透明水彩の空を飛ぶ 【57】

『あきくんのお母さん』

加奈絵がある看護師と話していたところに、美希が加奈絵の後ろの方からやってきた。
そこで思わず驚いた表情を見せてしまったのは、目の前の美希が今にも泣きそうな顔をしていたからだ。
それを堪えるかのように、小さな拳が体の横でぎゅっと強く握られていた。

『あら、美希ちゃん? どうしたの? 何か――』

『ごめんなさい』

加奈絵の「何かあったの?」という言葉は、その発言によって途中で遮られてしまった。
突然の謝罪にきょとんとしてしまい、ただ美希のことを見つめることしか出来なかった。
少しの間が空いてから、美希は声を震わせながら続きを述べた。

『ごめんなさい、あきくんが倒れたの、あたしのせいなんです』

『えっ? 何で美希ちゃんが謝るの? どういうこと?』

『あたしが別の男の子とぶつかって、転びそうになって、そしたらあきくんがっ……急いで走ってきて支えてくれて、その後すぐに倒れちゃって……っ』

その発言の途中から、美希は完全に泣き出してしまった。

あきくんが走っちゃいけないのも知ってたのに、あたしのせいで倒れさせちゃってごめんなさい。

しゃくりあげているせいで途切れ途切れになりながらも、美希は加奈絵にそう言った。
それが一番伝えたいことだった。
すると「あらまぁ……そうだったの」と、加奈絵は再び驚いた。

『美希ちゃんは悪くないのよ。これは誰も悪くない。
だから、美希ちゃんももう気にしないで?
暁人はもう落ち着いてるし、暫くすればまたいつもみたいに戻るわよ』

ぽろぽろと落ちる涙で顔がぐしゃぐしゃになってしまった美希の頭を撫でながら、加奈絵は不思議に思っていた。

どちらかというと甘えん坊で、自ら動くことなんて少なかった暁人が、自分からそんなことをするなんて、と。

暁人が目を覚ましてから加奈絵がそのことについて「どうしたの?」と訊くも、当の暁人は「分かんない、あんまり覚えてない」と白を切るだけだった。
その反応はあまりにも嘘だと見え見えなものだったのだが、その後に何度訊いても暁人の答えは全く変わる気配がなかった。
加奈絵は答えを訊くのを諦めたが、心の中ではずっと気になっていた。

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透明水彩の空を飛ぶ【完】

「俺、ヒーローになりたい」 未来を見失った学生と人を救いたい少年の、思いが繋ぐ物語。 (全70notes/執筆期間:2016年夏~2018年初め)
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