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(初めての人事労務)専門業務型裁量労働制の基礎知識

以前フレックスタイム制の基礎知識については、その概要を説明しましたが、今回は専門業務型裁量労働制について、まとめていきたいと思います。


1⃣専門業務型裁量労働制とは?

専門業務型裁量労働制とは、労働基準法第38条の3に基づく制度であり、業務の性質上、業務遂行の手段や方法、時間配分等を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要がある業務として、法令等により定められた19業務の中から、対象となる業務を労使協定で定め、労働者を実際にその業務に就かせた場合、労使協定であらかじめ定めた時間を労働したものとみなす制度です。

フレックスタイム制と似ているように捉えられがちですが、就業時間のみを労働者の裁量にゆだねる制度のため、決められた時間労働したものとみなすということはなく、労働時間数にあった残業代の支払が必要となり、裁量労働制とは全く異なる制度です。

また、フレックスタイム制のように、実際の労働時間が月の所定労働時間に満たないため賃金を控除する、ということもありません。


2⃣制度導入のための手続きは?

専門業務型裁量労働制を導入するためには、導入する事業場ごとに、次の事項について、書面による労使協定において定めることが必要です。
また、労使協定は、労働基準法施行規則様式第13号(専門業務型裁量労働制に関する協定届)により、その事業場の所在地を管轄する労働基準監督署長に届け出ることが必要であり、労使協定については労働者に周知させなければなりません。

①対象業務(法令等で定める19業務)

②みなし労働時間(対象業務に従事する労働者の労働時間として算定される時間)
 ※みなし労働時間は1日当たりの労働時間として定める必要があり、実際の労働時間の実態から大きく乖離しないように定める必要があります。
例えば、実際は10時間かかる見込みとされる労働時間を8時間とみなすことは適正ではなく、その場合裁量労働制の適用が否定され、実際の労働時間に応じた割増賃金の支払いが求められる可能性もありますので、注意が必要です。

③対象業務を遂行する手段及び時間配分の決定等に関し、対象業務に従事する労働者に具体的な指示をしないこと

④対象業務に従事する労働者の労働時間の状況の把握方法と把握した労働時間の状況に応じて実施する健康・福祉を確保するための措置の具体的内容
 ※勤務状況・健康状態に応じて特別休暇の付与や健康診断の実施、年次有給休暇の連続取得の促進、配置転換、産業医による保険指導、相談窓口の設置等が考えられます。

⑤対象業務に従事する労働者からの苦情の処理のため実施する措置の具体的内容 
 ※苦情の申出窓口・担当者、苦情の範囲、処理の手順・方法を明らかにすることが望ましいとされています。

⑥有効期間(3年以内とすることが望ましい)

⑦上記4及び5に関し、把握した労働時間の状況と講じた健康・福祉確保措置及び苦情処理措置の記録を協定の有効期間中及びその期間の満了後3年間保存すること


3⃣時間外労働の取扱は?

①時間外労働

みなし労働時間が法定労働時間(1日8時間・1週間40時間が原則)を超える場合には時間外労働になるため、使用者は法定労働時間を超えた部分の時間に対しては、2割5分増以上の割増賃金を支払う必要があります。

例えば、みなし労働時間が1日9時間、所定労働日数が20日の場合は、毎日の労働時間が6時間や10時間の場合であっても、9時間労働したとみなされる為、1h×20日の20時間分の割増賃金を支払う必要があります。

②休日労働

みなし労働時間制が適用になる場合でも、労働基準法第35条の休日(法定休日)の規定は適用される為、法定休日に労働した場合は3割5分増以上の割増賃金を支払う必要があります。

③深夜業

みなし労働時間制の対象労働者が午後10時から午前5時までの深夜に労働した場合にも、労働基準法第37条第4項が適用される為、この時間帯に労働した時間に応じた2割5分増以上の割増賃金を支払う必要があります。

④休憩時間

みなし労働時間が6時間を超え8時間までであれば45分以上、8時間を超える場合には1時間以上の休憩時間を与える必要があります。
ただし、対象労働者に所定の休憩時間を指示することは労働時間の配分についての指示となるため、休憩時間帯についても可能な限り労働者にゆだねる必要があります。


4⃣就業規則

専門業務型裁量労働制を導入する場合においては、就業規則における始業・終業時刻の定めの例外であることなどにより、就業規則では、①労使協定の締結により裁量労働を命じることがあること、②始業・終業時刻の定めの例外があること等について定めたうえで、労働者に周知して所轄労働基準監督署長に届出る必要があります。


5⃣労働時間管理は必要か?

裁量労働制は、実際の労働時間に関わらず、労使協定で定めた時間労働したもととみなす制度の為、使用者は労働時間を把握・管理する必要がないと思われるかもしれませんが、実際には休日労働や深夜労働の把握が必要となります。

また、労働安全衛生法上の義務としては裁量労働制に関わらず健康確保措置を適切に実施するため、労働時間の管理を行う必要があります。


(厚生労働省)専門業務型裁量労働制の適正な導入のために

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