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この町と一緒に、歳をとっていきたい。

アタシ社を三崎にうつして初の刊行「写真集 南端」がやっと発売できた。
三浦の人びとを撮り続けてきた写真家 有高唯之さんの処女作を作れたのは本当に嬉しかった。カルチャー誌をはじめ、ポートレイト写真も数多く撮ってきた写真家だからこそ切り取れる「表情」を、毎回見るたびに背筋がのびた。目の奥に潜む、その人の「芯」みたいなものに触れる瞬間、写真の力に心底尊敬した。

三崎での写真展「南端」レセプションも終わり一段落。当日は120名以上に来ていただいて、軽いお祭り状態だった。かもめ児童合唱団、日本人女性初のサックス奏者 朝本千可さんのライブも最高だった。地元の人たちと、地元の食材を囲んでお祝いする。そこに閉じられた感覚はなく、「お祭り」のような雰囲気がある。みんなでひとつのことを祝う。ただただ単純なことが、風通しよく心地いい。この町は「祭り」を中心に物事が動くから、筋が通っていて、気持ちのいいものを好む。

今回の写真集をつくって、著者の有高さんはこう語る。

港町にいるとなぜか気持ちが落ち着く自分がいて、東京から逗子に拠点を移してからは三浦半島最南端の三崎へ頻繁に出向くようになった。
この街にはいまの時代にありがちな無機質な街とは真逆の風情がある。
銅板建築が残る商店街。道の真ん中に寝転ぶ猫。傾いた電信柱。元気な魚屋。夕暮れ時の港のセンチメンタルな情景。光と影が入り混じった街。
一昨年に漁師や農家の方を中心とした写真展「三浦の人びと展」でこの街に生きる人の写真を発表したのだが、写真展が終わっても、この地の人と一緒に飯を食い、酒を飲んだりしていくうちに、地元の人も知らないような作家たちとも出会い、撮影を続けてきた。都心にもほど近く、三方を海に囲まれ、古き良きものが残っているこの場所に、農家、漁師、料理人、クリエイター、作家など、自ら手を動かせる人たちが交わっていけば、大袈裟かもしれないが理想郷のような地になり得るのではないかと私は感じている。
ファインダー越しに見た地元を愛する彼等の眼ざしは、いまの時代を写すとともに未来を考えさせてくれる何かを感じた。
まさに彼らは、「ここに生きる人」。
写真集「南端」は被写体、風景、出版先も三浦の作品である。
これからの時代はローカルから永続的に文化を発信をすることが、世の中に大きな刺激を与えていくと私は信じている。

ローカルから永続的に文化を発信すること。
これはまさにアタシ社にとっても至上命題だと思っている。マーケティングをして、今世の中が求めているものをつくるのではなく、今ここに生きる人たちとなにができるかを考える。それはメディアをやっているものなら同じ課題だし、表現すべきものだと思う。

この町と一緒に、歳を取っていきたい。

これはこの写真集をつくってすーっと胸に入ってきた言葉。
消滅可能性都市に認定されて、シャッター商店街で少子高齢化、行政のお財布も苦しい状況だけど、悲壮感はない。普通ならこの状況を打破するための施策や観光客誘致、企業誘致をイメージしがちだけど、正直な感じ、この寂れた感じが大好きなんだ。寂れたままで衰退していくのは望んでいないけれど、なんとかこの【雰囲気】を保ったままよくしていく術はないのだろうか。すぐフリーズしがちな頭と闘っていくには、やっぱり考えて対話していくしかないと思う。相手を褒めてはときには本気で怒る、プリミティブなこの三崎の人たちと、一緒に生きていきたい。解はすぐに出ないけど、アタシの頭で必死に考えることからすべては始まると信じている。

本と屯として商店街にいることは、ずっと続いていく高校生活みたいで居心地がよくて、学級委員長もいればおとなしい生徒もいる。何年もクラス変えが行われないから、慣れ親しんで卒業したくない気持ちも出てくる。ぼくは転校生。わりとすぐにクラスに馴染んでしまう節があるけど、転校生らしい新鮮な空気も必要だと思っている。どの町にもすでにあるビオトープは壊すものではないし、自然と溶け込んでいくものだ 。そのためにはやっぱり対話【ダイアローグ】がもっとも大切な気がする。世の中ネット全盛の中で、ネット非全盛の三崎において、膝を突き合わせることがもっとも早いコミュニケーションだ。その手助けとなるのが酒であり、美味い飯なんだと思うと、やっぱり三崎は最高の町なんだと思う。

大人も子供も「屯する」ことでなにかが生まれると、肌感覚では確信を持っている。根拠も、ましてや意味も別にないけど、そうだと思っている。なにかが生まれそうな予感というのは、言葉では表せるものではないから。

小学生はときどき決定的なことを言う。
「なにもない町だけど、それがいいんだ」

ぼくはこの言葉に本当に救われた。

南端はアタシ社のECで購入可能です。
特典もありますよ!
アタシ社EC


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