頑張れ俺キャンペーンは終わらない

伝染るんです。 吉田戦車

 敬意逓減の法則である。やたら多い人称代名詞もくどすぎる謙譲表現も、特別であるために生まれ、その良さから広く膾炙し、一般化したことで陳腐化し、やがて更なる良さを求めて新たな特別が生み出される。今や数百円の新作フラペチーノでさえ「神!」と叫ばれたりする。神て。

 鏡の国のアリスでのアリスと赤の女王の有名なやり取りである。

"Well, in our country," said Alice, still panting a little, "you'd generally get to somewhere else—if you run very fast for a long time, as we've been doing."

"A slow sort of country!" said the Queen. "Now, here, you see, it takes all the running you can do, to keep in the same place. If you want to get somewhere else, you must run at least twice as fast as that!"

鏡の国のアリス/ルイス・キャロル

 私達の国では一生懸命走れば最悪でもどこかには着く。なんとのろまな国でしょう。この国ではその場に留まるだけでも全力で走らなければならない。どこかに辿り着きたければ少なくとも2倍速く。

 あまり連発するとよさが薄れるからな…は延命でしかない。結局は新たな良さが必要になる。そうやって代謝のように日々は続くのだ。進化生物学に於ける赤の女王仮説や福岡伸一が提唱した生命の定義としての動的平衡がまさにそれだろう。

 怠惰を求めて勤勉に行きつく。ググると某漫画が出典として扱われているが、僕の記憶だと南伸坊の言葉だったように思う。

 良さは発明され続けなければならない。停滞は死だ。実に忌々しいことに頑張れ俺キャンペーンは終わらないのである。

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