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母の背中

僕は今、東京で1人暮らしをしている。学生の頃から実家を出て、6年が経つ。遠くにいる家族のことを思い出す。すると、どうしたことか・・母の姿だけがどうにもこうにも、自分に背を向けた姿しか思い出せないんだ。

喧嘩もするけど、僕は自分の両親、兄妹のことが好きだ。父親、兄妹、祖母の顔は、はっきりと思い出せる。なのにどうして母親だけ・・・

考えて気づいたことは、母はいつも、僕のため家族のために一生懸命にいろんなことをしてくれていることだった。

家にいる母は本当にいろんなことをしてくれている。キッチンに立って料理をしている母。洗濯機と向き合っている母。掃除機をかけている母。洗濯物を干している母に縫い物をしている母。家にいるときの母の姿を挙げるときりがないのだが、その姿はどれも、母の背中なのだ。だから、僕は母の記憶だけが背中姿なのかもしれない。

先日、久しぶりに実家に帰った。僕の帰りを喜んでくれた母を見ると、心なしか白髪、皺も増え、背中も少し丸くなったような気がする。それは僕が一緒に過ごす時間が少ないからそう思うだけなのかもしれない。でも、時間は止まらずに経っていくものだから、老いというのは、やっぱり避けられないことなのだろう。

僕は、家族のために一生懸命な母の姿を知った。なら、僕が今できることをすればいい。

珈琲好きな母のために、豆を挽いて、母の分と僕のを丁寧に淹れる。そして、母の正面に座る。離れて暮らしているからこそ、思うこと、話せることもたくさんある。 

今まで、母の背中ばかりを見てきたけれど、これからは、こうしてゆっくり一緒に過ごせる時間があるんだ。

母と向き合う。

少し気恥ずかしいけれど、母の顔、目を見て話す。これで、家族全員の顔が自分の記憶に揃ったと思えた。

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