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ナイト・ブレード・百物語

ズゥゥゥゥン……!


ズゥゥゥゥン……!


ズゥゥゥゥゥゥゥン!

「畜生ーッ!サイアスが踏まれて死んだっぽいぞ!」

「バカ野郎!奴を見上げるな!奴のことを見上げるんじゃないッ!」

「グオォォォォーン!」

地響き、悲鳴、咆哮。

巨人が振り向いた。

見上げサイクロプスは山の如き巨体を震わせ、その奈落のような一つ目の視線をこちらに向けている。

俺たちは奴らを呼んでしまったことを……百物語に参加したことを後悔した。

そうだ、これは百の物語。

あんなのがあと九十九体もいるんだ。







「百物語って知ってるか?」







すべては騎士団長補佐マクマフィンの一言から始まった。

「百人の騎士が一人一つずつ空想の怪物の話をする。百話目が終わったあと、そいつらが本当に現れるから、一番多く怪物を狩った騎士が願いを叶えるんだ」 

賊を捕らえて祝杯を挙げる夜、マクマフィンの提案は唐突だった。もちろん、俺たちは信じなかった。しかし宴もたけなわ……そして、ちょうど百人の騎士たち。酔った俺たち騎士団の面々は次々に喋った。見上げるたびに巨大化する一つ目巨人、曇った鏡の中に住む邪悪な蛇、稲妻の如き鬣をなびかせるイナゴ、燃え盛る剣の歯を生やした賢者、それから、金の鹿……俺は、俺はどの怪物の話をした?俺は何を呼んでしまった……?

「ボーっとするな!死にたいのか!」

風のように馬を走らせる騎士グリムバルドの怒号が響き渡る。記憶の中の後悔を辿る旅が打ち破られた。

「どうする!デカすぎるぜ!」

騎士モンディエは叫んだが、俺は黙った。剣や斧でどうにかできる相手じゃない。見上げサイクロプスのことをなるべく見上げないようにしながら馬を走らせ、逃走しているが、長くはもたないだろう。どうすれば……

と、俺の背中にしがみつく騎士イェレナが話し始めた。

「……あ、あいつを呼んだのは私です。わ、わわ、私!弱点を思い出しました!」

振り向き、イェレナと目が合う。そこには決意めいた眼差しがあった。

【続く】

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