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「ただただカッコいいミロンゲーラになりたいなって思うの」

読んだら誰かに話したくなる『明日のタンゴ』今回のゲストは東京を拠点に数々の大会で上位の成績を収め、世界中のミロンガを飛び回るミロンゲーラ、YOKOさん!

彼女のタンゴへの情熱、ペア結成から10年以上経つパートナーへの思いなど、タンゴ≠仕事の立場であるからこその視点はなるほど、と思うことがたくさん。ヨウコさん、春奈と3人での女子会インタビューの様子をみなさんへお届け。



書き手:Sakurako

-Profile-
YOKO(Hiroki&Yoko)

「日本を代表するミロンゲーラ」


2007年にタンゴに出会い、2年後はじめて出場したタンゴダンスアジア選手権で決勝進出、翌年3位受賞。その後も常に同じパートナーと“Hiroki&Yoko”として同大会で決勝常連に名を連ねる

2011年はじめて挑戦したブエノス・アイレスの世界大会で準決勝進出

2014年第1回韓国タンゴチャンピオンシップ3位

2018年タンゴダンスアジア大会西日本選手権優勝


師であるVanesa y Facundo プロデュースのタンゴショウ“El Curuce”出演をはじめ国内外のミロンガでのデモンストレーション多数


数々の経歴にもかかわらずアマチュアであることにこだわり、いちミロンゲーラとしてタンゴに関わる姿勢をつらぬいている。

ミロンガを通してタンゴの文化そのものを愛し、ミロンガで美しく踊ること、ミロンガを通しての人との繋がりを大切にしている、まさに「日本を代表するトップミロンゲーラ」である 。

YOKO…Y  Haruna… Sakurako…

アジア大会で毎回上位に残る「アマチュア」ペア

:アジア大会とか世界大会とか、いろいろなコンペに出場してますよね。



Y:コンペがすごく好きってわけではないんだけどね。



:どういうことですか?



Y
:海外ダンサー含めた多くの人と一緒に踊れる唯一の大きな楽しいイベントだし、自分のタンゴのクオリティーをみるいい機会だと思ってるの。



:審査員の前で踊るときはどんな気持ちですか。



Y:ものすごく緊張はするけど、周りはよく見るようにしてる。



:周りを見るというのは?



Y
:たとえば、パートナーのリードに集中しながら、周りの様子もみてロンダの流れも意識してる。



:大会では後ろのペアの進行を邪魔しちゃいけない、というルールがありますもんね。



Y:ロンダのペースに余裕があるときは、たっぷりとアドルノができるチャンスかなとか(笑)



:コンペはリードを感じつつ周りの動きも意識しないといけないんですね。



Y:あと、ステージ後方から正面に出てくる時、ここは特に客席側から見えやすいことを意識してる。ここでどの曲がかかるか、それは運。楽団によって得手不得手があるからね。
あと曲の序盤か最後のバリエーションなのかも大事。対策として、大会の少し前にミロンガやプラクティカで本気で踊ってみる。
意識するのは快適な姿勢と良いコネクション。ステージの目立つ場所でも余裕をもって踊るためにはこれが一番大事と思ってる。音楽性やフィグーラはそこから自然に出てくるみたい。



:こんな大事な情報、言っちゃっていいんですか?!(笑)



Y:うーん、良いんじゃない? 秘密はもっとあるから(笑)
ちなみに自分達の得意な曲の見せたい部分をステージの正面で踊れるようロンダのスピードをコントロールできるまでになりたいとも思ってる。



春:ヨウコさんって華やかで素敵だなと思います。普段のミロンガのときに、ヨウコさんのパートナーに誘ってもらうがあるので、もちろん上手いことは知っているんですが…なんて言ったらいいんだろう、コンペの場でペアとして眺めると、改めてヨウコさんの良さがわかるというか。



Y:そんな風に思ってくれるの、嬉しいな。これは、パートナーとのコミュニケーションの話になるんだけど、長いこと一緒にやってると、「ここでアドルノやってね」っていう「間」を感じられるようになるの。


桜:それは面白いですね。



Y:まず、フレーズとフレーズの間のピアノの飾りの音は女性アドルノの時間だよねっていう共通の認識があるのね。曲がかかるとアドルノのポイントがどこにあるか大体分かる。
その上でステージだと表裏があるから、私が客席から見える位置でアドルノを誘導してくれているの。逆だと男性の背中しか見えないってことになっちゃうのよ。
それって男性に結構な技術が必要だよね。
彼はある時から「女性を綺麗に見せる」ってことを考えながら踊るといいって気が付いたみたい(笑)

早10年!長続きするペアの秘訣とは


:パートナーのHirokiさんと組んでもう10数年経つんですね。



Y
:そうだね、コンペには組んでからずっと出続けてるよ。



:ズバリ、パートナーと長続きする秘訣は?



Y:そうねえ、最初はタンゴの相性がいいからパレハ(*)になったんだろうけどここまで長いこと踊ってるともはや相性とか良くわからない(笑)強いて言えば人として信用できるかどうか、この軸さえあれば多少のことがあっても大丈夫。良いことも悪いこともあるからね。あとやっぱりプライベートで仲がいいからかな。



桜:プライベートでパートナーでも、別れていくダンサーカップルは割といる気がします。



Y:私たちは、カップルバランスがよかったのかもしれないね。タンゴを始めた時期が同じくらいでレベルもほぼ同じ。
あるミロンガで初めて会って一緒にミロンガに行ったりクラスを取るようになったり、今もそのまま踊ってる。あえて「パレハ」って言葉は使わなかった。



:海外のカップルみたいですね。日本だと「お付き合いしましょう」って言葉がないとパートナーになった気がしないけど、海外だとお互いの関係を雰囲気で分かり合ってる、みたいな。



:ケンカとかしないんですか?



