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研究者RPG(1):研究者の評価

研究者は,出版した論文や書籍,学会で発表した内容などが評価されます。「どんな研究をどれだけやっているか」ということですね。

さて研究者が就職に応募する際には,履歴書とともに研究業績書を提出しますので,その研究者がどのような研究をしているのか,何本の論文をこれまでに書いているのか,どのような書籍を出版しているのかはすぐにわかります。英語ではCV(curriculum vitae)と呼ばれていて,研究業績もひとつの経歴として履歴書の中に含めて作成します。

「研究」という活動は少々大げさにいえば「人類の知識に新たな知識を追加する営み」です。それまでにないことを発見する,新たな道具を作る,新たな方法を作り出す,新たな関連を見出す,新たな情報の整理方法を提案する,新たな考え方を提唱する,等々いろいろな研究がありますが,基本は「新たな知識の追加」にあります。ただ,「追加したよ」と言ってもそれが確かめられ,受け入れられてやっと価値が高まるのですけどね。「役に立つ研究」という言い方がありますが,知識の追加という観点から考えると,どんな研究も役に立っていると言えます。

これは大学生が就活に臨む場合とはずいぶん違います。大学生が履歴書を書く際に,「たいして書くことがない!」と悩んだりすることがあるのではないでしょうか。書くことを増やすために,資格を取ってみようかと思ったり,留学してみようかと思ったり。でも,実際に就活では何が評価されるかはわかりませんよね。

それは以前書いた記事でも触れました。
就職面接で生い立ちを聞いても良いのですか
入試の面接ではどの特技をもつ受験生を選ぶのが正解ですか

研究者の場合は,まず研究業績という比較的明確な評価基準があります。
とはいえ,その評価も一筋縄ではいきません。

目次

・評価基準
・研究業績リスト
・他分野の評価は難しい
・同じ学問分野でも
・同じ労力をかけても
・個人か集団か
・最後に

評価基準

研究者の場合は自分が書いた(あるいは名前が載った)論文や書籍が出版されているというひとつの明確な基準がありますので,「なにが評価されるかわからない」という状況にはなかなかなりません。

大学院生になり研究活動をはじめると,その研究業績リストを増やしていこうと努力していきます。そのリストが増えれば(決してそれだけではありませんが),日本学術振興会の特別研究員に採用され,給与も手にして研究費も支給される大学院生もいます。海外の研究室に滞在したり留学しようとする際にも,研究業績がものを言います。そしてそれが就職にも結びついていくというわけです。

たぶん,大学院に縁がない人から見れば,ずいぶん実力主義の世界だと感じるのではないでしょうか。少なくとも建前上はそうなっています。研究者にとって自分の研究業績は,名刺代わりになるようなものです。

下の記事では,研究者を募集している情報についてJREC-INで調べることができるということを書いています。

研究業績リスト

たとえば私の研究業績リストについては,研究室のwebサイトに一覧が掲載されています。だいたい同じ分野の研究者であれば,この一覧を見れば研究業績が「多い」のか「少ない」のかと評価することができます。

(年別の研究業績リスト)

(項目別の研究業績リスト)

他分野の評価は難しい

ただし,ひとつの問題は,ある研究分野の研究者が他の研究分野の研究者について評価することが極めて難しい点にあります。

私の場合,心理学の分野ならだいたいその研究者の研究業績が多いのか少ないのか判断がつきます。しかし他分野になるとそれぞれの分野独自の研究の発表のしかたや業績の積み方,評価されるやり方がありますので,お手上げです。それは自分の文化の視点で異文化を評価しようとするようなものです。

ある研究分野では大学院生は研究発表できないとか,ある分野では論文より書籍が評価されるとか,逆に書籍など全く評価の対象にならないとか,またある分野では研究雑誌がなく一般向けの雑誌が評価されるとか,学会発表など業績ではないという分野から発表こそ重要と考える分野まで、研究分野によってそのしきたりがまったく異なりますので,一律に同じように評価することはできないのです。

