透明水彩の空を飛ぶ 【34】

「なぁ、裕海」

それからまた、時は経って七月に入った。
授業を終え、どこか覚束ない足取りで帰ろうとしていた裕海の肩を、引き寄せるように掴んだ人がいた。
裕海はバランスを崩しかけたが、なんとか立て直して後ろを振り向く。
するとそこには、奏がいた。

「ん? あ、奏いたのか……そういや今日午前中見なかったな、どうしたの」

「それは単なる寝坊だから気にすんな。それより裕海、この後時間あるか」

そういう奏の口調は普段通り、相手にスッと入っていく穏やかなもののはずだった。
しかし、目がそこまで笑っていないことに裕海は気づいた。
口では「時間ある?」と問いかけているが、その目は逃げることを許さない、有無を言わせないものだった。

いいから付き合え。本当はそう言っている。
これは面と向かって話している人にしか分からない。

普段は相手に無理やり干渉することのなかった奏が、何故……?

困惑している裕海に対して、奏は表情を変えることなく言葉を続けた。

「俺はお前と話したいことがある。
そしてお前も本当はそれを言いたいはずだ。違うか?」



裕海が奏に問いを投げかけたあの日、裕海は授業に出終えてから、まっすぐに暁人の病院へ向かっていた。
大学の最寄り駅に着くと、ホームは既に帰宅する学生の姿で溢れていた。次の電車を待つことも一瞬考えたが、早く暁人に会いたいという気持ちもあって、すぐに来た電車になんとか体を滑り込ませて乗り込んだ。

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透明水彩の空を飛ぶ【完】

「俺、ヒーローになりたい」 未来を見失った学生と人を救いたい少年の、思いが繋ぐ物語。 (全70notes/執筆期間:2016年夏~2018年初め)
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