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アジ・ダハーカの箱 第6話:死都編 【転】ロッカバイ・ベイビー

「はははは!これで!これでやっと死ねる!やっと!やっ、と、あばばばばばッ!」

狂気めいた歓喜の叫びが空港ターミナルにこだまする!

そこでは地獄が如き光景が繰り広げられていた。まるでペットボトルの蓋を取るように、人間の首が鷲掴みで捻られ、そのまま引きちぎられる!胴体から間欠泉のように噴き出す鮮血!

「ひっ、ひいいああ」

歴戦の傭兵の口から情けない悲鳴が漏れた。地獄だ。目の前の光景は本物の地獄そのもの。人間の身体がいとも簡単に捻られ、引きちぎられ、弄ばれる。ドラゴンの膂力なら造作もないことだ。歓喜の声を上げながら壮絶な死を遂げた男は、かつては死神と呼ばれた傭兵だった。どんな過酷な状況でも生き残る兵士。それでも彼は死に場所を探していた。そして、望み通り死んだ。

「クソッ!ダメージが通ってる気がしない!銃が効かないぞ!」

「ろくでなしどもが!命令を聞け!"禁断の紋章"を回収するんだ!」

「知るかよォ!走りながら撃て!逃げろ!とにかく逃げるんだ!」

生き残った哀れな傭兵たちは、後退しながら各々のちっぽけな銃を強大なドラゴンに向ける。あまりにも虚しい行為だ。必死で銃弾を撃ち込んだ箇所は、泥水のような体液が逆流し、その傷を何事もなかったかのように塞いでいる。傭兵たちはその光景を見て落胆する間もなく逃走する。色彩を失った曇天の灰色の世界をどこまでも走って逃げた。奇妙な日本食レストランや、土産物屋が並んで賑わっていたはずの空港ターミナル。だが、そこはドラゴンが世界を覆い尽くした日に崩壊し、廃墟と化した。傭兵たちは瓦礫の山を突っ切る。巨大な空港内のいくつものターミナル跡地を駆け抜けても、もうここにはたくさんの乗り継ぎ客の行列もいなければ、怒鳴り散らすクレーマーも、態度を崩さない入国審査官もいない。生きた人間は誰一人としていない。どこまでも、どこまでも、朽ち果てた人類の繁栄の残骸がただひたすらに広がっているだけだ。いま、この広大な廃墟の中で生きているものは、愚かで哀れな傭兵たちと……ドラゴンのみ!邪悪な竜が咆哮する!

「ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"!」

驚くべきことに、ロサンゼルスはたった三匹のドラゴンによって一晩で滅ぼされたのだ。その超弩級のドラゴンのうちの一匹がこの呪われし赤子である。

"怨属性グラッジドラゴン"

「ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"!」

聴く者に原始的な絶望を呼び起こすプライマルスクリーム。悪魔の金切り声。マズルフラッシュで照らされたその異様な竜は、全身の肌がどす黒く、巨大な腐った赤ん坊に似た姿。おそろしく、おぞましい竜が猛り狂っていた。その顔は形容しがたいほどに醜く、口は裂けている。怨属性グラッジドラゴンは、何百本と並んだ汚らしい乱杭歯で殺した傭兵の胴体をむしゃむしゃと食べ始めた。まるでチキンに齧り付くかのように。その様子を見て傭兵たちは再び戦慄、恐怖した。邪悪なるグラッジドラゴンは、人間の赤ん坊よろしく四つん這いになると、真っ赤に沸騰する水泡だらけの舌で床に飛び散った血液を舐めとる。そして歪んで裂けた口で身の毛もよだつ叫び声を上げる!

「ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"!」

ここはカリフォルニア州、ロサンゼルス国際空港。かつてはアメリカ西海岸の空の主要な交通アクセス拠点として栄えていた。しかし、その面影はもはやまったく見られない。さびれ、朽ち果て、大都市ロサンゼルスを滅ぼしたこの凶悪なドラゴンの根城と化している。

「畜生、畜生……」

ガタガタと歯を震わせながら、傭兵のうちの一人は絶望を抱えて走り続ける。彼女は大粒の涙を流して泣いていた。彼女はこの作戦の指揮官、非情なるチェスター・ハーディング大尉の優秀な片腕だ。数々の武勲を上げたそのコードネームは……ミス・ジョンソン。無論、本名ではない。本当の名など、長かった髪と共にとうの昔に捨てている。そして、もはや、過去も、本当の名も、無意味なことを理解していた。彼女は振り向く。見えた光景によりまた絶望を深める。怨属性グラッジドラゴンは、四つん這いのまま、本物の赤ん坊がハイハイするかのような動きで傭兵たちを追い立てる。すさまじい速度。瓦礫をものともせず、天井を、床を、柱を破壊しながらめちゃくちゃに両手足を動かす。

