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【後編】令和のキャリア教育、カギは“子どもの体験を言葉にすること”ー親ができるサポートは?ー

atama+ 教育コラムとは
atama plusは教育を通じて社会を変え、自分の人生を生きる人を増やすことを目指しています。このコラムでは、子どもたちが「社会でいきる力」を伸ばすために役立つ情報を、さまざまな観点からお届けします。

子どもの“好き”は尊重してあげたいと思う一方で、学校の勉強は大切ですよね。でも、例えばお子さんに「私はミュージシャンになりたいのに、なんで算数を勉強しなきゃいけないの?」と聞かれたらどうしたらいいのでしょうか?
子どもたちの“生き方”を考える「キャリア教育」の専門家で、法政大学キャリアデザイン学部教授の児美川 孝一郎(こみかわ・こういちろう)先生に、前回に引き続きお話を聞いていきます。

「勉強する意味って何?」子どもの疑問への答え

ーいきなりですが冒頭の質問、どう答えるのがいいでしょう?
児美川孝一郎教授(以下、児美川):勉強とキャリアの関係を考える、良い機会ですね。ぜひ「あなたのやりたい仕事って、どんな風に成り立ってると思う?」と聞いてみてください。
ミュージシャンなら歌う・楽曲を作る以外にも、周りで沢山の仕事をしてる人たちがいますよね。どんな仕事も色んな人やモノに支えられ、つながりの中で成立していることを伝えてください。
その上で「たくさんのお金も動く中で、出ていくお金と入ってくるお金のバランスのこともわからなかったら、困ると思わない?」などと話してあげたら、算数がなぜ必要かを考えるきっかけにもなるのではないでしょうか。

ー算数が必要ないと思うのは、興味のある仕事の一部分しか見えていないからなんですね。
児美川:ふだん自分に見えているところだけじゃなく、その背後にあるつながりの中で、仕事も世の中も成り立っています。学校の勉強の役立ち感というのは、その場ではなかなか感じにくいものですが、今見えていないどこかですごく必要になるかもしれない。そんなことを親子で話せるといいですね。

子どもが自分から勉強してくれる仕組みづくりとは?

ーできたら子どもに「勉強しなさい」と言わずに済むと助かるんですが、自分から主体的に勉強してもらう方法ってあるんでしょうか?
児美川:やはり日常的な習慣づけですね。最初は大変ですが、習慣さえ作ってしまえば、そんなに無理や我慢をしなくてもできるという段階がやがて来ます。
はじめは「夕飯の前に宿題を済ませてしまえば、夕飯後は自由に過ごせるね」などと親が上手に枠組みを作ってあげて、しばらくは机の横に一緒にいてあげてもいいと思います。毎日そうするうちに一人でも自然に座るようになり、「ちょっとやってみようか」という意欲やチャレンジ心が生まれてくれたら御の字ですね。
それに、変化の激しいこの世の中です。今の時点で夢を職業レベルに落とし込んだとしても、将来その職業がどうなっているかわかりませんよね。

ーまずは小さいことから始めてみる、というのがポイントなんですね。
児美川:あとはなるべく早いうちに、というのも重要です。小学校1、2年生のうちから自然にやっておくとすんなりいきやすいのですが、大きくなるほど自我が発達して自分なりの考えが出てくるので、だんだん難しくなってきます。

子どもの体験は「言葉にする」ことで自分の中に定着する

ー前回、「キャリア教育とは、子どもたちが“生き方”を考え、それを実現するための力をつける教育」だと伺いました。親は、どんなサポートができますか?
児美川:子どもが新しい体験や挑戦をして「意外と楽しかった」「自分に向いてるかも」と心が動いている時にぜひ、体験を“言語化する”お手伝いをしてあげてください。
その気持ちが記憶から抜けてしまう前に「言葉」にしておくと、体験からの“学び”が自分の中にしっかり定着し、次の学びへとつながってくれるんです。

ー小学生くらいの場合、どういう風に言語化したら良いでしょうか?
児美川:まずは「何があったの?」「その時どう思った?」と素直な気持ちを引き出してあげます。低学年の子なら、聞きながら少し言葉を補ってあげても構いません。
自分で説明できる年齢の場合は、子どもの話を聞いた上で「初めて挑戦したから、ワクワクしたんだね」「そこでやる気が出たんだね」のように言葉付けをしてあげると良いでしょう。
親も一緒になって言語化することで、さらに子どもの中に残りやすくなるんですよ。

チャレンジする勇気、失敗しても立ち直れる力を身につけて

ー先が読めない、不確実な世の中と言われている現代で、子どもたちに必要な力はどんなものですか?
児美川:失敗や間違いを恐れずに挑戦する力ですね。人間、時には背伸びもしてチャレンジしないと経験値が上がらず、なかなか力もつきません。もちろん全部が成功するとは限らないけれど、うまくいかなくてももう一度起き上がる、という経験も大切です。
昨今、挑戦を避ける若者が増えていると感じるんです。きっともっと伸びる可能性を持っているのに、それではもったいないなと。

ーそんな傾向には、親の影響もあるのでしょうか?
児美川:親だけに限りませんが、小さい頃から大人が先回りして「無理だからやめときなさい」「こっちにしなさい」と失敗や冒険を避けすぎるのは、せっかくの挑戦への意欲と成長のチャンスを奪うことになると思っています。
特別な働きかけはしなくてもいいから、子どもが「これをやってみたい」と合図を出した時に、その芽を摘まないことが大切。どんな子も持っている好奇心を、ちゃんと伸ばしてあげたいですよね。


【児美川 孝一郎(こみかわ・こういちろう)教授】
法政大学キャリアデザイン学部教授。専門はキャリア教育。東京大学大学院教育学研究科博士課程を経て、1996年から法政大学に勤務し、2007年から現職。日本教育学会理事、日本教育政策学会理事。主な著書に、『キャリア教育のウソ』(ちくまプリマー新書)等がある。

 

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