ICE BAHN: 3MCの不変の初期衝動
神奈川のヒップホップcrew・ICE BAHNについて、どこがどのように好きかを書きました。タイトルの通り奉行さんの話はあまり書いていませんが(すみません)、のちのち痛いラブレターばりにかぶれたディスクレビューで書きたいと思います。
本稿は1万6千字ある長文のため、千字の要約版も作成しました。タイパ重視の方はこちら↓
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◆ラップに耳を向けさせる
筆者は元々、ヒップホップを音楽の一つのジャンルとして聴いていた。これまで、その魅力は腹の底から痺れるビートと、ループすることで増幅されていく高揚感、踊れなくても心が躍りだすような音の楽しさにあると思っていた。
が、ICE BAHNを知る機会があり、何となく1週間以上頭から離れなかったためとりあえずCDを1枚買ってみたところ、やはりその後もずっと頭から離れなかった。
そしてふと、ビートやメロディーではなく、自分が「ラップを追いかけて聴いている」ことに気付いた。「ラップを聴く」という聴き方をしたのは初めてだった。ラップというか、言葉を追いかけて聴いていた。それは今までの音楽体験とは全く性質の異なるものだった。
言葉の力で、強制的に耳を向けさせられた。聴けば聴くほど、この人たち異常に言葉にこだわってるな?というのが分かっていった。何回繰り返し聴いても驚きと発見があった。
ヒップホップ・ラップの音楽的なカッコ良さと、言葉で殴られるような衝撃。そしてB-Boyイズムが、高い次元で同居していた。
4thアルバムの表題曲でこう歌われているように、ICE BAHNのラップは耳にこびり付いて取れない。
オシャレではない。逆に泥臭い。飾り立てていない。至ってシンプル。カッコいい言葉は使っていない。だがそれがカッコ良く聴こえる。最初は何故だか分からなかった。今なら分かる。
やはりそれは、徹底的なライムへのこだわりに起因する。
◆RHYME至上主義
ICE BAHNが「RHYME至上主義」を掲げ、「ライムセーバー」(韻の守り人)を名乗っていることはヘッズにはお馴染みだろう。
前述したRHYME GUARDの「武器は一つだけどれにする」の「武器」が何か。ICE BAHNの場合、考えるまでもない。ライムだ。
2018年4月のAbema「水曜The NIGHT」で、R指定さんが、ICE BAHNにとって韻は「恋人」だと分析していた。
(※ちなみに「あんた"韻(あのこ)"のなんなのさ!? ラッパーと韻との関係性について考える」という企画。Rさんによると、宇多丸さんとLITTLEさんにとって韻は友達、ヒダさんとKREVAさんにとっては下僕、RIP SLYMEにとっては韻は踏んでも踏まなくてもいいセフレ。流石、面白い捉え方!)
確かに「愛しのライムちゃん」という曲もあるほど、肌身離さない、愛してやまない存在だと思う。
どれだけ韻にこだわっているかは、初期の代表曲である「越冬」(1stアルバム収録)が分かりやすい。私が解説するのは野暮なので、FORKさん本人がリリックを解説するこの動画を見てほしい。
◆言葉への異常なこだわり
と本人が言うように、ICE BAHNは何か言いたくてラップしているのではない。心の中の葛藤を言語化したいとか、世間にこんなメッセージを発したいとか、何かを感じた時に歌詞が浮かんで止まらないから歌にしたとか、そういうのはない(と思う)。ラップしたいからラップしている。こんなに純粋な動機は他にない。もっといえば、韻が踏みたい、ライミングしたいという不変の初期衝動で、20年以上ずっと変わらずに言葉を紡いでいる。
(※ライムガードは、リリックの隅々にICE BAHNの哲学が詰まっている。ハートかっぱらわれすぎて、一つ一つの半端ない韻にアンダーライン引きながら歌詞カード読んでいる聖典レベルの曲。3人のラップのスタイルの違いも分かりやすく出ているから、これが、これこそがICE BAHNだ!と名刺がわりに自信を持って差し出せる。ビートもタイトでカッコいい。聴いてください。)
ラップしたい、ライミングしたいから入った3人がリリックを書くと、何が起きるか。一言一句に異常にこだわっている。一つ一つの言葉選びが、練りに練られている。3人とも、単なる言葉遊びにとどまらない。文脈にも音にも、気持ちのいい場所にバシッとキマっている。音楽は詞meets音なので、耳心地の良さ、流れていく気持ち良さが普通はあるけど、ICE BAHNの言葉は流レテ行カズ、耳と脳内に居座ってくる。ほとんどがパンチラインと言えるからだ。
言葉使いへのこだわりはFORKさんがとりわけ顕著で、話す時でさえ「韻」と「ライム」を使い分けている。
韻は英語でrhymeだから、普通は使い分けない。これは、言葉と真摯に向き合っている姿勢と、研ぎ澄まされた感性の表れだろう。(ただライム至上主義とRHYME至上主義どっちも使っているように、活字の表記にはそんなこだわっていない印象を受ける。口から出る言葉として捉えているからでは?)
