透明水彩の空を飛ぶ 【59】

それから暫く経ったある日、裕海の父親が仕事から帰宅して、家族三人で夕飯を食べていた。
全員が食べ終わり、丁度その時間に放送されているバラエティー番組を見て「やだもう、おっかしい」と、母親を中心にして両親が共に笑っている時だった。

「父さん、母さん。話があるんだ」

緊張しているせいか、落ち着いて言おうと心がけていたものの、思ったよりも声が強張ってしまった。
そんな裕海の様子を見て、母親は目をぱちくりとさせた。

「何? そんな怖い顔しちゃって。何かしたの?」

しかしそんな気楽な反応が返ってきたので少しはホッとしたものの、ここに来た今でも口に出すことには、言葉にしてしまうことには、まだ怖さがあった。
しかしそれをどうにか振り払い、重かった口をなんとか開く。

「ここ一月くらいずっと考えてたんだけど、俺――」

九月の半ばになり、二年の後期が始まった。
季節の上では秋でも、九月は最後まで暑い。
そのせいもあってか、暫くは夏休み気分が抜けない学生たちが、教室内でだるそうな様相を呈していた。

裕海は前期と変わらず大学に来ていた。
今は一日の授業を終え、校舎の一階で人を待っていた。
もう授業は終わったかな、と腕時計に目を向ける。
時計は四時十五分を指していた。

「裕海。悪い、待たせたな」

するとそのタイミングで、待ち人が現れた。
奏だった。
奏は普段から颯爽としているからか、残暑の暑さがあんまり似合わないなぁとその時裕海はふと思った。
今からその暑さの中に繰り出すなんて、なんだか嘘みたいだ。

「大丈夫、今日は俺の方がちょっと早かったんだし」

「それにしても、裕海から俺のこと誘ってくんの珍しいよな。
だからこの後雨降るかと思ったけど、見事に晴れてるな。よかったよかった」

「おい、勝手に雨降らせるなよ」

奏にツッコむ素振りをしながら、裕海は「行こう」と歩き出す。
一歩外に出ると、今まで快適な程度に冷やされていたはずの体に、瞬時に熱気がまとわりついた。
思わず顔をしかめる。

……思えば、奏と初めて話した時は、もうこんな暑さも通り過ぎてたんだなぁ。

ふとそんなことを思い返し、懐かしくなった。
しかしそれと同時に、こうして仲良くなってからまだ一年も経っていないことに驚く。
改めてそのことに気づかされ、裕海は一抹の寂しさを密かに抱いた。

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透明水彩の空を飛ぶ【完】

「俺、ヒーローになりたい」 未来を見失った学生と人を救いたい少年の、思いが繋ぐ物語。 (全70notes/執筆期間:2016年夏~2018年初め)
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