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原因と結果をつなぐ間を考える

今回も,考えていることを心理学の研究に乗せていく,ということについて書いてみたいと思います。前回は関連について書きましたが,今回は媒介(mediation)ということについて考えてみます。媒介というのは,
[ 原因 ] → [何か] → [結果]
という,間に何かが挟まったプロセスのことだと考えてください。

風が吹けば桶屋が儲かる,ということわざがありますが,それを思い浮かべてもらっても構いません。このことわざについては後ほど説明します。

あることと別のこととの間になにか関連があることがわかると,次はそこにどういったプロセスがあるのだろうということを知りたくなります。そのときに有効な考え方のひとつが,この媒介プロセスです。


運動と幸福感

たとえば,運動をするほど幸福感が上昇するという関係があるとします。

まずこの関係を確かめるためには,何らかの形で運動量と幸福感を測定する必要があります。

運動量は,過去1か月間どのような運動をどれくらいしたのかを測定しても良いですし,質問紙で「運動する方ですか」といった質問を用意して何段階かで答えてもらっても構いません。なんでもよいのですが,とにかくより運動する人がより高い(低い)得点になり,より運動しない人が低い(高い)得点になるような測り方を,より確実にすることができれば,それは運動量の指標として意味のある得点になります。表面上のもっともらしさよりも,確実に目的のやり方で人を分けるような測定方法を考えることが重要です。

それは,幸福感でも同じことです。どのような測定方法でも構わないのですが,本当に幸福感が高い人が高い(低い)得点,幸福感が低い人が低い(高い)得点となるような測り方ができれば,それは幸福感の指標として意味があります。

測定の詳しい話についてはまた別の機会にして,ここでは話を先に進めます。

パス図を描く

話を戻します。運動量が多いほど幸福感が上昇するという関係を図で表してみます。このような図をパス図と言います(本当はこの図にはある要素[誤差]が足りないのですが,説明しやすいように省略してあります)。

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ここで,どうして運動量が増えると幸福感が高くなっていくのか,そのプロセスについて考えてみます。

理由を考える

もしかしたら,運動量が増えると体調が良くなり,そのことが幸福感に影響するのかもしれません。運動量から体調に影響があり,体調から幸福感に影響するという関係です。この関係を図に表すと,次のようになります。こうなると,「風が吹けば桶屋が儲かる」の話に近くなりそうです(なお,この図でも誤差は省略してあります)。

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必ず経由するのかを考える

ところが,ここでひとつ問題があります。それは,運動量は絶対に,完全に,間違いなく,確実に,体調だけを経由して幸福感に影響するのか,という問題です。

もしかしたら,体調以外の要素が何かあるのだけれども,測定していないからわからない,ということがあるかもしれません。研究をするときに想定外の要素があるのは当たり前のことです。すべての要素を測定して分析に含めることは,現実的に不可能だからです。

そこで,運動量から幸福感への影響を残しておきます。この部分は,直接影響を及ぼしているように見えますが,間に何かあるかもしれませんし,何もないかもしれません。このような図です。

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この図が,媒介モデルの図です。

[運動量→体調→幸福感]というつながりを間接パスといいます。間に何かが挟まったプロセスのことです。

そして,[運動量→幸福感]というつながりを直接パスといいます。間に何も挟まっていないからです。

もちろん,[運動量→体調]のつながりだけを取り出せば,ここも直接パスです。もしかしたらこの直接パスにも,間になにかを挟むことができるかもしれません。このように,パスの間に何かが挟まり,またもとのところと挟んだものとのあいだにまた別のものが挟まる……という図をイメージすると,フラクタル図形のようになってきます。


風が吹けば

風が吹けば桶屋が儲かるの話は,次のように話がつながっていきます。

◎風が吹くと土ぼこりが立つ
◎土ぼこりが立つと目に入って目が見えない人が増える
◎目が見えない人は三味線を買う(三味線を弾いて暮らす盲人が多かったため)
◎三味線が売れるとネコが減る(三味線にはネコの皮が使われる)
◎ネコが減るとネズミが増える
◎ネズミが増えると桶をかじる
◎皆が桶を買うので桶屋が儲かる

これは因果関係の連鎖なのですが,何が面白いのかというと,最初の風が吹くことと,桶屋が儲かるのところにはまったく因果関係がなさそうに見えることです。

桶屋を避ける

「風が吹けば桶屋が儲かる」と同じようなことは,心理学の研究でもできるのです。たとえば,お互いに相関関係があるものを順に並べていけば,いくらでもそれをつくることができます。

たとえば,
[外向性]→[友人数]→[充実感]→[自尊感情]→[ナルシシズム]→[攻撃性]
というように,お互いに関連があるものを並べていけば,何でも因果関係の連鎖のようなものがつくれてしまうのです。こうすることで,心理学における「風が吹けば桶屋が儲かる」の出来上がりです。

でも,それで良いのでしょうか?何でもできてしまう状態は,事実ではないプロセスをいくらでも生み出してしまう可能性があることを意味します。

では,どうすれば良いのでしょうか。

関連をつなぐ

「風が吹けば桶屋が儲かる」を避けるためのひとつの考え方は,そもそも最初から関連がある関係のところに,それらの間に何かを挟むことで,媒介させる変数が有効かどうかを検討するというものです。

運動量と幸福感のように,もともとある程度関連が観察されるものの間に,体調のような媒介要因を挟むということです。

関連をつなぐ要素を入れる,と考えても良いかもしれません。そうすれば風が吹けば桶屋が儲かるのような,荒唐無稽なつながりにはなりにくいと言えます。

直接の関連が少なくなる

下の図の1.の(a)の関連(因果関係)があるとします。そこに2.のように,体調を挟みます。すると,(b)と(c)のことろに新たなつながりができます。

そして,1.と2.を比較する時,(a)に比べて(a’)の数値の大きさが明らかに小さくなっていれば,「媒介効果が見られた」つまり,間を経由する効果が十分に見られそうだ,と考えます。

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実際の分析のためには,「媒介分析」「共分散構造分析」「構造方程式モデリング」「Sobelテスト」「ブートストラップ法」といったキーワードで検索すると良いでしょう。あれこれと方法がヒットしてくるはずです。今回は具体的な分析方法には触れずに,考え方だけ押さえておきます。

シンプルだけど役に立つ

関連の間に変数を挟むだけ,というとてもシンプルなモデルなのですが,ちゃんとこれを研究として意味のあるものにするためには,先行研究のレビューが欠かせません

まず,すでにある変数と別の変数との間に関連や因果関係が検討されていることが必要です。

そして,間をつなぐ変数を理論的に想定します。なんとなく「こうじゃないかな」と考えるのではなく,とある理論から考えると,間にこの変数が挟まるかもしれない,ということを想定します。

もちろん,その間をつなぐ関係がこれまでにどの研究でも行われていなければラッキーです。なぜなら,その媒介効果の検討は,新たな発見につながるからです。

シンプルな考え方ですが,卒論などでアイデアを考える時の参考にしてもらえればと思います。単純な「関連」の仮説から一歩先に進めてみましょう。


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