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チャイの想い出

東京に住むようになり、近所に素敵なご夫婦が営むチャイのお店があり、よく通っている。濃い目に煮出したミルクティーに、研究を重ねて出来上がったオリジナルのスパイスを加えた1杯だ。ご夫婦が素敵な方だからかスパイスが良いからか分からないが、お店に行く度に元気になる。多分、両方があるからだ。チャイを飲むと、初めての海外旅行で1人で訪れたサンフランシスコのことを思い出す。

都心部のパウエルに空港から、バートと呼ばれる地下鉄を使い降り立つ。今日お世話になるシェアハウスに行かねばならないが、どのバスが最寄りまで行くか分からず、あたふたしていた。すると、道端に1台のワゴンと大きなビーチパラソルが開かれた何かがある。近づいてみると、チャイを売るお店だった。120oz(約360ml)・3ドル30セント。パラソルの下に立ってチャイを売っている1人の女性は褐色の肌をしていて、インドから移住してきたのだそうだ。

1杯お願いする。あらかじめ作ってあったものを保温しておき、そこにスパイスを加えただけのものだった。濃くて甘いミルクティー。そして、キツイくらいのスパイスの香り。今思うと、本当に美味しかったかどうかわからない。でも、初めての異国の地で笑顔が素敵な褐色の肌をした女性が作ってくれたそのチャイは、束の間の安心とあたたかさを僕にくれた。

東京で、同じようにチャイをいただく。香りを嗅ぐ。スパイスの香りがほのかに漂う。そして、甘くて濃いミルクティー。

そして気づいた。この香りと味によって、僕の旅が始まったんだと。そう思いながら、あの日のことを1人思い出していた。

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