「あ、ああ、ああ、私は死ぬ。私は、死ぬ」

彼女は息も絶え絶えに呟いた。自分に言い聞かせるように。虚しい覚悟を決めるように。その言葉は間も無く現実となるだろう。

「ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"!」

いきなりの咆哮と共に、怨属性グラッジドラゴンの全身から腫瘍めいて隆起する目蓋が開かれる!そのおぞましい無数の眼球からレーザービームが如く赤い光線が放たれた!ドウ!雷にも似た轟音!滅びの閃光が空港内を舐め尽くす!周囲の空が深夜にも関わらず終末世界の夕暮れめいて真っ赤に染められる!傭兵たちはなすすべもなくその光を全身に浴びてしまうが……何も起こらない!そう、見た目には何も起こらないのである。だが、怨属性グラッジドラゴンがその醜い身体中のドス黒い眼球から放つ光線は、文字通り死の光。照らされた者の"運"という見えざる力を根こそぎ奪う。人の子のさだめ、運を奪うとは?運を奪われた人間はどうなるのか?

「クソがッ!くらえ!死ね!」

バンッッ

それが意味するのは、約束された惨たらしい死!突如として暴発した銃は、使い手の傭兵の腕を吹き飛ばす!

「あっ、ああああ」

手入れはしていたはずだ。かつて脱獄王と呼ばれた"強運"の男、ラッキー・フォーフィンガー・ジョンは、消失した右手首から先を虚ろな目で見つめる。信じがたいといった表情だ。彼は籤属性ドロードラゴンを打ち破ったほどの強運のドラゴンキラー。だが、怨属性グラッジドラゴンは、棒立ちになる彼に巨大なその手を叩きつけた!人間を潰し、床に亀裂が入るほどの威力!彼は断末魔の悲鳴をあげる間もなく、潰れた蝿のようになって死んだ。赤ん坊の浮腫めいて膨れ上がった指の隙間から、先ほどまで人間だったものの液体が漏れ出た。呪われし赤子は掌を嬉しそうに舐める。これで彼の冒険は終わり。さようなら、安らかに眠れ、ラッキー・フォーフィンガー・ジョン。

あと二人。

「クソ、クソ、もうダメだ!俺は抜けるぞ!このクソ首輪なんてどうにかして外して……ああっ!」

息を切らして走る小柄な傭兵は、自身に装着された首輪型爆弾を無理やり外そうともがく!が、何もない場所で転倒する!まるでカートゥーンアニメに登場する追い立てる猫のような大げさな動き!そうしてその顔面には、瓦礫から飛び出した釘と破片が突き刺さり、傭兵は、多くの修羅場をくぐり抜けたはずの名も無きドラゴンキラーの彼は、即死した。その足元には……バナナの皮が捨てられていた!彼は運悪くバナナの皮を踏んで滑って死亡したのだ。かつて竜を殺した勇敢な者に対して、理不尽極まる死。

これが怨属性グラッジドラゴンの恐るべき能力の真価。死に至る不運。荒唐無稽であろうとも、あり得ないことでも、必ずその運命を死に至らせる。この傭兵チーム最後の生き残り、ミス・ジョンソンは寄せ集めの隊員たちの死を見て全てを悟った。いや、人間が備えるドラゴンに対する本能的恐怖で無理やり理解させられ、ついに諦めた。彼女は自身のこめかみに拳銃を押し付けた。強く目を瞑る。恐怖や後悔、命令、そんなことを考える暇もなく、兵士は兵士らしく、無心のうちにトリガーを引く!

……だが……弾丸は放たれない!

撃てない!撃てない?撃てないだと!ジャミングだ。不発。もう一度トリガーを引く。引けない。撃てない。死ねない。なんて運が悪いんだ。彼女は自身で運命を決めることすらも奪われていた。邪悪な気配を背後に感じたミス・ジョンソンは、はっとして目を見開く。

「ア"ア"ア"ー」

目前には怨属性グラッジドラゴンがいた。いつのまに。まるで影から影へ、闇から闇へ移動してきたかのよう。恐ろしい竜が、人類を滅ぼした天敵が、目の前にいる。形容しがたいほどに醜く、吐く息は臭い。色付きの呼気を吐いた邪悪なドラゴンは、その目を歓喜に歪ませた。新しいオモチャを見つけたのだ。ミス・ジョンソンは心の底から恐怖した。

「か、かみさま」

「ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"!」

祈りの言葉、ドラゴンの咆哮、続いて国際空港に断末魔の悲鳴がこだました。これで全員が死んだ。国際空港探索チームは全滅した……

怨属性グラッジドラゴンは、死体をまるで玩具のように弄ぶ。頭部を、胴体を、腕を、脚を、性器を、千切り、捻り、嬲り、すり潰し、尊厳を奪い、咥え、吐き捨てる。邪悪な赤子はひとしきり遊んだ後、虚ろな目で一点を見つめ始めた。呼ばれたのだ。その眼差しのはるか先にある光景は、ここよりもさらに深い地獄。突然、怨属性グラッジドラゴンの足元に夜の闇より深い奈落が出現し、その穴に巨体が沈んだ。そうしてようやく国際空港に終わりなき静寂が訪れた。

【続く】

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