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向性検査と向性指数

次の質問に「はい」か「いいえ」のどちらかで答えてください。

1. すぐに決心がつきますか
2. ほんの少しのことでも気にしますか
3. 考えるより活動することが好きですか
4. 失敗するとがっかりしますか
5. 感情をよくおもてに出しますか
6. 辛抱強いですか
7. 動作がキビキビしていますか
8. 空想にふけりますか
9. 派手な仕事が好きですか
10.持ち物を大事にしますか
11.喜んで他の人と一緒に作業をしますか
12.友だちを作るのが大変ですか
13.向こう見ずな行動をしますか
14.人に指図をされるのが嫌ですか
15.意見が違う人ともうまく付き合っていけますか
16.仕事は綿密に行いますか

奇数番号の「はい」の数がいくつになったかを数えてください。
次に,偶数番号の「はい」の数がいくつになったかを数えてください。
そして,奇数番号の「はい」の数から偶数番号の「はい」の数を引いてください。

結果は,プラスになりましたか?マイナスになりましたか?ゼロでしたか?

向性検査

今回は,今から90年近く前に日本で作られた,ある心理検査について書いてみようと思います。「淡路式向性検査」や「向性検査」と呼ばれる検査です。最初の論文は東京帝国大学の淡路圓治郎と立教大学の岡部彌太郎によって書かれ,1932年に発行されています。「向性檢査と向性指數 (上)」というタイトルの論文です。

1次元の人格

この論文は,人間の人格全体が複合的で多面的で,複雑なものなのですが,あるところから眺めてみれば,ひとつの次元に人々を並べて単純化して捉えることができるだろうというアイデアに基づいています。

このアイデアのもとになっているのは,知能の研究です。知能も,19世紀には多くの研究者が個別にさまざまな指標で知的能力を表現してきましたが,ビネーが知能検査によって雑多な検査を年齢順に並べて1つの次元に表現し,スピアマンが因子分析の統計手法を使って一般因子(g)という1つの次元を見出してきた歴史があります。

複雑な機能の総合体である知能も1つの次元で表現できるのだから,同じように複雑な人格(性格,パーソナリティ)も1つの次元で表現できるだろうというアイデアです。

外向と内向

さて,やろうとしていることはわかりましたが,なぜ「外向性と内向性」なのでしょうか。

論文の中では,ユングの言い方を借用して外向性傾向(Extroversion)と内向性傾向(Introversion)という言葉を使うと書かれています。最初から,外向性と内向性を測定しようとしていたわけではないのです。複雑な人格全体を何か対立する極のある数直線に落とし込んでいくのですが,どのような名前がいちばん適切なのかについてはわかりません。そこで仮に,外向性と内向性という言葉を使ったということなのです。

論文の中では次のように書かれています。ユング理論では超経験的なリビドーが客観に向かうか主観に向かうか,その発現の方向によって外向型になるか内向型になるかが分かれることを説明するのですが,「余等はかかる神秘的作話は全然認めない」と,ユング理論そのものは全否定なのも面白いところです。

外向性傾向の特徴

名前はさておき,外向的な人の特徴はどういったことになるのでしょうか。箇条書きでまとめてみましょう。

◎情緒の表出が自由で旺盛
◎勝ち気で強気で陽気
◎感情的で喜怒哀楽の情で動かされる
◎気分の変動が早い
◎些細なことにはこだわらない
◎天真爛漫に振る舞う
◎ときに無反省な行動をしたり,短気な振る舞いをする
◎失態を演じても,心の底から悔いることがない
◎思慮分別にやや乏しく,軽率で落ち着きがなく,衝動的
◎熱しやすく冷めやすい
◎社交的で開放的で,誰とでも分け隔てなく交際する
◎いくぶんお調子者で煽られやすい

ざっと見てくると,今のパーソナリティ心理学で研究される特定のパーソナリティ特性よりも広く,多くの要素が含まれている概念のように思えます。知能のように,雑多なものを1つの次元に縮約するという目的で作られていますので,致し方ないところかもしれません。

内向性傾向の特徴

内向的な人の特徴も,箇条書きでまとめてみたいと思います。

◎情緒の表出が控えめ
◎いったん感じた感情が長続きして別の感情に移りにくい
◎喜怒哀楽を表に出さず,胸の内に留めておく
◎ひとりで静かに考える傾向がある
◎冷静で思慮深いが,実行力に欠ける
◎いったん何かをはじめると,粘り強く根気よく進める
◎いったん何かを思い込むと,簡単に考えを変えない
◎意固地で強情で冷酷な面もある
◎羞恥心が強い
◎他人と一緒に仕事をしたり,喜びや悲しみを分かち合わない
◎軽率さや無分別や軽薄なところはない
◎理知的で論理的思考を好む
◎批判なしに他説を受け入れず,物事の裏面を詮索する

やはり,内向性の特徴を見ても,今のパーソナリティ心理学で扱われるような特性よりも広い内容が含まれているように思います。

答え合わせ

さて,最初に回答してもらった質問項目についてです。

プラスになった人は外向性傾向,マイナスになった人は内向性傾向となります。プラスで大きな値(たとえば+5点以上)になった人はもちろん外向性が強い人,マイナスで大きな値(たとえばー5以下)になった人は,もちろん内向性が強い人です。全体で16項目用意しましたので,プラス8点からマイナス8点までの範囲を取ります。

そして,ゼロに近い人は「両向型」と呼ばれる,極端に外向的でも内向的でもない,中間の人々となります。

もっとも,いちばん極端な外向性といちばん極端な内向性の人というのはほとんどいません。そういう意味で,私たちはみな「両向人」だと論文の中でも説明されています。

向性指数

最初に示した質問項目は,向性検査の内容を書き直したものですが,向性検査にはおおよそあのような質問項目が50問用意されています。半分の25問は外向性を尋ねる質問,残りの半分は内向性を尋ねる質問項目です。そしてすべての質問項目に対して「はい」「いいえ」のいずれかで回答しますが,決めかねるときは丸をつけないように指示されています。

得点のつけ方の手順は,次の通りです。

まず50問すべての回答について,外向的な方向で得点をつけます。0点から50点までの得点になります。これを外向点といいます。

次に「はい」とも「いいえ」ともつけなかった無回答の数を数えます。

そして,向性指数(V. Q.; Version Quotient)を計算します。

向性指数 = (外向点+1/2無回答数)/25 ×100

この数式で向性指数を算出しますので,得点は100を中心に分布します。そして,もしもすべての質問について外向性の方向に回答をすると,50/25×100=200点となります。200点に近い人のことを「超外向」と呼ぶそうです。その一方で,すべての質問について内向性の方向に回答すると0点ですが,その得点に近い人のことを「超内向」と言うそうです。

得点が100点を中心にしてあるのも,やはり知能検査を念頭に置いているからですね。

相対向性指数

さらに,集団の中の個人の得点を相対的に表現するための得点算出方法も考案されています。それを,相対向性指数と言います。

相対向性指数=(個人向性指数/標準向性指数)×100

たとえば,男子大学生の向性指数の平均が110で,ある男子大学生の向性指数が105だとすれば,その学生の相対向性指数は,105/110×100=95.5 という値になるというわけです。

ではまた次の機会に,この向性検査を使ってどんな研究が行われたのかを見ていきましょう。

(次の記事に続く)

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