そして特に文系の学問では,分野による差がとても大きいと言えます。私が所属している学部は,まさに文系の多分野が共生している学部ですのでこれはよく実感します。

同じ学問分野でも

実は,ある学問分野の内部でも一概に一律に比較できないという問題があるのです。

私が関心をもつ研究分野と,実験心理学分野と,教育的な応用を考える分野と,臨床心理学分野とでは,期待される業績数も,論文の投稿先も違います。おおよそこれくらいの年齢であればこれくらいの研究業績が期待されるだろう,という期待値が異なってくるのです。

たとえ自分の研究業績が多いからといって,他分野を貶めるような発言をすることは慎むべきです。それは,自分が取り組んでいる研究分野が,多くの業績を生み出すことができる環境にあるだけである可能性があるからです。

同じ労力をかけても

なぜそうなるかというと,複数の研究者が一生懸命同じ力を注いで研究活動をしても,その研究者が取り組んでいる内容によって,生み出される業績数には平均的に違いが生じるからです。また,ひとつの論文やひとつの学会発表をする上で,私のような調査系の分野よりも,理論的な研究分野や現場での応用を検討する分野,事例を報告することに価値がある研究分野のほうが労力が大きいと思うからです。

心理学の中で「調査がベースの研究分野は業績数が多くなる」と言われることは当然あります。でも自分がその分野にいると自覚するのであれば,同じ労力をかけてたくさんの研究業績を生み出すことができるわけですし,どうせその中での競争になるのですから,自分に可能な限り研究業績を生み出せばいいのではないかと思うのです。他の分野をとやかく言ってもしょうがありません。

逆に,私の研究分野の基準からすると「そこまでひとつの調査から次々と細切れに論文を書いていくのはどうなのだろうか」と思う研究分野もあります。しかしまた逆にその分野から私の分野を見れば,「何をそんなに遅いペースでちまちまと論文を書いているんだ。もっと効率的にできるだろう」という評価のしかたになるかもしれません。

このように,研究分野が異なればそれは異文化の世界なのです。

個人か集団か

さらに,個人で論文や書籍を書くのが当たり前という研究分野と,グループで書いていくのが当たり前という研究分野があります。

心理学はその中間あたりに位置していると思います(両方の研究者が混在していますので)。当然,複数の研究プロジェクトに参加している研究者の研究業績は多くなる傾向にあります。

複数の著者の論文の場合,筆頭著者(論文の最初に名前が出てくること)である場合に,その業績を高く評価する場合があります。そこにも研究分野によってしきたりが違いがあったりして、侮れません。

研究の資源や材料,論文執筆のサポートは研究グループからもたらされる場合が多いのですから,同じ分野で比較すれば一人ですべてを行う研究に比べれば格段に論文執筆スピードは上がることでしょう。

多作を求められる研究分野の場合,どうやって効率的にそれを生み出すかという工夫をすることも求められるということです。昔のアニメに出てくる「ハカセ」のように,ひとりで研究室に籠もって研究するというスタイルとは全く違い,チームで課題に取り組む企業のような研究スタイルをとる場合も多いということです。

多文化の共生

それぞれの研究分野にはそれぞれの文化がある,という多文化共生の考え方を研究の世界でも考えるのがよいと,私は考えています。

とはいえ,どんどんこの世界にも,一律の評価基準によって研究者を評価する波が押し寄せてきています。

次回はその例を取り上げてみたいと思います。

第2回記事はこちら
研究者RPG(2):論文の被引用回数について


また,この記事はシリーズになっています。以下の記事もどうぞ。

研究者RPG(1):研究者の評価
研究者RPG(2):論文の被引用回数について
研究者RPG(3):就職するための被引用回数
研究者RPG(4):一流研究者たちの被引用回数
研究者RPG(5):伝説的研究者の被引用回数
研究者RPG(6):すごい研究者の日々


最後に

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