◆無駄なくシンプル
韻を踏んでリズムをつくる、ということが第一に来るから、リリックを追いかけて聴いたとき、無駄なところがほとんどない。
例えば「マイク」を「マイクロフォン」とか「エムアイシー」にして言っているのを聴いたとき、マイクに比べエムアイシーは日常会話で使わない上に長い言葉だから、耳が躓く思いがする。ICE BAHNはそういうのはほとんどなくて、マイカフォンとかエムアイシーとかの言葉を選んでいる時は、概ね韻を重ねている時だ。意図が不明瞭で、効果がないと感じる言葉はほとんどリリックに登場しない。一文字も無駄にしたくないという執念を感じる。(FORKさんは2017年以降フリースタイルでもそのレベルで言葉を選んでいる)
使っている言葉も、飾り立てられておらず、日常生活で使うシンプルなものだけ。スカした言い方だなとか、飾りが気になって中身が入ってこない、ということがない。「どういう意味かな?」と受け手が考えてしまうような抽象的な表現もほとんどない。ワードチョイスや表現自体に耳が躓かないから、言葉の使い方・ライミングの面白さの方に耳が向き、そこで脳みそを揺らされる。削ぎ落としているから、韻が際立つ。
◇LEGACY
例として、代表曲「LEGACY」のFORKさんのバースを聴いてほしい。
2018年11月発売の5thアルバムの表題曲。4thアルバムが2013年7月発売だからかなり期間が空いていた。FORKさんは2017年1月からフリースタイルダンジョンに出演。オファーを受けた時のことを、こう振り返っている。
「実行しなきゃただの幻想だ 満を持してこの盤プレスオーダー」は、まさにその当時の状況を言い表している。ダンジョンで相手にあれこれ言ってることを、音源で証明してやるよということ。「試そう感想が『あっそう』なのか『so good』で本物で強運かどうか」の部分はラップの仕方で印象的なリズムをつくった上で、韻を重ねることで効果を増幅させている。一か八かが続くバトルに出ていて、全国の視聴者とも勝負していたから自然に出たラインなのでは。「発想の根本は興奮がコア 梱包し発送してオープンザドア いらっしゃい 取り出すと回転 未だオリジナルライム正規取扱店 」は良いライムが浮かんだ時の興奮を初期衝動とする制作姿勢を、一言で表している。リスナーの手元にCDが届き円盤が回るまでの様子を描写しているので、FORKさん自身リリースを楽しみにしていたのだろう。「未だ」が付いているのは、2006年6月発売のep「JACK HAMMER」収録の「ICE BAHN PACK」という曲に「とりあえず開店 こちらオリジナルライム正規取扱店」というリリックがあるから、当時と未だ変わらずやっているという意味だと思う。20年選手が久々出したアルバムでも未だ変わらずってのもある。
と、使っている言葉がシンプルだから一言一言スーッと躓かずに言いたいことが入ってくる。意味が取りづらいところは無いと思う。意図が分からないままフワッと着地させる言葉がなく、「まさに地に足付けた表現の証明」(戦場のリアリストⅡ)。その上で、細かく踏まれた韻と「根本」と「梱包」、「発想」と「発送」の二重の子音踏み、「興奮がコア」と「オープンザドア」の長めの韻が気持ち良すぎて耳に残るため、もう一回再生ボタンを押しちゃうし、心からずっと離れない。「点を線にアテンドする伝統芸能」(Chotto Hiphop)と自称する通り、韻と韻を繋いで文章を組み立てる上では人間国宝。国家予算越える格好良さ。
