とあるお婆ちゃんの手

五反田のオフィス街を歩いてみると、路地の脇でホースから水を出しながら、仕事をしている人がいた。背も低く、白髪で背中も少し曲がっている、見たところ60代後半くらいの女性だった。

何の仕事をしていたかというと、どうやらそこのビルの清掃員らしく、尋常じゃないくらいの量の煙草の吸い殻を水に浸していた。

ぱっと見れば汚い物だけど、それをお婆ちゃんは素手で洗ったり、拾ったりしていた。

自然とお婆ちゃんの手に目がいく。すると、その爪には赤のマニキュアが塗ってあった。汚い物に対してのその鮮やかな赤のマニキュアに、なぜか強く心動かされた。それは、お婆ちゃんが笑顔でその仕事をしていたからかもしれない・・・

いくつになっても、そうやって自分に色を持たせて、美しく生きられるのかなと思った。

僕は、今の自分には、このお婆ちゃんに到底かなわないなと思った。でも、そんなお婆ちゃんの姿を見て、自分はこれから色んなことが出来るはずだなとあたたかい気持ちになった。

とあるお婆ちゃんの手、ありがとう。

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