少しずつ揺らぎ始めています。未空は高校生の中でもかなりピアノを弾くことができる少女で、普段ならそんなふうに音の動きが多い曲も簡単に弾きこなすでしょう。しかし、そんな未空にとって、死んだはずの音ちゃんとの再会はとても大きなことで、めったなことでは感情を揺さぶられないはずの未空にも大きな変化が生まれるのです。その大きな心の変化をどのように演奏するかというコッシーさんの苦悩を、この乱れた演奏では感じることができるでしょう。


4 『命の音色』の伴奏について

コッシーさんには、藤永未空の役を務めていただくだけでなく、第4号で取りあげた『命の音色』の伴奏を弾いていただきました。伴奏をするときの心境について、「 最初にこの曲の音源を聴いた時の感動は今でも忘れられなくて、私が伴奏させていただくことが決まった時、絶対に素晴らしいものにしたい、しなければと強く思いました。 (コッシー)」と話してくださいました。しかし、実際に演奏の練習をし始めると、考えなければいけないことがたくさんあったようです。それは次のようなコッシーさんのコメントからうかがい知ることが出来ます。

「…ただ、リモートでの伴奏は初めてなので、色々と手探り状態でした。合唱メンバーの皆さんは私の伴奏音源を聴きながら歌うわけなので、合わせにくかったり歌いにくいものになってしまわないかと不安を感じたりもしていました。伴奏を録音する時は、合わせやすさを重視しつつ、音楽的に自然な流れが消えないように意識しました。正直、弾いている時はそれを心がけることに必死で、どういう想いかまでは考える余裕がなかったです(苦笑)。 (コッシー)」

再三記事で触れてきたように、この『命の音色』はリモート合唱によって収録された曲です。そのため、曲自体の表現を考える前に、リモート合唱として歌う人たちが歌いやすいように注意を払いながら伴奏をする必要があるという問題があったようです。
しかしそれは同時に、曲自体の音に丁寧に向き合うと言うことになります。その歯がゆさについてコッシーさんは、「…こだわり出すとキリがなくて、何回も録り直しました。まるで自分から音楽に閉じ込められにいってるような(笑)。でも、そういう過程があったからこそ、完成した時の喜びは本当に大きかったです。 (コッシー)」と振り返っています。これは、第4号で和音さんも触れていたことではありますが、作品を作るということは、少なくとも音楽に閉じ込められるという過程は避けて通れないのです。音楽に閉じ込められることを嫌った音ちゃんも、きっとそれを分かっていたのかも知れませんね。
最終的にコッシーさんは、「私の伴奏音源に歌が重なっていくのを聴いて、この曲への想いがより強くなっていった気がします。 (コッシー)」とまとめています。曲を作るのは作曲家や伴奏者だけではありません。その伴奏や曲に合わせてうたうことによってこそ、命が吹き込まれるのです。
そして、コッシーさんの丁寧な伴奏に対する心配りは、画面の向こうでその伴奏に合わせて歌う歌い手の人たちを安心させる効果がありました。私も、『命の音色』のリモート合唱に参加したのですが、リモート合唱は普通の合唱と違い、周りで誰かが一緒に歌うわけではなく、聞こえるのは伴奏の音だけです。つまり、伴奏が安心感のあるものでなかったら、歌っていても孤独な気持ちになるだけです。そしてコッシーさんの伴奏は、孤独な歌い手の心を優しく包み込み、一緒に寄り添って音楽を奏でる気持ちが伝わってきました。


5 作品の聞きどころと伝えたいこと

今回、音楽の面でたくさん関わっていただいたコッシーさんに、この作品の聞きどころやメッセージについて伺いました。

「 この作品は全体を通して、音楽の持つ力、そして「命の音色」の歌詞にもありますが、自分らしくいることの大切さなど、普段の慌ただしい生活の中でついつい忘れてしまいがちなことを思い出させてくれる作品だと思います。音楽が好きな方はもちろん、それぞれの立場や境遇によって感じるものも変わってくると思うので、是非たくさんの方にご覧いただきたいです!
そして私自身、脚本家の夢水さんや作曲家の和音さん、また演技で共演した方々など、素敵な仲間たちとともにこの作品を作り上げることができてとても幸せです。この経験は、これからも音楽を続けていく上で糧となっていくと思います。本当にありがとうございました!(コッシー)」

この作品は、もちろん音楽がテーマの作品ではありますが、このコッシーさんからのっコメントの通り、音楽というものをテーマとしながら、自分らしく生きること、楽しく生きること、自分と仲間の命を磨き合うことなど、音楽から派生した普遍的なメッセージも受け取ることができる作品です。私も、脚本を書いていた当初はこのメッセージを頭でぼんやりとしか考えていませんでした。しかし、コッシーさんを肇とする音楽スタッフや、監督のげんさん、そして次回以降の記事で登場いただく映像班の皆さん、そして何より役者の皆さんにそんなメッセージの普遍性を教えていただいた気がしています。コッシーさんはコメントの中で感謝の気持ちを伝えてくださいましたが、原作者の私こそ、感謝しても仕切れない存在として、この作品を受け止めています。


6 音楽そのものと向き合った日々

上記で触れたように、コッシーさんは演奏活動もしていらっしゃる方で、高校時代から音楽を専門的に学んできた方でもあります。そんなコッシーさんにとって、藤永未空を演じたことや、『命の音色』の伴奏をしてくださったことなど、この企画を通して音楽とどのように向き合ったのか。最後に、音楽に対する気持ちをコッシーさんに伺いました。そのコメントからは、表現者としての力強い命の音色を感じることが出来るでしょう。

「…私自身は何のために音楽をやっているのかということを改めて考える機会にもなりました。色々思ったのですが、自分が良いと思ったもの、感動したものをできるだけ多くの方と共有したいという気持ちが一番強い気がします。これからも、私にできる形で音楽を届け続けていきたいです! (コッシー)」


7 おわりに

以上で、コッシーさんに伺った、『音ちゃん』製作の裏話は終了となります。今までの記事では、主に作り手の目線から、『音ちゃん』という作品を描写してきましたが、今回は作り手としてだけではなく、役者としてのお話しも取りあげましたので、さらに広い音のちゃんの世界を知ることが出来たのではないでしょうか。
さて、残すところこの連載記事もあと2回になりました。次回の記事からは、キャラクター画像や映像編集に少しずつ視点を移し、まだ違った角度から『音ちゃん』の世界をお見せいたしますので、お楽しみに。
それでは今日はこの辺で。いい夢見てね。


今回の執筆協力者:コッシー
Twitter:@koshi_piano
『音ちゃん』本編を見ていない方はこちら:
https://youtu.be/NiT7dBL7vII

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