LEGACYは威風堂々としたサウンドと曲のテーマ、ICE BAHNの積み上げてきた歴史が全てマッチした名曲。FORKさんが背負う入場曲にも相応しい。一番好きなのはフックのリリックだが、他の部分も全部好き。これぞクラシック。
◆汚い方がこびり付く
筆者は舐達麻の「FEEL OR BEEF」という曲を、昨年5本の指に入るくらい多く聴いた。その良さは、サグが紡ぐ文学的なリリックにある。ICE BAHNとは真逆の存在だと思う。例えば「Nothern Blueが覆った心の雲が灰色のまま」。ノーザンブルー…北の青?心の雲はモヤモヤした気持ちで、灰色ってことは泣きそうに悲しい?ノーザンブルーは調べたところ、サグラップによく出てくる植物を示すらしい。それなら雲はモクモクしたsmokingの情景とも重ねているかも…と、想像する余白が多い。現実を抜け出してリリックの世界に飛び込み、そこに浸りながら聴く楽しみがある。トリップさせてくるのは、ノーザンブルーも心の雲も日常会話で使うものではなく、言葉自体が詩的だからだ。
他方ICE BAHNは抒情的表現は多くなく、曖昧さを残さない。表現が現実と地続き。普段使う言葉で話すようでいて、その話し方が落語家のように小気味良く気持ち良い。受け手にストレートに伝わる言葉を使うのは、他の2MCをロックするために書いているからだろう。自分のリリックを受け取る一人目のリスナーが念頭にあるから、独りよがりな言葉にならない。一人目のリスナーは相当耳の肥えた人だから、少しカッコ付けるとすぐバレる。フワッとした表現だと通じない。まさに「互いの反応が判断材料」(LOYALTY)
また、ICE BAHNは「カッコいい」と思わせるために、言葉そのもののカッコ良さは利用していない。ワードチョイスはハレ(晴、特別)とケ(褻、日常)なら絶対ケだ。
言葉そのもののカッコ良さを例示すると、前述の舐達麻の歌詞もそうだし、こちらも大好きなBAD HOPの「Champion Road」の「時計の中と頭には王冠」とかだろうか。時計の中の王冠=高級腕時計ロレックスを指し、川崎からの成り上がりを示す。高級腕時計も頭の王冠もカッコいいニュアンスが既に内包されているし、煌びやかにハレ。生き様にも合っており、キャラクターにハマっているから刺さる。
他方ICE BAHNは、逆にカッコ良くない言葉をカッコ良く聴かせることを目指している。ライムガードのフックの通り、汚い方がこびり付くというスタンス。
これらはFORKさんのリリックだけど、KITさんもライムガードのDVDで、自分史上最高の韻は?という問いに「チョンマゲがボンバーイエー」(「ベストマイクロフォニスト賞」)と答えていたから、3人ともダサいがヤバいで本望なんじゃないかな。玉露さんが究極のダサカッコ良いを目指しているであろうことは言わずもがな。
筆者はFORKさんのリリックで一番「衝突」が好きだが、2番目は「満員 興奮 安心 恐怖 最新 古風 斬新 DOPE 杏仁豆腐 換金 強運 負けを覚悟したファイティングポーズ」(I LIKE IT)かもしれない。しかもこの中で、とりわけ杏仁豆腐がたまらん。最初からコレ杏仁豆腐で踏めるな…と思っていた耳にズバリ唐突に杏仁豆腐が来るところ、抜け感になっていてくらった。衝突の「岡本さん」というワードチョイス同様、少しの違和感が余韻として残るのもいい。(モットーさ、と岡本さん、で踏んでいるのは分かるが、岡本太郎のことは普通岡本太郎って呼ぶし、歌詞でさん付けは普通しないから、遊び心で違和感をわざと残したのだろう)
◆要は使い方、その味が美味いかだ
