透明水彩の空を飛ぶ 【60】

その後裕海が行こうと提案したのは、前に奏がお昼を食べに連れていってくれた、あのおばあちゃんの定食屋だった。
入口を開けて中に入ると、前にも見たのと同じ笑顔で「いらっしゃいませ、お好きな所に座ってね」と、おばあちゃんが出迎えてくれる。

奏が「ここでいいか」と指したのは、前回来た時と全く同じ席だった。
時間が早いのもあってか、そんなにまだ店内に人はいないし大丈夫だろう。
裕海は頷き、荷物を置いて座った。

「まさか裕海からここ行こうって言われるとは思わなかったわ。
今日ほんとにどうした?」

「いやー……折角らしくないことするなら徹底しようかなと」

「その発言もらしくねぇな。
嘘つくのも誤魔化すのも下手なくせに」

「あはは、それはとっくに知ってる」

メニューを眺めながら、そんなことを言い合う。
また散々迷って頼む定食をやっとのことで決め、注文を聞いたおばあちゃんはそれを、厨房にいるおじいちゃんに伝えに行った。

「奏。お前に言わなきゃいけないことがあるんだ」

「やっぱりそういうことか。何だ?」

裕海が話を切り出すと、奏はそれを見透かしていたような反応をする。
やはり「ほんとにどうした?」と言いながらも、心の奥底で話があることは既に察していたのだろう。

しかしこの後に言うことに対して、彼はどう反応するだろうか。
いつものように微笑を浮かべている奏に、裕海は言った。

「俺、この大学辞めることにした」

この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?気軽にクリエイターを支援できます。

透明水彩の空を飛ぶ【完】

「俺、ヒーローになりたい」 未来を見失った学生と人を救いたい少年の、思いが繋ぐ物語。 (全70notes/執筆期間:2016年夏~2018年初め)
コメントを投稿するには、 ログイン または 会員登録 をする必要があります。