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白い本一冊しか置いてない本屋の話。

私は“うちゅうでたったひとつ”のえほんを作って売る本屋をしています。
でも、本屋といっても店を構えているわけでも、本棚に商品をずらり並べるわけでもなく、たくさんの予約を一度に受けることもできません。
年間9冊くらいのペースで新作が誕生しますが、ご依頼主が一般公開を望まなければ物語が世に出ることもありません。
本屋と呼ぶにはかなり風変わり。
でも、私の中では“本屋”にカテゴライズされていたい(笑)。
そんな“アトリエはなこ”の私の中のコンセプトというか、イメージのようなものを書き記しておきたいなと思い今日はnoteを開きました。

ーたとえばこんな感じー

社会人3年目のA子ちゃんは今日もギリギリ終電の帰り道。
おしゃれなくせに家庭的な晩ごはんを出してくれるあのバーは定休日。
耳にねじ込んだイヤホンからはシャッフルされた挙げ句投げ出されたジムノペディがかかる。
曲を変えようとするけれど、見上げたらそこにいた満月にそのままにしろと言われた気がして聞き続ける。
なんとはなしにいつもは曲がらない路地を曲がる。
するとそこに看板がある。

≒本屋≒
atelier HANACO

こんなところに本屋なんかあったっけと思いつつ、あかりがついているので扉を開けてみる。
薄暗い店内。
木の机の上に白い本が一冊だけ置かれている。
変なの、と踵を返そうとすると奥から赤いメガネをかけた女が出てくる。

「いらっしゃいませ。これ、あなたの本です。」

「はい?」

「珈琲入れますね。」

白い本。深夜の珈琲。奇妙な女。
A子ちゃんの頭はクエスチョンマーク。
でも一口珈琲を飲むとなんだか思いが溢れて驚くほど色々なことを喋ってしまう。
会社のこと、好きな人のこと、将来のこと、ふるさとの両親とのこと。
赤メガネの女は相槌を打つばかり。

「・・・話しきりましたか?」

「・・・はい。」

「それでは1ヶ月後にこの本をあなたのお家にお送りします。
ご来店ありがとうございました。」

疲れたA子ちゃんはどんな風に家に帰りついたのか記憶していない。
でも朝になるとちゃんと布団の中にいた。

「夢だったのかな。」

***

ひと月後、郵便受けに小包が届く。

差出人 atelier HANACO

あの日と同じように深夜に帰宅したA子ちゃん。
玄関先で封を切る。
真っ白だった絵本が布やビーズや色紙や、様々な素材で装飾されている。
タイトル、そして自分の物語に、出会う。

読み切ったA子ちゃん。
そのままあの路地めがけて走る。
あの角、あの角を曲がったらあの本屋がある。

「・・・。」

そこには空き地があるだけ。
残ったのは、自分の物語を手にした自分。

満月の夜。
縁のあるあなたの前にぼんやり現れる幻の本屋。

アトリエはなこ。

******

ある人は我が子への愛を語り、ある人は大切な人への普段言えない感謝を語り、ある人は抱えきれない悲しみを語り、ある人は腹を抱えるほど笑ったエピソードを語る。
それを物語に換えてえほんに閉じ込め、お届けする。

言うなればこんなイメージ!
ささやかでいて愛すべき、私のお仕事。

はなむらここ


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