言葉自体がシンプル、かつカッコ良い言葉も使わない代わりに、その使い方・ライミングで刺してくる。
言葉の使い方とは、例えば韻を重ねることによるグルーヴと高揚感。こんなに韻続くことあるの、という興奮や、語感の気持ち良さ。そして韻自体の新鮮さによる驚き。聞き慣れた言葉で、初めて聴く踏み方を鮮やかにしてくることの衝撃。ほぼ踏むか、韻を際立てるために入っている言葉だから、一つ一つに企みがあるし、他と言い換えられるなと感じる言葉がほとんど入っていない。文脈的にも無駄がない。適切な言葉が、適切な位置に鎮座している。使っている言葉自体は美しくなくとも、あるべき場所に在るその様は美しい。無駄を削る美学は川柳・短歌に近いが、そこに音楽的魅力とB-Boyイズム、韻の面白さが載るから、やはり他では代用できない日本語ラップ独自の魅力を感じる。
RHYME至上主義は、ただ数を踏むだけではない。韻を踏むのが上手いMCは他にもいる。要は使い方だ。その点において他の追随を許さない。「突き詰めた先の隙間に埋まる気付きを見つけなきゃ未熟過ぎる」(戦場のリアリストⅡ)の歌詞の通り、言葉の使い方が相当突き詰められている。後で隠れたライムにニヤつくことも多い。
◆ブレない
ICE BAHNは、20年以上前の映像を見ても曲を聴いても、ほとんど印象が変わらない。
悪い意味ではない。軸がブレていないということ。ICE BAHNの軸が何か。RHYME至上主義とcrew愛だ。
韻と同じくらい"固い"絆で結ばれているのがICE BAHNが特別たる所以だ。
私も相当ICE BAHNのことが好きだが、玉露さんはもっとずっとICE BAHNのことが好きだろう。
crewの絆については、「姓はICE BAHN」とは何か、というnoteに詳しく書いた。
▶︎noteはこちらから
合わせて、オリジナリティもブレない。古い音源・映像をあさっても、最初からほぼ完成形。その持って生まれたオリジナリティを、自分の長所を、よくここまで理解し引き出しているなあと感じる。唯一のゴールはオリジナリティ。
リアリティとは、誰の口で何を言うかということ。(なので後述するヒプマイだと、FORKさんらしさよりサマトキらしさが出ている。)ICE BAHNに筋の通っていない人間はいない。人間性もラップに滲み出ている。だからカッコつけていないけど、素でカッコいい。
◆玉露さん
ICE BAHNに関する記述で、「FORKを擁するICE BAHN」「FORK率いるICE BAHN」などの表現をたまに見かけるが、FORKが所属するICE BAHN、くらいが妥当だと思う。ICE BAHNのリーダーは玉露さんだから。FORKさんのインタビューを見ると玉露さんへのリスペクトがとても強いし、やっぱりICE BAHNは玉露さんのチームだなという感じがする。
◇キャラクター
玉露さんは、MCネームの時点で方向性が固まっている。由来を聞けば頷く。
カッコ悪いをカッコ良く。
実際今に至るまで、その独特の声と独特のキャラクター、独特のリリック、独特のワードセンス、独特のリズムの取り方が全て「玉露」って印象なのがすごい。
ブンバボンはNHKの子ども向け番組に出てくる曲名。普段リリックでまず見ないであろう言葉をヒップホップとして成立させるのは、玉露さんのキャラクターあってこそだと思う。
ジャパネット高田も通話料無料も、玉露さんの生み出す独特のサウンドに生かされ、結局カッコいい。なんだかんだカッコいい。
◇子音踏み
