透明水彩の空を飛ぶ 【51】

高三の六月に、高校生の全国大会の決勝戦があった。
裕海は元々大学に進学しようと思っていたので、この大会が終わったら一度ダンスを休んで、来年の冬までは受験勉強に専念する予定だった。
裕海にとっては、自分に一旦区切りをつけるための、大事な大会だった。

しかし大会の二週間ほど前から足が痛み始め、それがいつまで経っても退く気配がなかった。
裕海は自分の区切りのためにも、他のメンバーの優勝のためにも、そのことを一切口にしなかった。
態度にも出さなかった。
痛みから目を逸らし続け、練習を続けた。

その酷使が原因で、裕海は本番中、あの夢に出てきたように、激痛によって転倒してそのまま踊れなくなってしまったのだった。

踊ることはおろか最早自力で歩けない状態になってしまった裕海は、すぐに救急車で病院に運ばれた。
その後、落ち着いてから聞いた担当医の言葉を、今でも鮮明に覚えている。

『一か月程度は入院することになります。
そして……とても申し上げにくいのですが、今後ダンスをするのは不可能に近いでしょう。
かなり悪化していますし、リハビリをして歩けるようになっても、今まで通りダンスをするのは難しいです』

これまでの人生の年数の半分以上をダンスに費やしていた裕海にとっては、この言葉で殺されたも同然だった。
自分の生きる糧だったものが目の前で奪われ、ただただ呆然とするしかなかった。
暫く、何も考えたくなかった。

そしてその翌日、大会はやはりそのまま失格扱いになってしまっていたことを、自分の母親から伝えられた。
それを聞いた途端、頭の中で霧のようにかかっていた何かが、するすると姿を消していった。
それと同時に、停止していたはずの感情が一気に動き出した。
裕海は一旦彼女に席を外してもらい、ベッドの上で一人泣き喚いた。

俺のせいで。
俺のせいで、優勝はおろか、賞すら取れない結果になってしまった。
しかも最後まで踊り切れなくて、失格扱いにさせてしまった。
あのデビューの話も消えてしまうだろう。
何やってんだ。何やってんだよ、俺は。

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透明水彩の空を飛ぶ【完】

「俺、ヒーローになりたい」 未来を見失った学生と人を救いたい少年の、思いが繋ぐ物語。 (全70notes/執筆期間:2016年夏~2018年初め)
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