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ネイキッド・チャーチ

おはよう!

青い空、白い雲。

朝の太陽の柔らかな光が木々を輝かせ、俺の白い服を照らしていた。今日も心地良い風が吹いている。

「おはようございます」

エドワード神父がやって来た。

「神父様、おはようございます」

俺は挨拶を返す。エドワード神父は微笑み、朝日を眺めながら深呼吸した。俺もそれを真似る。美しい山の空気を肺いっぱいに吸い込む。すべてがきらめき、輝いて見える。なんて清々しい朝なんだ。

……あそこに吊り下げられた死体以外は。

神父の肩越しに遠く見えるそれは、まぎれもなく人間の死体。大きな木に逆さまに吊られている……血塗れの死体たち。肉は腐り落ち、腹からは臓物が垂れ下がっている。そんな肉塊が三人分ほど見える。俺は今までの清らかな気分を忘れ、嘔吐しそうになる。だが、我慢だ。死体が見えていることを悟られてはいけない。

「朝食の準備ができています。皆と食べましょう」

「ありがとうございます。神父様」

神父にはあのグロテスクな死体が見えないのだろうか?いや、そんなはずはない。

ここはネイキッド・チャーチ。"裸の教会"と呼ばれている場所。

美しい自然が溢れた山の中の集落だ。ここにある家々はそのどれもが屋根がなかったり、壁の一部がなかったり、床がない。だから雨風が入り放題で、家の中なのに草が生い茂ってたりする。大地を信仰してて、この生活スタイルが普通だ。だから"裸の教会"なんだと。

「さあ、行きましょうか」

エドワード神父は俺にアルカイックスマイルを投げる。

「はい、そうしましょう」

俺は返事をする。なるべく不自然さがないように……気づかれないように。

俺たちは草原を歩く。先を歩く神父の背中を見つめる。聴こえるのは、風が草を薙ぐ音と、底の薄い靴で踏み締める湿った土の感触だけ。

「ところで」

エドワード神父が歩みを止めた。そして、振り向かずにこれまでと同じ優しい声で言った。

「あなた、くすりを飲みませんでしたね」

【続く】

#逆噴射小説大賞2019

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