どの曲を聴いても明らかなんだけど、玉露さんが一番口に出した時の語感、音としての言葉の気持ち良さにこだわっている。子音に異常にこだわっている。
最初に音で聴いて、次に歌詞カード見て「ここ、こう言ってたの?」と気付くとき。歌詞カードを見てふむふむと思っていても、音源で言葉を音として聴いたとき。瞬間、脳汁ブワッと出る感じ、開眼させられる感じこそ、玉露さんの魅力だ。
玉露さんは長文のサンプルが多いから書き癖が大体分かるんだけど、リリックで分かりやすいのはこれ。
↑歌詞カードはコレなんだけど、「俺らだけだもの(カーッ、ぺッ)」という音が入っていてそこでも韻を踏んでおり、スイヤセンは「サーセン」で発音しているからそこでも韻を踏んでいる。発音通りサーセンと書いても別に良いと思うんだけど、意識的に書かないところに玉露さんの遊び心を感じる。「韻トロデュース」で「性は愛す晩」と字を当てるなど、歌詞カードを見たときに一番驚きと発見があるのが玉露さんのリリックだ。
声を聞かずとも、歌詞カードに名前が書いていなくとも、言葉を追うだけで玉露さんのリリックだと分かる。それほど強烈なオリジナリティがある。
◇玉露さんで好きな歌詞
とりわけ「戦場のリアリストⅡ」、こんなノリ方できるの玉露さんだけ。
◆KITさん
まず言いたい。KIDじゃなくKIT。
玉露さんと地元が一緒で高校も同じ相方がKITさん。二浪したKITさんとFORKさんが同じ大学なので、FORKさんだけ2歳下の末っ子。ICE BAHNは2001年結成だけど、奉行さんは2012年加入なのでちょっと後。そのため玉露・KIT・FORK・奉行の順がしっくり来る(と思ってホームページ見たらGFKBの順で載っていた)。
◇ライムとはリズム
KITさんの魅力は公式ホームページのプロフィール欄で全部説明されている。
一言一句、全面同意。
これ以上言うことないな。聴けば分かる。
特徴が如実に表れているのがこの曲。
この韻によるリズムの取り方、「俺にとってライムとはリズム」(「月刊ラップpresents RAP!!」vol.2 2008年冬号)と話していた通り。
◇優しさ
KITさんの人柄がよく表れていると感じたのは、「ダサいブーンバップとカッコいいブーンバップの違いについて何か思うことは?」という問いに対するこの答え。
私なら、この質問されたら「こういうのは好き、こういうのは嫌い」と単に二極化して答えてしまう。音楽を聴いていて、これはダサいなとかも普通に思う。だから「ダサい曲ってのはあんまりないんじゃないかな」という視点には驚いた。考え方が優しい。しかもこれカッコ付けた名言じゃなく、サラッとさも普通のことかのように言っているのがカッコ良すぎる。
BALA君が昨年10月にKoK予選主催した時のツイートで
と書いていた。公式ホームページのプロフィール欄にある「先輩後輩問わず信頼され現場での人望は業界随一」という言葉にも頷ける。(ちなみにBALA君も素直な言葉を使う清々しいMC)
「SATISFACTION」「本音と建前」という、ICE BAHNの二大・すごくびろうな曲がある。その中で、KITさんだけ「フレッシュジュ一スまるでグレープフルーツみたく 甘酸っぱい禁断のプレイ中」「まるでステンドグラスみたい超色鮮やかなー夜のパラダイス」「Oh!パープルピンク!」とか詩的な表現入れてくるのも、女性ファンの立場から言えば好感が持てる。(その逆をいくのが玉露さんとFORKさん)
◇KITさんで好きな歌詞
◆FORKさん
FORKさんについては、いろんな人が解説しているから私の素人解説よりもそちらを見てほしい。
全面同意!
