透明水彩の空を飛ぶ 【65】

「何かを得ればそれを使うなり取っとくなりするし、逆に何かを失えば、あぁそうなんだってあっさり割り切ってしまう。
自分が自発的に大切にしたいって思うもの以外には、執着しないし出来ないんだ。
交友関係広く見えるのだって、大体の会話は授業のことを話す程度だよ。
それ以上は何もない。
多分、裕海が思うよりも俺は中身が空っぽだ。

裕海は確かに不器用だけど、それが悪いことだとは一度も思ったことないよ。
そうやってぶつかって、悩んで、迷ってもがいてやっと答えに辿り着く様子を見てきて、あぁ、この人はきちんと何かに執着出来るんだなって、人間らしいなって、羨ましかった。
確かに要領よければ、何事も大抵は上手くいくのかもしれない。
でも、それで結局最後に残るのは空虚だけなんだ」

それを聞いて、あぁ、と思った。
きっと奏は、何かがあっても嫌でも自分で解決出来てしまう人だし、それを言うくらいなら他人の話を聞いて悩みを共有させる方を選ぶだろう。
そんなに好きじゃない自分の話を、わざわざ時間を割いてする必要はない。
自己嫌悪に陥った時、裕海も度々思うことだった。

だが奏の場合は、それをいつも抱えて、虚しさも隠して、いつもあんな風にしていたというのか。

グラスの中で溶けてゆきつつある氷が、カランと音を立てる。

「裕海や卓哉は、そんな俺の数少ない、大切にしたいって思える存在だった。
だから、こうして裕海と離れることになるの、結構寂しい」

「…………よ、」

「えっ?」

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透明水彩の空を飛ぶ【完】

「俺、ヒーローになりたい」 未来を見失った学生と人を救いたい少年の、思いが繋ぐ物語。 (全70notes/執筆期間:2016年夏~2018年初め)
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