Y:よくしたよ!一緒に踊りはじめた当初は「この人合うな」って思ってたのに、大会に出るとなると、途端に上手くいかなくなることが増えるの。急に相手の頭の位置が気になり始める、とかね。



春・桜「わ・か・る!!!」



Y:アブラッソの質感とか、相手の立つ位置とか、姿勢とか、いろいろなものが気になり始めちゃう。そしたら歩くことすら難しく感じてしまうの。「パートナーとだけはなぜか真っ直ぐ歩けない」みたいな。



:良い踊りをしたい、上達したいと思ったら気になることいっぱいありますよね。



Y:私達がこだわっているのはタンゴの持つ濃密な空気感やアブラソ。「二人で一人」の体から4本足で歩いているように美しく歩くこと。これは時間をかけて真剣に作ってきた。
「タンゴとしての歩き」が決まってきたらパソはその後から派生するものなので、何か問題があればアブラソと歩きに立ち戻るようにしてる。ただここ数年はあまり深刻になりすぎないようにもしてる。



:どういうことですか?



Y:練習では険悪な雰囲気になっても、終わったら2人で美味しいもの食べる、とか。
ずっと張り詰めてたら長続きしないと思うから。気持ちの切り替え、て言ってもいいのかな。



:それはわかる気がします。



Y:あとは、相手の悪いところをすぐに指摘しないこと。相手のことがだんだん分かってくると、良い面より悪い面の方が際立っちゃうじゃない?



:分かります!良いところって抽象的だけど、悪いところは具体性があるから、簡単に指摘できちゃうんですよね。「今のリード、左手で押しすぎ」とか。



Y:そうそう。でも癖ってなかなか直らないから。プラクティカでお互いの悪い癖を指摘し合ったら、あとはなるべく言わないようにしてる。



:相手から言われたことで「いや、それは違う」って思うことないんですか?



Y:あるよ〜。お互いに「それは違う」って思ったことはちゃんと言う。だけど、意見が食い違った時に納得いくよう話し合うことはないの。一旦保留にする。




:ええっ。それで上手くいくものなんですか!?



Y:タンゴって、話し合いで解決できることって少なくない?癖も何年もかけて直している途中なのはお互いわかってるんだよね。一つの事を直すと別の問題が解決したりして常に変化してる。それに、どうにもならなくて出来あがっちゃったものが2人のスタイルになる、てケースもあるよね(笑)


(*)パレハ…スペイン語で「ペア」の意味。アルゼンチンタンゴではパートナーのことを「パレハ」と呼ぶ。
世界大会に参加したときの様子

「私」が目指すタンゴ

:これまでにタンゴお休み期間とか、なかったんですか?



Y:コロナ禍で2か月踊らなかったくらい。2か月も空けることなかったから、「踊り方忘れてないかな」って家で歩いてみたりした。
タンゴはもう生活に切り離せないものになってる。



:タンゴがプライベートとは別のカテゴリーにある、という人は結構多いんじゃないかなと思います。
「仕事」「タンゴ」「プライベート」みたいな。



Y:それ、面白い!確かに私もタンゴと仕事は別のカテゴリーだな。なんだか、仕事になっちゃうと踊りを楽しめなくなる気がして。



:趣味を仕事にしてうまくいかないケースはたくさんありますよね。 



Y:あと、タンゴの世界のミロンゲーロ/ミロンゲーラってすごく大事だと思うの。



:どういうことですか?



Y:ダンスが上手いからプロだとか、下手だからアマチュアだとか…大事なのはそこじゃなくて……
ただタンゴが好きで、タンゴの音楽と文化を愛してミロンガで踊る人もとても大事だと思う



: 熱心に続けていると、「プロですか?」「プロを目指しているんですか?」と周りの人に時々聞かれません?



Y:最近はなくなってきたけど、昔はよく聞かれて困ってた。「先生なんですか」「なんでプロにならないんですか」とかね。
私はミロンゲ―ラとして堂々と自信を持ってミロンガでタンゴを踊っていきたい



:これから先、目指す目標などはありますか?



Y: ミロンガで楽しく踊りたい。そのためのレッスンなので、ミロンガとレッスン、バランスよく行こうと思ってる。「もっと上達したい」という情熱は初心者の頃から変わってないの。これからも向上心を持ちつつタンゴを楽しみたいと思ってる。ミュージシャン、ダンサー、ミロンガのオーガナイザー、DJ等、それぞれがタンゴにかかわる中で、ミロンゲーロ(ラ)も重要な役割を占めていると思うのね。
私はミロンガっていう場所をアルゼンチンの文化としてリスペクトしているの。
アルゼンチンのミロンガでは素敵なおじいさまがドレスアップしてシャンパンを開けてカッコよく踊ってるの。タンゴに人生が乗っかっているというか人生をかけてタンゴを楽しんでる!私達はここを目指したいと思ってる。
洗練された社交場としてのミロンガを作っていくのはフロアで踊るミロンゲ―ロスだからね。

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