個人的に一つ好きな部分を挙げると、ライムガードDVDの「踏みたくないと思ったことは?」とのインタビューで、韻踏合組合の4MCと玉露さんKITさんの全員が「無い」って答えてたのに対し、FORKさんだけ「あるね。やっぱ制作とかで詰まってきたりするから、どうしても」と答えていたところ。FORKさんはフリースタイルを見て分かる通り、どんな韻でも即興で無限に踏める。しかもサラッとやっても最高にカッコいい。それで詰まるって、どれだけリリックの韻に真摯で几帳面か分かる。FORKさんの理想は、リスナーの想像の遥か上にあるのだと思う。
突き詰めた制作姿勢が窺えるリリックがこれ。
「音楽は国境を越える」という意味の言葉はバトルでも歌詞でも手垢が付いている。けど▷世界▷国際的▷国内外▷国や人種を越え▷グローバル▷インターナショナル…とか、もっと直接的なワードチョイスで歌われることが多い(それ自体は否定しない。言葉は文脈が大事なので、誰がどこでどんな思い込めて言うかによって胸を打つ)。「人の感性は陸続き」という表現は普通出ないから、舌を巻いた。
昔からよく歌われる普遍的なことが新鮮な感動を伴って響くのは、FORKさんが人の言葉を借りず、自らたどり着いた言葉で表現しているからだ。逆に言えば借り物の言葉は軽薄さが出るし、カッコいいことを言おうといういやらしさが透けて見える。カッコいいことを言おうとして言っている人と、本当にかっこいい人の言葉は別であり、FORKさんは間違いなく後者だ。
FORKさんは、リリックを聴いても、インタビューを見ても、バラエティ番組のコメントを見ても、SNSを見ても、受け取る印象はいつも同じ。演出が入らず、スマートでシンプルだが、いつも心の中と言葉が一致していて、余計なことは言わない。言行も一致している。
心・言葉・行動全てが一致して、身の丈にあった言葉で話しているからリアルで刺さる。身の丈に合ったことしか言わないけど、その身の丈がデカすぎる。本を沢山読んで語彙力が豊富とか、教養があり知性がにじむというタイプではない(と思う)。あくまで自分の中にある言葉を使うが、その使い方が真摯だから胸を打つ。
それでいて「理屈抜き」と「陸続き」で韻固いんだから、誰も勝てない。ひれ伏すしかない。
※「②フリースタイル日本統一#13(2023/01/09)」という記事にもFORKさんのことを書きました(約6千字)。
▶︎こちらからどうぞ
◆Next Stage
3MCの個性を一番実感したのは、実はICE BAHNの曲ではなく、歌詞提供で参加したヒプマイ(=ヒプノシスマイク、キャラクターがラップするコンテンツ)。
この曲の初公開は、アニメ2期(2023/10/14)のED。ヨコハマのキャラが主役の回だったため、もしかしたら…と期待してリアタイしたところ、予想的中!ICE BAHN作詞曲だった。
リアタイした時は、作詞者のクレジットが出るのは結構後。一人目のサマトキ(FORKさん)までは「え、え?まさか?」て感じだったけど、二人目のジュートで確信。クレジットが出る前に分かった。
「けりつく屁理屈にも笑み作る 目にもん見せたがmany many many more」
この踏み方は玉露さん以外有り得ないからだ。
キャラを演じる声優さんは、玉露さんとは全く異なる声質(高めでキリッとしている)。それなのに隠せない玉露さんらしさ。本人がラップしていなくても分かるというのは、オリジナリティの極地。本人が歌わないことで、逆に個性が浮き彫りとなった。(ICE BAHNヘッズだからこう書きましたが、普通に聴いたらジュートのラップにしか聴こえないです、もちろん!)
