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【文部科学省生成AIガイドライン】Chat GPTを使った算数の授業実践〜暗号クイズ編〜


1. 実践をやろうと思ったきっかけ

 文部科学省は最近、小中高校向けに生成AIの利用に関する暫定的なガイドラインを公表しました。このガイドラインでは、生成AIの利用は「限定的な利用から始めることが適切」との立場を取り、教育現場における利用の基本的な考え方を提供しています​。私自身、小学校の先生として、教育の場面でAIの可能性を追求してきました。そんな中、算数の「整数」の単元で学ぶ”最大公約数”が、実はRSA暗号の仕組みに深く関わっていることを知り、この授業を企画することにしました。

以下、RSA暗号と最大公約数に関するChat GPTの回答


RSA暗号は、インターネット上でメッセージを安全に送信するためのアルゴリズムです。この暗号化のプロセスでは、最大公約数(Greatest Common Divisor、GCD)の概念が重要な役割を果たします。以下に、RSA暗号と最大公約数の関係を簡単に説明します。小学生にもわかりやすく説明するために、いくつかの簡単な言葉と例を使用します。

  1. 大きな数の選択:
    RSA暗号化では、最初に2つの大きな素数(たとえば、7と11)を選びます。そして、これらの数を掛け合わせて、新しい大きな数(たとえば、77)を作ります。

  2. 最大公約数のチェック:
    次に、特定の数(通常は65537や3など)を選び、この数と新しい大きな数の最大公約数が1であることを確認します。この特定の数は、公開鍵の一部として使用されます。

  3. 鍵の作成:
    最大公約数が1であることを確認することで、安全な公開鍵と秘密鍵を作成することができます。これにより、他の人があなたに安全にメッセージを送信できるようになります。

  4. 安全性の確保:
    RSA暗号化の安全性は、最大公約数を計算するのは簡単だけど、大きな数を素因数分解するのは非常に難しい、という事実に基づいています。もし最大公約数が1でなければ、攻撃者は公開鍵を壊すことができる素数を見つけることができ、それにより暗号化を解除することができます。

たとえば、公開鍵が77で、特定の数が3の場合、最大公約数は1です。しかし、もし公開鍵が80の場合、最大公約数は3になり、これは安全でないことを示します。だから、最大公約数を使って、安全な鍵を作ることができます。

このように、RSA暗号と最大公約数は密接に関連しており、メッセージの安全な送信と受信を可能にします。最大公約数は、安全な鍵を作成する際に重要な役割を果たし、暗号化をより安全にするのに役立ちます。


 高尚なように聞こえますが、実際のところはこの動画を見たからです。なんとなく「RSA暗号って最大公約数と関係がありそうだな」と思い調べたんですね。面白いですよね。QuizKnock

2. 授業のねらい

 生成AIは驚くべき進歩を遂げてきましたが、完璧ではありません。その一つの課題が、AIの「ハルシネーション」と呼ばれる現象です。これは、AIが情報を捻じ曲げたり、存在しない事実やデータを生成してしまうことを指します。例えば、具体的なデータや情報に基づかない新しい情報を出力したり、誤解を招くような回答をすることがあります。
 AIは無敵ではありません。ハルシネーションのような課題が存在することを知り、AIの回答や提案を盲信せず、常に疑問を持ち、批判的思考を持つことが大切です。AIからの回答や提案を受け取った際、その情報が正確であるかを自分で確認するスキルを身につけることが必要です。実際のデータや情報源と照らし合わせて、情報の正確性を判断する能力を養うことで、誤情報や偏見に陥るリスクを減少させることができます。
 今回は、生成AIが作成した暗号クイズと解説が、本当に当たっているかどうかを確認する授業を行います。これは、「生成AIの回答を教材として、その性質や限界などを生徒に気付かせる。」というガイドラインの内容とも一致します。

3. 事前に準備したもの

 RSA暗号から着想を得ましたが、実際に小学生にRSA暗号を教えるわけにもいきませんので、今回はそのエッセンスだけを取り入れようと思います。

最大公約数、最小公倍数の考え方を使った、暗号クイズを作って下さい。小学生が楽しめそうな、ストーリー仕立てのクイズにして下さい。
ChatGPTが生成した最小公倍数、最大公約数を使った暗号クイズ
暗号クイズの解説
  • ロイロノート

ロイロノートで作ったワークシート

このような感じで、クイズ、解説のカードをロイロノートに貼り付け、ワークシートを作成しました。緑のカードに問題文、青のカードに解説を貼り付けました。
 赤のカードは、子どもたちが書き込むためのカードです。生成AIの作ったクイズや解説に間違っている部分がないか、実際に計算をして確かめてもらいます。

4. 実際の授業の様子

 授業は、「AIに最小公倍数、最大公約数を使った暗号クイズを作ってもらったんだけど、心配なことがあるんだよね」という切り出しで始めました。しかし、子供たちからは予想以上の反応が。

「AIも答えを間違えることがあるからですか?」

 これまでの実践を通して、AIが出した回答に誤りが含まれることがあると子供達もすでに理解しているようでした。

「AIも間違えることがあるって、大人でも知らない人がいるんだよ。」

とさらに伝えると、子どもたちは、「そうなんですか!?」と驚いていました。普段から、私がツールとして生成AIを活用している成果だと思います。

 その後は、AIが作った暗号クイズと解説を読んで、解説が本当に当たっているかを確認する、という学習を行いました。子供たちは、ロイロノートを使って、グループで話し合いながら、自分のノートに考えをまとめていきます。

子供の意見が書き込まれたロイロノート
子供の回答
別の子供の回答

最後には、数名がみんなの前で発表して、今回はAIの解説が間違っていなかったことを説明することができました。今回は、生成AIの回答に間違いはなかったようです。

5. 成果と課題

 今回の授業で最も感じたのは、子供たちがAIというツールを批判的に捉える能力が育ってきたことです。AIの解説や提案を鵜呑みにするのではなく、自分たちの頭で考え、正しさを判断する姿勢が見られました。しかしながら、全ての子が同じレベルで理解や反映をしているわけではないため、今後の課題として、さらなるフォローアップや授業内容のブラッシュアップが求められます。
 また、この授業実践を通して、私たち教師が常に進化し続ける技術や社会の変化を取り入れ、それを教育の場にどのように落とし込むかを考え続けることの大切さを改めて感じました。

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