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case03:世界にひとつ、あなただけの展覧会カタログ

◤ information 2021/03/18 ◢ 
こちらでご紹介した『六本木クロッシング2019展:つないでみる』公式カタログが、イノベーション・プリント・アワード2020「書籍・マニュアル部門」において第2位を受賞しました。
イノベーション・プリント・アワード(Innovation Print Awards)は、2008年よりアジア・パシフィック地域で開催されてきたデジタル印刷作品を評価するコンテストプログラムです。通算で13回目を迎えた今回は、12の国と地域から242の作品が集まったそうです。

このnoteでは、atelier grayでお手伝いしたプロダクトについて、少しだけ掘り下げて紹介していきます。(前回から時間が空いてしまいましたね…)

今年の2/9から5/26まで森美術館で開催された「六本木クロッシング2019展:つないでみる」展覧会カタログの印刷をatelier grayでお手伝いしました。

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こちらの展覧会カタログは展覧会場での販売分に限り、1冊1冊すべて異なる表紙デザインが採用されています。

書店ではなかなか目にすることの出来ない実験的な試みの書籍となっており、最新のデジタルプリンティングテクノロジーを駆使することで実現しました。

今回は、この珍しい表紙の制作についてご紹介いたします。

仕様
用紙:インバーコートM-FS 209kg(菊判)
仕上がりサイズ:210×282mm(A4変形)
印刷:デジタルインクジェット印刷

打ち合わせ

この展覧会カタログは当初、お客様から様々な印刷加工のご相談をいただきました。実現の可能性を探りながら、何度かお話をうかがう中で、実は「一冊一冊すべて違って見えるものにしたい」というひとつの想いがあることがわかりました。

ヒアリングはとても大切です。私たちはその想いを汲み取り、どんなカタチにできるのか、技術的にどこまで可能かを考えていくことになりました。

提案

そこで、当社の営業、プリンティングディレクター、デザイナーを集め様々な案を検討することに。インキを変える、用紙を変える、加工を変える、さまざまな仕様設計を重ねて、そして、一つの案をお客様にご提案しました。

それは、プログラムの力でデザインを自動生成させるというもの。
一部ではジェネラティブアートと呼ばれ、芸術表現のひとつとしても知られています。「同じものを大量に作る技術」である印刷で、しかも書籍のデザインにこれを活用する事例は、国内に限ればまだ無かったと思います。

今回の展覧会コンセプトでもある、テクノロジーにより生まれる多様な表現とそのつながり

私たちはそこに目をつけ、自動生成された多様なデザインを、最新の印刷技術でカタチにするソリューションで、お客様の課題を解決できないかと考えました。

ありがたいことに、お客様には提案を喜んでいただき、アイデアを出し合いながら、一緒になってモノづくりをしていくことになりました。

検証

提案と並行して、社内では繰り返し検証を行いました。今回の提案の元になった技術は、HP社デジタル印刷システムのMosaicソリューション。デジタル印刷機自体の導入が進んでいない国内では、まだほとんど活用されていないシステムです。

ただし、このシステムの過去の作例だけでは、お客様の満足を得られないと考えていた私たちは、カラーバリエーションを魅せるレイヤーのひとつとしてこれを活用しています。そこに当社の制作部隊がこれまで取り組んできた自動組版技術を組み合わせることで、効率的な印刷データ生成を独自に行っています。

デザインソースからランダムかつ無限にデザインデータを作り出すために、データベースやアルゴリズム、ネイティブデータのレイヤーや属性の調整を重ねていきました。数々のシミュレーションのなかでだんだんと「違ってみえる」コツを掴んでいきました。演算したら、すぐ出力できる。そんな印刷会社の強みを実感する瞬間です。

いくつもデザインを試作し、どんな色使い、どんな柄、どんなレイアウト、どういった表現なら効果的に見えるだろうかと考えるなかで、この技術で実際にお客さまにお送りするグリーティングカードを作ってみたりもしました。


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このような緻密な検証を重ね、お客様には安心して私たちに製作を任せていただけるよう努めました。

デザイン制作

本番は、デザイナーがカタログ全体のコンセプトを反映したデザインソースを制作することになります。私たちが検証によって獲得したアイデアや知見をお客様と共有し、効果的で機能的なデザインにするためにはどうしたらいいかを一緒に詰めていきます。

お客様からばっちり決まった表紙デザインと拡がりのあるソースデータが上がってきたのを見たときは、スタッフ一同感激しました。このデザインソースを元に、全体のトーン(コンセプトであるつながり)を維持しながら、多様なデザインを生成してゆきます。ただバラバラなものを生成するのではありません。

最終的に、予備を含めて3,500種類の表紙デザインを作り出しました。無限のカラーバリエーション、次々と配置が変わる写真レイアウト(いくつあるか数えてみてください)、ホログラム箔を乗せるタイトルテキスト、これらをひとつの表紙デザインに落とし込み、印刷用の最終データが完成します。

完成

次々と変化する作品群とグラデーション​、ホログラム箔​の​きらめきの​中から…
あなた好みのデザインを見つけたり、
思いがけない組み合わせに驚いたり、
新たな魅力に気付いたり、
今回の展覧会コンセプトとの「つながり」をこのカタログからも感じ取っていただけるのではないでしょうか。

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世界にひとつ、あなただけの展覧会カタログ

「ひとつとして同じものがない書籍」は、データ生成から印刷、製本、流通、販売に至るまで制約も多くあります。発行元の森美術館さま/美術出版社さまを始め、パートナー企業さまとの理解と共創があったからこその実現です。皆様、本当にありがとうございました。

私たちもお客様の課題を汲み取りご提案できたこと、さらには新しい技術を習得できたこと、大変勉強になった事例となりました。

当社では、このソリューションを用いた「ランダムデザインバリエーション」の印刷物製作をこれからも活用していこうと考えています。
「すべて異なる印刷物」「パーソナルコミュニケーション」「世界に一つだけの印刷物」「選ぶ・選べる体験」などにご興味のある方は、お気軽にお問い合わせください。

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もしかしたら、まだ森美術館のショップに並んでいるかもしれません。展覧会場に足を運び、自分だけのお気に入りの1冊を見つける体験がこのカタログの大きな魅力です。ぜひお手に取ってご覧ください。

森美術館15周年記念展
六本木クロッシング2019展:つないでみる
https://www.mori.art.museum/jp/index.html

会期 ※会期は終了しています
2019.2.9(土)~ 5.26(日)
会期中無休

会場
森美術館(六本木ヒルズ森タワー53階)

美術出版社

PD:柳元修治、平井彰(atelier gray)



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