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インフルエンザのついでに心理学の実験

子どものクラスが学級閉鎖になりました。クラスメイトの3分の1がインフルエンザに罹ったようです。子どもの話によると,ある子がインフルエンザになってその周囲がダウンしていったようで,それを聞くと小規模なパンデミックの様相を呈しています(ちなみに「小規模」と「パンデミック」は意味的に矛盾しています)。

インフルエンザの流行はピークを越えたそうですが,まだまだ油断は禁物です。この冬は何種類か流行っているそうですので,1回かかったからといって安心はできないようです。

インフルエンザの自己責任

またインフルエンザが「自己責任」のように見られてしまうのも,努力や気合いでなんとかなると思っているのか,そういうものではないと思うのですが日本的といいますか興味深いところに思えます。どれだけ対応しようが,なるときはなるのです。なったら早めにしっかり休める世の中であってほしいものです。

さて今回は,インフルエンザにまつわる話を紹介してみようと思います。

インフルエンザと時間感覚

家族が病気になってもタダでは起きない(?)のが研究者というものです。

その昔,ハドソン・ホグランド(Hudson Hoagland)という生理学者がいました。

ある日,ホグランドの妻がインフルエンザで寝込んでしまいます。ホグランドは献身的に看病をしていたそうなのですが,15分ほど買い物に出かけます。すると妻はホグランドに「長い間病気の私を放っておいて!」と文句を言っていたそうなのです。でも,ホグランドはそんなに長い間,部屋から出ていたわけでもなく,自分と妻の認識が違っていると感じていたのでした。

ふつうそういうことを言われても聞き流すか,「ちゃんと看病をしているじゃないか」と反論してしまいそうです。

ホグランドが普通の人と違っているのは,そこで「体温が高くなると時間の認識が歪むのではないか」と考えたところにあります。この仮説を思いつく時点で,普通ではありません。さらに,妻が高熱で苦しんでいる今がチャンスとばかりに,実験を始めます。

ホグランドは妻の体温計の数値が変わるごとに,頭のなかで1分間測るように頼みます。そしてストップウォッチを使って,その報告を正確に測定していきます。さらにその同じ体温の間に複数回数えるよう,妻に頼みました。

実に,48時間のあいだに30回も時間の計測を行ったそうです。高熱の中,夫に頼まれて数を数えた妻も偉いものです。

そしてホグランドは,体温が高くなると実際よりも速い時間で1分間が経過するように感じることを示しました。高熱が出ると,自分のまわりの時間の流れが遅く感じるようなのです。なんと,体温が39.4度のときには,実際には34秒しか経過していないのに「1分経った」と感じたのだとか。インフルエンザで高熱が出ると,「こんなに寝ているのにまだこれだけしか経っていない」と認識してしまうかもしれません。

実験してみよう

もちろん,これについてはのちの論文でも検討されているようですが,だいたい体温の変化で時間の感覚が変わる現象は見られるようです。

高熱が出ているときに実験をするのは問題ですが,普段から体温が高めの人と低めの人とで比較してみると面白そうです。体温計で体温を測定して,頭のなかで60秒を数えてもらって,実際の時間と比較するだけの簡単な実験です。ぜひまわりの人で試してみてはどうでしょうか。

こう書いてくると,女性の基礎体温の周期によっても変わるのか......などとも考えてしまいそうです。論文は探していませんがあってもおかしくはありません。ただ,どれくらいの体温でどれくらいの時間認識のズレが生じるかはわかりません。基礎体温くらいだと微妙な違いになるかもしれないので,何度も測定したり多くの人で測定したりしないと把握できない可能性がある,ということはご注意ください。

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