KITさんも、ワイルドな歌心あるフローだから分かりやすい。もう一曲のHUNTING CHARMの方が分かりやすいな。
FORKさんはFORKさんよりも、サマトキ(キャラ)に聴こえる(コンテンツの趣旨はそれ)。そこで考えたんだけど、FORKさんのリリックが一番メッセージや文脈を大事にしているから、人柄や生き様の成分が強いのかなと思った。
ネクステのサマトキがFORKさんだと断定できる理由も、一応ある。それは、サマトキがバースに入る前に言う「yeah」。近作である街の鼓動・JAH・衝突・マイク廻師のいずれもFORKさんは「yeah」って言って自分のバースに入っているから、あれは絶対FORKさんが仮歌に入れていたと思う。愛すべきチャームポイント。
◆BEAT奉行さん
奉行さんの話が全然出てこなかったので、最後に動画を貼ります(すみません…)
◆おまけ:愛す晩
筆名の【あたらよ(可惜夜、惜夜)】は「明けてしまうのが惜しい、すばらしい夜」という意味の言葉。ICE BAHNのファンアカウントとして作ったから、「愛す晩」ということ。また、「新しい朝が来た 希望の朝だ」とよく言われるが、クラブ文化において夜は明けてほしくないものなのかな、という気がした。
ICE BAHNをきっかけにヒップホップおよび日本語ラップをいろいろ聴くようになった。日本語ラップ自体あまり聴いてこなかったから、聴くべき作品が多すぎて時間が足りない。
ICE BAHNは2001年結成だから、その歴史を辿っていくと、意図せずとも日本語ラップの歴史を紐解いていくことになる。音源は客演が多いから自然と他のMCの曲を聴くことになるし、映像を見たいと思うとMCバトルをいろいろ見ることになるから自然と他のMCのことも、バトルで使われているビートの曲も調べることになる。なんならサンプリングされたリリックとかも多いので、ヒップホップはdigり甲斐がある。奥が深い。
ICE BAHNに関しては、とりあえず入手可能な音源と映像とインタビューは全部履修しようと思った。だが、ウィキペディアに載らねぇ1ぺージが重なりすぎていて、「全部ってどれ?」かが分からなかった。
アルバムを揃えた後に気付いたが、客演楽曲が沢山沢山ありすぎる。なんならフリースタイルも全部かっこいい。が、ホームページとwikiを見ても載っていない曲が結構あることに気付いた。「全部聴きたいけど、全部ってどれ?」
MCバトルについては、とりあえずwikiを見て3on3 2005→UMB2006→KoK2021→ダンジョンの順で見た。インタビューなどを読むと、「UMB2006からダンジョンまではバトル出ない期間があって…」と話していたから、じゃあ大体全部見たかな〜と思っていたら、違った。YouTubeとかでポロポロと知らないバトルが出てくる出てくる。なんならダンジョン前も全部かっこいい。「全部見たいけど、全部ってどれ?」
ICE BAHNは多分、10年後、20年後にいきなりドハマりして研究するヘッズが出てくるcrewだと思う。今回、20年分の歴史を紐解くのでも割と難儀したので、10年後だともっと苦労すると思う。なので、一覧になってたら便利だな〜とかコレ最初に知りたかったな〜と思う部分を、未来のヘッズのために記事化した。
日本語ラップの良い部分は、歴史の偉人たちがまだほぼ現役なこと。今からハマっても、皆会いに行けるリビングレジェンド。ロックだとこうはいかない。もっと早くハマっていたらなあとか、KoK2021会場で見たかったなあという気持ちはあるが、そもそもICE BAHNがこのように長きに渡り活動を続けていなければライブを目にすることもなく、新曲のリリースに喜ぶ機会もないところだった。
20年分いろいろdigってみたところで、最初に好きになったICE BAHNが結局一番カッコいいという結論に達した。FORKさんがUMB2006とKoK2021を獲って証明したように、どの時代でもICE BAHNが一番カッコいい。私の日本語ラップの扉は、ICE BAHNでしか開かなかったということだろう。
何年も前に吐いた言葉に、私は今感動している。続ける事こそ勝負?その勝負の舞台に立っていただきありがとうございます。
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